No.097
「地域おこし協力隊」として母校の「三笠高校生レストラン」で活躍。22歳で三笠市唯一のカフェを開業し、“食”のまちを盛り上げる!
三笠市地域おこし協力隊 隊員 2 Beans Coffee オーナー
上西 歩夢(じょうにし あゆむ)さん
profile.
北海道旭川市出身。三笠市立 北海道三笠高等学校の食物調理科 製菓コースを経て、エコール 辻󠄀 東京 辻󠄀製菓マスターカレッジに進学。2016年に卒業後、東京のパティスリーを経て、『スタンダードコーヒー』で働き、コーヒーソムリエの資格を取得。地元旭川市に戻ると、老舗菓子店『壺屋総本店』で修業し、いくつか商品開発も担当。2018年8月には「三笠市地域おこし協力隊」に入り、三笠市へ移住。12月からクラウドファンディングにより資金を集め、翌年4月に『2 Beans Coffee』を開業。現在は、ワインソムリエ、北海道フードマイスターなどの資格取得に向けても勉強中。
access_time 2019.08.02
製菓に目覚め、道内の公立高校で唯一となる食物調理専門の新設校へ。
北海道旭川市に生まれ、幼い頃からものづくり全般が好きだった。お菓子づくりに目覚めたのは、小学校高学年。母親について製菓材料店へ行ったことが契機となった。
「お菓子教室開催のチラシを見かけ、頼み込んで参加したんですよ。そのときつくったシフォンケーキがあまりにもおいしくて(笑)。材料が変化していくのも面白いし、後日つくって学校の先生らに持って行ったら喜んでもらえるしで、その後もシフォンケーキばかりつくっていました」
中学に入るとテレビをきっかけに料理にも興味を持ち始め、週に何度かは自宅の夕食をつくるように。3年生になると、道内の公立高校で唯一、食物調理の単科校となる北海道三笠高等学校が新設されることを、親しい先生から教えてもらった。
「美術部にも入っていたので、新設を知らない間は、工芸高校か家庭科メインの高校に進もうかと。だけど説明会に参加して、三笠が志望校になりました」
北海道三笠高校時代
こうして同校の製菓コースに進学し、部活動では調理部に所属。製菓か調理か、どちらの道へ進むのか決めかねていたが、学ぶうちにお菓子づくりの魅力にのめり込んでいく。
「お菓子って科学的でしょ。『ここでしっかり混ぜるのには、こういう理由があったのか!』なんて知れるのが楽しいし、思い通りにできたら本当にうれしい。お菓子づくりがどんどん好きになっていきました」
北海道三笠高校時代
再挑戦した「スイーツ甲子園」では地区予選を突破し、本選に出場。
1年次の8月には「北海道米粉料理コンクール」にシュークリームのレシピで参加し、最優秀賞を受賞した。冬になると、製菓部の新設に奮闘。調理部から移籍し、2年次のはじめには「スイーツ甲子園」へ参加することに。
「北海道米粉料理コンクール」にて
「3人1組で応募したところ、自分たちのチームが書類選考を突破して、北海道東北ブロックに進出できたんですよ。結局、この地区予選で落ちたんですが、審査員の方から助言をいただき、来年こそはと火がつきました」
以降、応募できるコンクールにはすべて参加。そのたびに一つずつ目標を立てて勉強し、どんどん知識を吸収していった。そして迎えた3年次の「スイーツ甲子園」
「スイーツ甲子園」本選出展作品
「今度は地区予選を突破し、東京で行われた本選に出場できました。結果、ベスト3には入れなかったんですが、審査員だった有名ショコラティエのシェフから『自分のなかでは断トツの1位だった』と教えていただき、とてもうれしかったです。何より挑戦する過程でスキルアップできたことが身になりました」
「スイーツ甲子園」にて
高校卒業後もさらに勉強を続けたい。そう考えて、最初は北海道の専門学校を探していたが、意識の高い後輩と出会ったことで、新たな選択肢を手に入れる。
「親がホテルの料理長をやっているという優秀な後輩だったんですよ。その子が入学時から進学を決めていたというエコール 辻󠄀のことを教えてくれたので、札幌であった説明会に参加したところ、見せてもらった飴細工に圧倒されて…。教えてもらったお菓子の理論にも感動。あまりのレベルの高さに、ここしかないと考えるようになりました」
エコール 辻󠄀 東京時代
あまりにも授業が楽しくて、高校の同級生に「やばい」と即連絡した。
こうしてエコール 辻󠄀 東京に進学。最初に受けた、フルーツシロップづくりの授業が今でも印象に残っていると振り返る。
エコール 辻󠄀 東京時代
「あまりにも楽しくて、高校の同級生に『辻󠄀やばい』って連絡しましたからね(笑)。まずは好きにつくってみてから、答え合わせをするんですが、糖度や糖価、ボーメ(比重の計量単位)の話も全然わかっていなくて…。悔しさと面白さが相まって、とても刺激になりました」
実習に限らず座学も含め、すべての授業が楽しかった。高校時代に学んだ効果もあり、最初の筆記テストでは全教科満点を獲得。
「担任の先生に『天才かよ!』と褒められて(笑)。その言葉をまた言われたくて、勉強にもさらに熱が入りました。コンクールにも積極的に参加しましたし、スキルアップのための別科授業も可能な限り受講。辻󠄀にいる期間で、できるものは全部やろうと考えていました」
初めて飲んだカフェラテに感激。コーヒーを学び、カフェが大好きに。
卒業後は都内のパティスリーに就職。しかしそれまで自由にやってきたお菓子づくりとのギャップを感じ、初めての挫折を経験した。
「いろいろやらせてはもらえたんですが、手作業以外のルーティンが多く、つくる量もハンパなくて…。体力的にも厳しく、お菓子づくりが嫌になってしまったんです」
そんなときに思い浮かんだのがカフェだった。帰省時に札幌で初めてカフェラテを飲み、あまりのおいしさに感激。以降、コーヒーが好きになり、カフェに魅力を感じていた。
「それでエスプレッソやハンドドリップ、ラテアートもすべてやっていた『スタンダードコーヒー』でアルバイトを始めました。自宅近くの店舗へ行くと、たまたま店長が辻󠄀調グループの卒業生だったんですよ。勉強したいという意欲にも理解があり、サンドイッチなども早い段階からつくらせてもらって。閉店後に練習を重ねたラテも、OKをもらってからはバリスタのポジションへ。オフィスビルにあり、かなりの杯数が出るお店だったので、短期間でとても勉強になりました」
実家に戻って老舗菓子店へ。商品開発にも携わり、やりがいを実感。
一通り学ぶと、将来を見つめ直すためにも実家へ戻ることに。家で徐々にお菓子をつくるようになると、再び製菓への意欲が高まり、旭川市の老舗菓子店『壺屋総本店』の工房で働くことにした。
「最初は計量の補助から始めたんですが、1カ月ほどで生地の仕込みをやらせてもらえるようになりました。夏場になると何度やってもうまくできない生地があるというので、学生時代に得た知識をもとに改良してみたところ成功して。おかげで高く評価してもらえるようになりました」
クリスマスには5,000台ものケーキをスタッフ総出で手がける。なかでも難しいデコレーションの“絞り”に、上西さんは初年度から製造部長と2人で携わらせてもらったという。
「量が量だけに、短期間で格段に上達できてありがたかったですね。とても自由に学ばせてもらえる職場でした。自主的に商品開発も行い提案したところ、発売されることになったんですよ。一番の売上げだったと販売店から報告を受けたり、購入されたお客様によるSNSの投稿を見たり…。自分が開発した商品への反応が知れて、すごくうれしかったです」
「三笠高校生レストラン」で活性化を図る「地域おこし協力隊」に。
休みの日には北海道中のカフェを巡り、いつかは自分も開きたいとイメージをふくらませた。仕事でも多くの経験を得て、次の展開を思案していたところ、2018年の7月、三笠高等学校の生徒が運営する「三笠高校生レストラン」がオープンするという情報を目にする。“食”を中心としたまちづくりを進めている三笠市。レストランのさらなる活用法を考え実行するスタッフとして、「地域おこし協力隊」の募集もあわせて行われるという。
「今に続く道をつくってくれた三笠は第二の故郷。“食”にまつわることで大好きな三笠に恩返しができるならと、すぐに申し込み、経験も評価されて採用が決定、8月には移住しました」
人口減少や高齢化が進んでいる地域において、外部からの視点で活性化を図ろうという取り組みが「地域おこし協力隊」の活動だ。「三笠高校生レストラン」でまず手がけたのが、地域の人たちに向けたお菓子教室。もともと人に教えることが好きな上西さんにとって、とても楽しい仕事だったという。
「三笠高校生レストラン」(お菓子教室)
「これまで身につけた知識や技術も活かせますしね。なかには子供連れの方もいて。僕が、参加者のお菓子作りにはまったきっかけみたいになればうれしいなと」
一方で、移住してからは、読書にかける時間も増えた。将来に向けてビジネス書も読むようになり、大いに刺激を受けていく。
「もともと30歳ぐらいで独立できればと思っていたんですが、8年後に今の8倍以上のレベルで起業できるわけではない。ならば30歳で起業1年目より8年目を迎えたほうがいいのではと考えるようになりました」
クラウドファンディングで賛同者を募り、若くしてカフェの開業へ。
市外からでも「わざわざ行きたくなるカフェ」をつくれば、“食”によるまちづくりの一助になれるのではないか。おいしいコーヒーや手づくりスイーツを提供したい。北海道のほぼ中心にある地の利を活かし、道内のおいしいスイーツも紹介したい。構想はどんどんふくらんでいったが、なかなか最初の一歩が踏みだせない。そんなときに知ったのが、クラウドファンディング。インターネットを通して自分の夢や活動を発信することで、応援したいと思ってくれる人から資金を募るシステムのことだ。
「すぐさま『地域おこし協力隊』の上司に相談しながら内容を詰めて、昨年(2018年)の12月に募集を始めました。資金調達よりも、想いに賛同してくれる人を増やして、あとに引けない状況にすることが大きな目的だったんですが…商工会の方が空き物件を紹介してくれたり、知らないところで協賛金を募ってくださる方もいたりと、皆さんの働きかけで一気に進んでいきました」
お菓子教室の際にも、「市内にカフェがないのでつくってほしい」「のんびりと過ごせる場所が欲しい」「夜までやっている飲食店があると助かる」といった声をもらい、自分のやりたいことが求められているものだったと実感できた。そしておよそ1カ月の間で目標金額を達成。思いの丈をつづったサイトを約8,000もの人が見てくれたのも、大きな収穫だった。
本当にやりたい気持ちをもって突き進めば、まわりも協力してくれる。
これまで巡ったお気に入りのカフェを参考に、空き店舗をDIYメインで改装。市の人口の半分を占めるお年寄りでも落ち着ける、居心地のいいカフェをめざした。そして2019年4月25日に『2 Beans Coffee』をオープン。初めてつくったシフォンケーキのレシピをもとにした「絹のケーキ」は、今も看板メニューになっている。
「ありがたいことに、提供しているもの全部がおいしいと好評です。現在は、『地域おこし協力隊』の勤務時間後に営業しているんですが、隣の岩見沢市にも夜にやっているカフェがないらしく、お仕事の打ち合わせなど、思っていた以上に活用してもらえています。高校生でも来やすいよう価格もかなり抑えていて…」
「自分の高校時代にも、行ける場所がなかったですからね(苦笑)。車もないし、気になるお菓子も自分たちでは買いに行けないから、寮の友だちと取り寄せてシェアしたりしていたので、その助けにもなればと。実際、よく来てくれ、相談事など何かと頼ってもらえています」
5月からは「三笠高校生レストラン」において、隔週の「夜間スイーツコース」をスタート。卵や小麦粉について学んだうえでシュークリームをつくり、生地がなぜふくらむのかを学んでいくなど、地域の人々に対し8回1セットで、わかりやすく理論から教えている。
「三笠市を“食”で盛り上げていきたい。ゆくゆくは母校に製菓技術を還元したいし、経営のノウハウを身につけて、後輩の起業支援もしていきたいです。本当にやりたい気持ちをもって突き進めば、まわりもそれを感じて協力してくれ、自分もやりやすい環境になっていく。そう実感しています。楽しいと思えることに向けてひたすら頑張れば、いい道に流れるんだと後輩たちにも伝えていきたいです」
エコール 辻󠄀 東京
辻󠄀製菓マスターカレッジ
(現:辻󠄀調理師専門学校 東京)
お菓子をつくり、味わい、集中して製菓の基本と応用を学びとる。
多くのお菓子と出会うことで、
基礎と応用を徹底的にマスター。
お菓子をつくる仕事に就く自信や誇りにつながる1年間。
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