INTERVIEW

師匠の味と人柄に惚れ込み、和菓子屋に弟子入り志願。才能を越える努力で楽しむことを忘れずに頑張り続け、24歳の若さで名店の工場長に。

御菓子司 吉乃屋 松原店 工場長
堂浦 大輔さん

profile.

大阪府出身。辻製菓専門学校を2013年に卒業後、大阪府松原市の和菓子屋『御菓子司 吉乃屋 松原店』に就職。修業を重ね、2018年4月、工場長に就任。現在に至る。

「この味を表現できるようになりたい」という想いに突き動かされた。

「父が大工をやっていたこともあり、手に職をつけたいと思っていました。せっかくなら自分が好きなものをつくりたいと、地元大阪の辻製菓専門学校へ。入学するまではパティシエ志望だったんですが、授業を通じて、それまでなじみのなかった和菓子にふれ、そのおいしさに強く惹かれました。一つずつ仕上げる手づくり感も楽しくて…。美しい上生菓子をはじめ、見たこともない魅力的な和菓子を次々と知り、のめりこんでいきました」
辻製菓専門学校時代
入学後の早い段階から和菓子の道に進むことを決め、和菓子屋を食べ歩くようになった。そんななか、2012年6月に初めて訪れた『御菓子司 吉乃屋 松原店』(以下、『吉乃屋』)で衝撃を受ける。
「何を食べても抜群においしくて…。甘さ控えめで素材本来の甘みが感じられ、特に名代の『まったら最中』には惚れました。餡と皮が別になっていて、餡はあっさりしていながらすごく風味がある。粒もなるべく潰さないように焚き上げている。『この味を表現できるようになりたい』と強く感じました」
『まったら最中』
「それから何度も通ったものの、当時はお店と工場が分かれていたので、師匠(店主の中西信治さん)と初めてお会いしたのは就活の会社訪問時。年配の頑固な職人さんを想像していたんですが、こんなにも若くて温かいオーラの人が笑顔で迎えてくれ、それにも衝撃を受けました」
「味にも人柄にも惚れ、もうここしかないなと。ほかは考えられなかったんで、就活というより弟子入り志願ですね(笑)。働きたいことを必死にアピールし続けました」
左から 店主の中西さん 堂浦さん 石森さん
「あのときの勢いはすごかった」と中西さんも当時を振り返る。
「ホンマに気持ち悪いぐらい来てくれて、ストーカーみたいでしたよ(笑)。それまでは、良い子がいたら採用して、いなかったら見送ろう…ぐらいに考えていたんですが、彼の熱い想いが胸に響いて、一緒にやっていきたいなと」(中西さん)

人一倍、努力を重ねた学生時代。仲間との絆が、今につながっている。

大阪府松原市『吉乃屋』の創業は2000年7月。和菓子屋の次男として生まれ、幼い頃から和菓子が大好きだった中西さんが、実家での修業を経て、妻・幸さんとともに独立開業した。お店のテーマは“笑顔”。 「一菓一笑(いっかいちえ)」~ひとつのお菓子でひとつの笑顔~をモットーに掲げ、お客様も自分たちも笑顔になれる店づくりを進めてきた。
「イチから育てようと採用したのは堂浦が初めてのこと。もう父親目線で、人としても、男としても、社会人としても、技術者としても、経営者としても、いろいろなことを全部教えると伝え、9月には採用を決めました」
「その後、平日は学校の授業が終わってから、土日は朝から晩まで、アルバイトに来てもらって。すべてできるようになるまでは販売を経験させる予定だったんですが、とても頑張り屋で想定より早く仕事を覚え、卒業後の4月からすぐ製造に入らせました」(中西さん)
それからは中西さんの横につきっきりで仕事を学んだ。ついていくのが必死だったが、懸命にメモをとり、一度言われたことは着実に覚えていった。
「吉乃屋ではすべての餡を豆からつくります。和菓子は餡が命。普通なら1年目から触れるようなものではないんですが、師匠の計らいで11月頃には指導してもらえるようになりました」
「ノートをとるくせがついたのは学生時代。同じクラスに、なんでも器用にこなす天才肌の友人がいたんですよね。おかげで自分はセンスや才能に恵まれたタイプじゃないとわかり(笑)、だったら練習も勉強も人一倍やるしかないなと。担任の先生から、僕たちのグループの伸びが悪いと指摘され、自ら厳しくしてくださいとお願いしたこともありました。学ぶ姿勢の大切さに気がついたのもこの頃。実習がつらくなるくらいでしたが、その分、予習復習のくせもつきました」(堂浦さん)
「負けず嫌いだったので、ナニクソ根性で這い上がってやろうと、努力で上達していきました。学校で培った一番の財産は、仲間との絆。競い合えると同時に教え合える関係が築け、今につながっています」(堂浦さん) 

自分で考えてつくれる喜びを早くから味わうことが、さらなる成長に。

2年目からは、中西さんが役員を務める菓子研究団体「大阪二六会」や経営者団体「大阪府生菓子青年クラブ」の活動にも参加。さまざまな講習を受けたり事業を手伝ったりしながら、広く和菓子について学んでいく。中西さんの勧めにより、菓子製造技能士2級の試験には受験資格を得た直後にトライし合格。3年目には、新商品の開発にも挑戦させてもらった。
『まつばら花街道』
「辻製菓で学んだクレームダマンド(アーモンドを使ったクリーム)がすごく好きだったので、この味を和菓子に転化できないかと考え、白餡と一緒に練り上げた焼き菓子をつくりました。『こもれび』という名前もパッケージも、すべて自分で考えさせてもらえ、お菓子づくりだけじゃない部分も勉強できてありがたかったです。お客様から『おいしい』と笑顔をもらえたのが本当にうれしく、その後の励みにもなりました」(堂浦さん)
堂浦さん作の商品『こもれび』
『こもれび』は大好評を博し、秋から冬にかけての定番商品に。毎年、発売の季節を楽しみにしてくれるファンも多いという。早い段階での商品開発への挑戦について、中西さんはこう語る。
「自分で考えてつくれる喜びを、早く味わわせたかったんですよね。製造の時間やコストがかかりすぎても、商品として成り立ちません。そのあたりも自分で考えさせることで、また一段と伸びるきっかけになりました」(中西さん)
近頃では「大阪二六会」や「大阪府生菓子協同組合」の講習会で中西さんだけでなく他店オーナーの助手を務めるなど、同業者からの評価も高まっている。周囲の推薦により、2017年には4年に1度開かれる「全国菓子大博覧会」への出品も実現させた。
「今は直接、仕事に関係ないことでも、無駄なことなんて一つもなく、すべての経験がプラスになる。そう師匠に教わり、ご縁を大事にしてきたからこそ、いろんなお声をかけてもらえるようになってきました」
「人とのつながりの大切さは師匠のふるまいを見て学びました。職人である以前に人としてどうあるべきかという考え方や、常に謙虚かつ積極的に学び続け、海外でも和菓子教室を開くなど、活発に活動されていることにも憧れを持っています」(堂浦さん)
『水羊羹』

楽しくお菓子をつくることで皆さんの笑顔もつくれる素晴らしい仕事。

松原市の食材を大切にし、地域に根差した商品展開で、地元の人たちに愛されてきた『吉乃屋』。長らく工場と店舗の距離がネックだったが、すぐそばに工場併設型の店舗を構えられる場所が見つかり、2017年10月に現在地へ移転。製造力アップを図ろうと、中西さんは、新たな人材を採用し、堂浦さんを工場長に据えることにした。
『抹茶 窯焼き餅パイ』
「師匠から工場長のお話をいただいたとき、うれしい反面、怖さもありました。ほかのお店の工場長さんといえば、40~50代ぐらいの方ばかり。自分に務まるのか不安だったんですが、師匠から『立場が人を変え、役職が人をつくる』というお言葉をもらったことで、『ぜひやらせてください』とお願いしました」(堂浦さん)
こうして2018年4月から新体制がスタート。新入社員となったのは、堂浦さんと同じく辻製菓専門学校を卒業した石森夢乃さんだ。
「私も最初は洋菓子志向だったんですが、学ぶなかで四季を表す色彩や日本人特有の表現に感動し、和菓子にのめり込んでいきました。『吉乃屋』を希望したのは、味はもちろん、笑顔に包まれた温かい雰囲気を好きになったから」(石森さん)
「就職先を探すなかで、どうしても外せなかったのが“笑顔”です。学校の先生からの『楽しくないと、おいしいお菓子はつくれない』という教えが心に響き、笑顔を大切にしているお店で働きたかったんですが、初めてお会いした師匠の笑顔が本当に素敵で、『この人についていきたい』と感じました。堂浦さんもまさにそうで。私がやることをすべて見守って指導してくれ、すごく頼もしいです。一緒に仕事ができて楽しいし、堂浦さんが先輩で本当に良かったなと思っています」(石森さん)
「将来、石森も表に出るようになったら、『吉乃屋』の看板を背負うことになるわけですからね。師匠の顔に泥を塗るようなことだけは、絶対にあってはダメだと常々言い続けています。もしも後輩がそうしてしまったら、先輩である僕の責任。しっかりと教えていかないと」(堂浦さん)
「石森はツイてると思いますよ。堂浦は、自分で努力して覚えたことを、惜しげもなく彼女に教えていますからね(笑)。二人とも本当にいい子でありがたい。すごくいい関係が築けています。ただ頑張るんじゃなく、『楽しく頑張る』というのが僕は好きなんですよ。お菓子を怒って食べる人はいないでしょう? 楽しみながら皆さんの笑顔をつくれる、素晴らしい仕事だと思います」(中西さん)
夕方、その日の製造が終わると、工場のスタッフも接客をサポート。今でも店頭に立ち、お客様とのふれあいを大切にしている。
「やりがいは、やっぱりお客様の笑顔が見られること。地域の方に愛されているお店だということが、接客を通じて実感できます。そのお菓子づくりに自分が携われていると思うと、うれしくて誇らしいです」(石森さん)
「これが中西イズムです(笑)。僕も入社のときから、まったく同じ想いでやっています。お店によっては職人がお客さんの前に立てないところもありますが、お客様あっての仕事。お客様の顔を見ると、中途半端なお菓子もつくれませんからね」(堂浦さん)
「楽しんでお菓子づくりを続けることって、実は難しいことなのかもしれませんが、僕と石森はいい師匠に出会えたから、学生時代に描いた憧れをそのままに、今も楽しくお菓子づくりができていて幸せです。夢があって、本当に楽しい業界だと感じています。僕の夢は、自分でお店を経営すること。だけどまだまだ、学ぶべきことばかりです。今は工場長になって間もないので、まずは誰からも信頼される工場長になることが目標です」(堂浦さん)

堂浦 大輔さんの卒業校

辻製菓専門学校 launch

辻製菓専門学校

洋菓子・和菓子・パンを総合的に学ぶ
フランス・ドイツ・ウィーンの伝統菓子から和菓子や製パンまで、多彩なジャンルでの学びを深めながら、クオリティの高い製菓技術を習得。あらゆる現場に生かされる広い視野を養い、
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