INTERVIEW
No.012

「日本のイタリア料理」を世界に発信し、誰もが憧れるジャンルにしたい。

IL TEATRINO DA SALONE(イル テアトリーノ ダ サローネ) シェフ

山口 智也 さん

profile.
広島県出身。辻󠄀調理師専門学校から辻󠄀調理技術研究所に進学し、2008年卒業。大阪『ポンテベッキオ』で経験を重ね、イタリアへ。ウンブリア州ペルージャ『オステリア バルトロ』、ピエモンテ州トリノ『リストランテ ラ・バリック』にて修業後、東京・中目黒『リストランテ カシーナ カナミッラ』スーシェフを経て、サローネグループに入社。旗艦店の『サローネ2007』をはじめ各店で経験を積み、2017年3月、『イル テアトリーノ ダ サローネ』の5代目シェフに就任。
access_time 2017.06.16

吸い込まれるような授業に感動して、イタリアンの道へと進んだ。

「きっかけは正直、覚えていないんですよ。それぐらい昔から、この道に進むものだと思っていました。僕らが幼い頃は料理系の番組も多く、日常的に目にして憧れていたんでしょう。イタリアンを選んだ決め手は、辻󠄀調の1年目、外来の講師だった『ポンテベッキオ』の山根シェフの授業を受けたこと。各素材のおいしさを最大限に引き出す『最適調理』のノウハウなど、すごくわかりやすく、吸い込まれるような内容で。それが最初の就職にもつながりました」
文化の懸け橋になったとイタリア政府から表彰も受けた名店、大阪の『ポンテベッキオ』で経験を積み、本場イタリアへ渡った。さらなる高みをめざし、星つきのレストランに連絡をとり、採用されたのがピエモンテの『リストランテ ラ バリック』だった。
「日本人スーシェフが辞めるからと、ポジションは違うものの代わりに入りました。これまで現地で活躍されてきた方々のおかげで、イタリアでの日本人の評価はめちゃくちゃ高いんですよ。ただ、現地で個人の技術は認められているものの、イタリア料理店として世界に届く発信ができているかといえば、最近はそうでもない。それをどうにかしたい、という思いが、いまにつながっています」

別世界に連れて行ってくれるような、イタリアンの隆盛を取り戻したい。

「僕が辻󠄀調にいた10年ほど前は、イタリアンの波が来ていたんですが、いまはカジュアルなお店は増えているけど、別世界に連れて行ってくれるような高級イタリアンが下火気味。状況を変えるためには、日本のイタリアンの立ち位置を押し上げていく必要があります。それができるのは、やはり組織力のある会社。そう考えて、サローネグループに入りました」
2007年、横浜に『サローネ2007』をオープンさせ、現在6店舗となっているサローネグループは、飲食業界において先進的な会社だ。日曜が定休日で隔週に連休を設け、お盆や年末年始にも1週間の休みがある。ゴールデンウィークにも連休をとり、クリスマスですら日曜なら休みのまま。
「労働環境も入社の大きな理由です。子どもが産まれ、家庭の時間も大切にしたかったので。飲食業界の体質改善に努めている部分にも賛同し、ゆくゆくはグループを統括する立場になりたいと伝え、入社に至りました。物事がトップダウンで決まることは一切なく、若手の意見でもどんどん取り入れる。新たに出店するときは、店名もみんなで考えます。とてもフラットな人間関係の会社ですよ」

料理人としてのクリエイティビティを最大限に発揮できる恵まれた環境。

「多店舗展開しているグループの多くはオーナーシェフの料理を各店でもベースにしていますが、うちは基本的に全店100%、各店のシェフに一任されています。だから各店の料理を食べると、シェフが現地で学んできたことが感じられて面白い。料理人としてのクリエイティビティを最大限に発揮できる、恵まれた環境です」
サローネグループには、「イタリアから帰ってきた人のプラットホームに」というコンセプトがある。現地イタリアで得たものを日本で発揮する場として活用し、ステップアップにつなげてほしい。そう考えている。サローネの出身者が外に出てオーナーやシェフとなり評価されることで、グループも盛り上がるという発想だ。
「既存のお店には、それぞれカラーがありますからね。イタリアで感じたフレッシュなことを、日本ですぐに表現できるのは貴重です。このお店も、先月まではナポリなど南イタリアで長くやっていたシェフだったので、南の空気がすごく強い料理でしたが、僕のルーツは北部。常連のお客様から『違う店に来たみたい』と言われます。そこでグループとして大事にしているのが、空間が楽しい店づくり。シェフが替わり味が変わっても、お客様が変わらず通い続けてくださる付加価値をつくりあげています。とはいえ、毎月食後に次の予約をして帰ってくださっていた常連のお客様から、それを言われなかったらどうしようと、ドキドキしますけどね(笑)」

おいしい料理をつくるのは当たり前。それ以上の付加価値を。

「昨日、1週間前にいらしたお客様がまた来てくださったんです。月替わりのメニューもまだ同じだったので、ソックリさんかと思ました(笑)。聞けば、『めちゃくちゃおいしくて、友人にも食べてほしかったから連れて来た』と…。これには感激しましたね。やはり何より、また来てくださるのが一番うれしい。わかりやすくやりがいを見いだせる部分です」
店名にある「テアトリーノ」とは、「小さな劇場」という意味。カウンター席は、料理とサービスをライブ感覚で楽しめる特等席だ。間近に見るシェフの技やスタッフとの会話を通して、ゲストは特別な空間と時間を満喫できる。
「こういうお店なので、直接、お客様と話す機会が多いんですよ。コースに込めた意図の説明まで含めて僕の料理だと思っているので、皿にだけ集中していればいい、というタイプとは真逆かもしれません。おいしい料理をつくるのは、当たり前のレベルでできなきゃいけない。それ以上の価値を提供することが必要なんです」

現地での記憶を切り取り、現地での経験を掘り下げて、日本で発信。

イタリア現地で使われていない食材は使わないこと、現地で料理として成立しないものはつくらないこと。その点は、グループ共通のルールとしている。
「創作料理ではなく、イタリア料理であることを大事にしているからです。いろんな考え方があるでしょうが、僕自身、その制約はすごくいいと思っています。もちろん既存の料理をそのまま出すだけではなく、食材や調理法を組み合わせ、あくまでもイタリア料理として出す。おかげで現地での記憶を切り取り、現地での経験を掘り下げて、日本で発信できています」
一方で、世界に発信することを考えると、日本人のアイデンティティを入れる必要はある。そう考え、食器や雰囲気、コースの流れに日本の要素を取り入れているという。
「たとえば、コースの最後には定番で、『トルテッリーニ・イン・ブロード』を出しているんですよ。お肉の出汁に小さなパスタを浮かべたメニューなんですが、この流れはイタリアでは主流じゃない。たまたま現地でイレギュラーで出たことがあって、シメのおみそ汁のような感覚を覚えたんですね。日本人にとっては落ち着きを感じ、外国人にとっては和を感じる工夫も凝らしています」

もっとイタリアンに感動をつくれたら、世界に発信できる基盤も強まるはず。

コースの10皿中、月替わりで7皿が一新される。その内容は、シェフ以外も一人一本コースを考え、内容が良ければ積極的に取り入れるという。
「自分自身がお店に参加している感覚をつくるようにしています。駆け出しの頃って、モチベーション維持がすごく難しいでしょう? 僕らもゆとり世代なので、よくわかるんです(笑)。お客様に評価されたら、『実はコイツが考えたんですよ』なんて紹介できたらうれしいですね」
トップダウンではない空気感は、キッチンとホールの間にも表出。フラットに言い合える関係が築けている。
「ホールから料理に対する注文も出てきますよ。『ワインと100%合わせるために、ソースを2割増しにしてほしい』とか。それで料理の構成が崩れないなら尊重するべきだし、そういう関係性がグループの強みになっていると思います」
独立開業は考えていない。めざすところは、一国一城の主ではなく、業界そのものの地位向上。なかでも世界における日本のイタリアンの地位を確固たるものにしたいと願う。
「昨年の2016年、本店の『サローネ2007』が口コミサイトのランキングでイタリアン部門の全国1位をとったんですが、総合だと23位だったんですよね。その上はフレンチと和食ばかり。もっとイタリアンに感動をつくれたら、憧れる若者も増えて、世界に発信できる基盤も強まるはず。幼い頃の僕が感じたみたいに、誰もが夢を感じられるようにしたいですね」

山口 智也 さんの卒業校

辻󠄀調理師専門学校 launch

辻󠄀調理師専門学校

西洋・日本・中国料理を総合的に学ぶ

食の仕事にたずさわるさまざまな「食業人」を目指す専門学校。1年制、2年制の学科に加え、2016年からはより学びを深める3年制学科がスタート。世界各国の料理にふれ、味わいながら、自分の可能と目指す方向を見極める。
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