INTERVIEW

テーマは、コミュニケーションのある料理。日本全国にある素晴らしい食材と出会い、現地でしか得られないものを吸収して広く伝えたい。

SUGALABO シェフ
薬師神 陸さん

profile.

愛媛県西予市出身。辻調理師専門学校調理技術マネジメント学科を2009年に卒業後、教員として辻調グループに入職。2014年7月から須賀洋介シェフとタッグを組み、2015年4月の『SUGALABO』(東京・神谷町)オープンに尽力。現在も同店シェフとして国内外を飛び回っている。

地方食材に込められたストーリーを伝え、新たな出会いをつくっていく。

東京・神谷町駅近くのビル1階にある『SUGALABO』。“フレンチのアイアンシェフ”としも有名な須賀洋介シェフが代表を務めるラボラトリー(研究所)だ。「日本の素晴らしい食材・食器などをシェアし、プレゼンテーションするため」に、夜のみレストランとして完全紹介制でオープン。外からは入口すらもわからない。薬師神陸さんは、この特別な場所でシェフを務めている。
「食が好きな、一部のコアな会員をお客様としているので、幅広い知識が必要です。食に関して料理人以上にご存じの、グルメな方ばかりいらっしゃいますからね」
席数は20席。おおむね6~7人のスタッフでミーティングを重ね、約1カ月半ごとに替わるコースメニューを考える。その軸となるのが、日本全国からの素晴らしい食材。
鳥取県倉吉市より関金わさび
「月に1度、3、4日間ほどはお店を閉めて、食材探しの旅に出ています。多くは各地方自治体の方にアテンドしていただき、生産者さんのもとへ。現在は雑誌『婦人画報』さんと日本各地の優れた食材にスポットを当て紹介しています。アジアやヨーロッパなど、海外のイベントにも出向いているんですが、その際もやはりオールジャパンの食材。素晴らしい日本の食材、日本の生産者、日本の技術など食にまつわるコンテンツを国内外に発信し、新たな出会いをつくっていくのが我々のテーマです。やりがいしかありませんよ」
福岡県糸島の西田果樹園さんにて
料理を通じて食材に込められたストーリーを伝え、「現地に直接行って、現地で体感してみたい」と思わせる…そんな連鎖に情熱を傾けている。
「現地で過ごしてこそ感じることってありますからね。行った人間が使命感をもって食材のストーリーを伝えるのが『SUGALABO』のやり方。だからお客様に料理をお出しするときには調理の手を止め、生産者が伝えたいポイントを明確に紹介するように努めています。逆にお客様からの感想や情報も生産者に伝え、より良い生産につなげてもらう。こちらとしても派生した会話から知識が増え、技能が高まる。食を通じた連鎖で、好奇心が刺激され続けています」
山口県萩漁港での競り風景

学ぶほどに面白い。もっと勉強したいと教職に就き、生徒に育てられた。

自分が進むのは、食の道しかない。中学校へ入る前から、そう確信していたという薬師神さん。
「おじいちゃんっ子だったんですよ。6歳のときに父が事故で亡くなり、母が働くしかなかったから、家では祖父の田舎料理ばかり食べていました。料理が得意な人でして。魚のおろし方も一通り教えてもらったりして…でも小学5年のときに亡くなってしまって。母親と弟の3人暮らしになってしまったから、僕がつくるしかない。弟に食べさせなきゃ、という思いが強く、苦ではありませんでした」
中学3年生になると、大阪にある辻調理師専門学校のオープンキャンパスへ足を運んだ。当時は中学卒業後に進めるコースもあったが、事情を聞いた担当教員から、できることなら後々のキャリアに活かせることを学べる高校に行くのも大変意味のあることだとのアドバイスを受ける。そこで将来、出店するときのことを考え、高校へと進み、PCでの情報処理や会計など数字に関わる勉強をした。
「その後、2年制学科の1期生として進学したんですが、母親には地元愛媛の調理学校と何が違うんだって怒られましたよ(苦笑)。期間も倍だし、正直、学費も全然違ったし。だけどそれでも深く濃く学びたかったので、奨学金にも頼ってアルバイトをしながら通い、23歳になるまで返済し続けました。学ぶなかで、どんどんフランス料理に惹かれていきました。ずっと和食で育ってきた自分にとって、未知の世界でもありましたしね」
学べば学ぶほど面白い。学校には、食に関する情報が次々に集まってきて、第一線で活躍する外来講師もやって来る。まだまだ勉強したいという気持ちと合致し、辻調グループの職員になる道に。
「生徒のおかげで学べることも多かったです。恥ずかしいところは見せられないので、授業の準備でも、『俺ならこんな質問をするな』と思ったことは事前に調べるようにしていましたし。なんでも知っている人でありたかったんですよね。周りにもそんな先生方がいましたけど、一番訊きやすいのって若い先生じゃないですか。なのに答えが返ってこないのはイヤだなと思い、とにかく勉強しました」

未来の自分を想像できない…ゼロからのスタートに面白さを感じた。

いい教育者としてスキルを高めたい。その思いで知識も技術も貪欲に吸収していった。しかし5年が経ち、さらに幅広いものを見てみたいと思うようになった。
「ここに居るからこそ知れるものもあれば、外に出なければ知れない部分もありますからね。現場でガンガン働きたいというよりも、自分の幅を広げたいという思いが強かったです」
こうして東京のレストランへの転職を決めた。しかし東京に引っ越そうとしていた矢先、Facebookのメッセンジャーから連絡がきた。
「『初めまして須賀です』って。『どちらのスガさんでしょうか』…そうなりますよね(笑)。もちろん一方的には知っていましたが、知り合いでもなんでもなかったので」
ミシュランの星を世界一もつフランス料理界の重鎮、ジョエル・ロブション氏の右腕として活躍してきた須賀洋介シェフ。日本とフランスで経験を重ね、26歳の若さで六本木ヒルズにできた新店舗のエグゼクティブシェフに。その後、ラスベガス、ニューヨーク、台湾、パリで新店舗の立ち上げを牽引し、パリ本店の総料理長も務めた。そんな彼が、17年弱勤め上げたロブション・グループを退職し、日本に帰ってきたタイミングだったという。
「Facebookに共通の友人がいたので、退職されるという投稿をたまたま見たと。気になったので過去の投稿も見させてもらい、興味をもったから連絡したんですが、どこで働かれるんですか、いつこちらへ来られるんですか、一度カフェで会いませんか…って(笑)」
既存のレストランではなく、新しいコンセプトのお店をつくりたい。それを一緒にやらないかという誘いは、とてつもなく魅力的に映った。

オープン前、故郷を巡った食材探しの旅が、今のスタイルの原点に。

スタート時に集まったメンバーは皆、薬師神さんと同じくFacebookで呼び集められたという。もう1人のシェフ、中西浩平さんはフランスの三つ星店『フロコン・ド・セル』に勤務。ほかのメンバーもフランスや日本の店舗で働いていたため、なかなか早々には集まれない。時期と場所を整えた結果、2015年4月のスタートとなった。
オープン前に故郷愛媛を食材探しの旅で巡る
「今でこそ『SUGALABO』といえば食材探しの旅に出るチームだと、いろんな方が知ってくださっていますが、そもそもそういったスタイルを決めていたわけではありませんでした。オープン前の一週間、工事で予定が空いてしまったため、じゃあ薬師神の故郷の愛媛やシェフパティシエの故郷の広島などに行ってみようかってことで、生産者のもとを訊ねたんです。実際にふれあうことで、わざわざ出向くことの意義を感じ、定番化させようという話になって今に至ります」
サンペレグリノ 日本大会での試食プレゼン風景
薬師神さんのもう一つのライフワークとして、コンクールへの参加がある。辻調に通っていた19歳の頃から、出場していない年がないという。
「何もなければ日々、ルーティーンだけで手いっぱいになりがちです。だけどコンクールに参加することになれば、テーマについて考えざるを得ません。家でも移動中でも考えているのが楽しいですからね。」
2017年には、35歳未満の料理人を対象とする『RED U-35』に出場。今までとはまったく違う価値観を持った“新星”を探すため、審査を毎回新しい手法で行っている日本最大級の料理人コンペティションだ。二次審査は、「私と、信頼する生産者とのつながり」をテーマに、「その生産者の食材を活かした料理」を映像のなかで表現するという、まさに得意分野。三次の学園祭審査でも生産者のPRに趣向を凝らし、5名だけが残る最終審査まで勝ち進んだ。
RED U-35 実行委員会
「審査が進むうちに、ライバルというより同志の絆が生まれるのが、この大会の面白いところ。日本料理や中国料理などの料理人とも接点ができ、後々につながっていきました。彼らとふれあうと、食材の処理の仕方など、教科書には載っていない各々のやり方やこだわり、より濃い考え方を共有できる。経験しなければ得られないプロセスを一気に吸収して、自分の料理に還元できるんです。生産者やお客様はもちろん、料理人とのつながりも大きな力になる。結局は、人と人とのつながりが一番大切なんですよね」

食にまつわるコンテンツは興味深く、どこまでも広がっていくもの。

薬師神さんが自身で掲げるテーマは、「コミュニケーションのある料理」。料理をつくるだけではなく、お客様がその食材に出会えて良かったと感じられる準備をすべて整える。そのうえで提供するというのが彼の考える料理スタイルだ。料理から会話が生まれ、感動を共有する喜びはたまらない。その価値をより多くの方に広く伝える手法も模索している。
福岡八女市の伝統本玉露の茶摘み体験から
「例えばピアニストなら、一度に大勢を相手に自分を披露できますが、料理人は人数が限られてしまいます。そういう仕組みを大きく変えていきたいんです。生産者を回っていくうえで痛感したのは、料理人がもっと食材の価値を見出し、伝えるべきだということ。高い食材が良いとは限らないけれど、良い食材の多くは高いんですよ。それだけ手間ひまをかけているから。価値ある食材を提供したところで、食べ手の価値観がついてこなければ格差は縮まらない。その価値観を高めることが、これからの食文化の大きな課題だと思います」
「糖」のテーマから 八女茶を使った玉露粥
「価値があるものは高い。と言うことの認知を明確に打ち出さないと。新しいビジネスモデルをつくって、その動きを広めていくことが、これからの目標でもあります」
食にはすべてを巻き込む力がある。好奇心をエネルギーにできる、魅力あふれる仕事だと薬師神さんは語る。
「ふるさと」のテーマから L’été 夏の愛媛
「食やファッションって多くの人が飽き性だと思うんですよね。だけど食の世界は常にトレンドや旬の物事に敏感でいれば、興味の尽きることがありません。常に開発を続けるのがラボラトリーの意義でもありますし、事象すべてに興味をもつことが料理にも生きてきます。
いろんな生産者との出会いから受けた好奇心でやりたいことは尽きません。食にまつわるコンテンツの魅力は、どこまでも広がっていくものだと思いますよ」
SUGALABO web opening movie

薬師神 陸さんの卒業校

辻調理師専門学校 launch

辻調理師専門学校

西洋・日本・中国料理を総合的に学ぶ
食の仕事にたずさわるさまざまな「食業人」を目指す専門学校。1年制、2年制の学科に加え、2016年からはより学びを深める3年制学科がスタート。世界各国の料理にふれ、味わいながら、自分の可能と目指す方向を見極める。
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