INTERVIEW

お客様の喜びを生み出すことで、自分自身も成長でき、喜びへとつながっていく。こんな素晴らしい業種はありません。

ル・クロ グループ オーナーシェフ
黒岩 功さん

profile.

鹿児島県出身。辻調理師専門学校を1986年に卒業後、全国司厨士協会の調理師派遣メンバーとしてスイスへ。その後、フランスに渡り、二つ星の『ジラール・ベッソン』、三つ星の『タイユヴァン』、『ラ・コート・サンジャック』で修業を重ねる。帰国後は大阪や京都の有名料理店でスー・シェフ、料理長を務めたのち、2000年に独立。フレンチレストラン『ル・クロ』をはじめ、大阪市に3店を展開し、‘12年にはパリにも出店。‘14年には、兵庫県丹波市に校舎を改装した『ル・クロ丹波邸』をオープン。レストラン事業のみならず、ブライダル事業、人材派遣事業、ケータリング事業、プロデュース事業、福祉事業、出版事業など幅広く活躍。料理教室の講師や、食育をはじめとする講演などの活動も積極的に行っている。

料理の世界でなら輝ける。コンプレックスを克服できる。

幼い頃から身体が弱く、運動も勉強もできない劣等生だった。家庭にも問題を抱え、コンプレックスの塊だった。しかし小学4年の授業参観日。家庭科の授業で見事なキャベツの千切りを披露すると、先生も同級生も驚き、一瞬にしてヒーローになれた。以前から自炊をしていた自分にとっては当たり前のことだったが、両親は号泣して喜んだ。料理の世界でなら輝ける。そう気づき、いまでは自分だけでなく、多くのスタッフたちを輝かせる立場になった。
「『こうなりたい』という未来と、現在地との差がコンプレックスです。それを克服できるプロセスが職場にあれば、給料以上の対価になりますよね。ただの労働だけなら限界がくるでしょうが、なりたい自分になれる環境ならどうですか? 好きなことをやりながら、自分が身につけていないものを手に入れられる。それが私たちのいる飲食、サービス業界なんです」

仕事の意味づけは働きながら強くなるもの。

なぜこの業界に入ったのか。誰のために、どうなりたいか。それを明確にすることで人は成長できる。とはいえ、まだ働いたことのない学生のうちに、強い信念をもつことは難しい。よほどの体験がなければ、確固たる夢も見つけにくいだろう。だからといって、不安がる必要はない。仕事の意味づけは、働きながら強まっていくものだと黒岩さんは語る。
「たとえば『ル・クロ・ド・マリアージュ』なら、結婚式の招待状とともにメニューリストをゲストに届け、あらかじめ選んでいただいた料理をサーブするのを特長としていますが、『こんなにも料理がおいしく、喜ばれる結婚式はどこにもない!』とスタッフ自身が体感することで、その仕事ぶりにも変化が現れます。自分の店や商品に自信をもてれば、自分に対する自信も出てくるんです」
業界や会社、店や職業の魅力を実感できたとき、「この世界で生きていきたい」、「この世界ならやっていける」といった確信や自信が芽生えてくる。仕事の意味づけが湧いてくれば、モチベーションは一気に高まり、自然と自身で目標を見出し、みるみる成長していく。

一度辞めた社員がまた戻って来るレストラン。

多くの店で修業を重ね、自身の店をもつ。飲食業界に転職や独立はつきものだ。ジャンルの転向も少なくない。ル・クロ グループもこれまでに数多くの料理人を育て、卒業したメンバーもそれぞれの分野で活躍している。一方で、同グループには大きな特徴がある。時を経て、再び店に戻ってくるスタッフも多いのだ。いつしか業界内で、「一度辞めた社員が、また戻って来るレストラン」として知られるようになった。
「戻って来る理由は二つあると考えます。一つは、巣立つスタッフを認める文化があること。そもそも飲食業であってはならないのが、辞める=裏切りという考えです。いちばん大事なのは、新たな進路を言い出せる関係性をもっているかどうか。その人物を認め、称賛を送り、未来を応援できれば、良好な関係は続きます。
もう一つは、クレド(スタッフが心がけるべき組織の理念)で育てること。約束事が多いのは、確かに窮屈です。たとえばクレドのなかに、言い訳や愚痴を言わないことを掲げていますが、ある大型ホテルから戻って来たスタッフは、『派閥が多く、みんながそれぞれに不平不満を言うので、いるだけで苦痛だった』と語っていました。理念によって“強制”されているわけではなく、“共生”できていたんだと気づいてくれたんです」
ル・クロ・ド・クロ

この一席に座りたいと思われるだけの価値をつくれるかどうか。

ル・クロ グループは、飲食業でありサービス業のグループである。この理念が、大きな基盤になっている。おいしいものをつくることは大切だ。だが意識をお皿にのみ向け、「おいしいものさえつくっていれば、いずれ誰もが認めてくれる」かといえば、そうではない。そこには必ず、サービスが介在する。
ル・クロ・ド・マリアージュ
「レストランの商品は、一皿ではなく一席。そこに座りたいと思ってもらうだけの価値をつくるために日々、お客様の満足を追求しているのです。より良いものをめざし、まずはやってみる。うまくできれば、周りから認められ、褒められ、求められ、自信になる。これが成功体験となり、さらなる成長への意欲が湧き出てきます。反応がすぐに返ってくるのが、我々の仕事のいいところです。お客様を喜ばせながら自分自身も人間的に成長できる。なりたい自分に近づける。こんな素晴らしい業種はないと感じています」

人と夢を育てる畑にしたい。いい人間形成ができる場をつくりたい。

“チーム ル・クロ”の結束力は強い。まるで家族のような関係性だ。しかし、はじめからそうだったわけではない。オーナーである黒岩さん自身の学びを経て、いまがある。
「1号店から3号店までを、わずか4年の間に立ち上げて、周りからは順風満帆に思われましたが、実はそうでもなく。2号店では一度、“総あがり”を喰らっていますからね。ある朝、出勤したら10人近いメンバー全員から『辞めさせてください』って言われたんですよ。現場のリーダーが会社に不信感を抱いていれば、末端にまで伝わり、その職場はだめになる。リーダー教育の重要性を思い知ると同時に、会社やお店のめざすものと、スタッフの『こうなりたい』と思えるものが、同じ方向を向いていなければ成り立たないことにも気づきました」
ル・クロを人と夢を育てる畑にしたい。いい料理人を育てるのももちろんだが、その基盤として、いい人間形成ができる場をつくりたい。種を芽生えさせるには、スタッフに栄養を与える必要がある。その気づきが、ビジョンを共有できる、濃い組織づくりへとつながっていった。

ここで変わりたい、成長したいと願える環境をつくるのが我々の役目。

毎日、人と関わることで、気づかないうちに変わっていく。入社してきた1年目のスタッフの多くは、お盆の帰省時、両親から「変わったね」と言われることで、自身の変化に気づくという。
「スタッフのバックグラウンドには、この子たちの可能性を信じている親御さんがいることを、経営者やリーダーやスタッフがわかって関わるべきです。まだ自分の使っていない能力が引き出せて、『こんな人間像になりたい』という人間力を鍛えられるのが飲食業、サービス業です。鍛えるためには、リーダーがモチベーションの引き出し方を知っていることが大切です」
同じように注意を受けたとしても、関わり方が薄ければ、ただ怒りをぶつけられているように感じるかもしれないが、関わり方が濃ければ、自分がより良くなるために指導してくれているのだと感じるだろう。
「人が人を変えるなんて、自分の子どもだって無理です。僕らができるのは、ここで変わりたい、成長したいと願える環境をつくること。そしてスタッフの望む目標が見えてきたら、そこへと向かえるチャンスを与えること。それが僕たちオーナーシェフの役目です。飲食業は、なりたい自分の目標を達成できる場所なのだと、広く伝わってほしいですね」

黒岩 功さんの卒業校

辻調理師専門学校 launch