No.051
作るだけじゃなく、“食”全体の楽しみを伝えたい。たくさんの人に「伝わっている」実感が、一番の喜びです。
DEAN&DELUCAマーケットストア 新宿店 ベーカリーキッチン担当
東城 ひかり
profile.
東城 ひかりさん/千葉県出身。高校卒業後、エコール辻󠄀 東京 辻󠄀製菓技術マネジメントカレッジに進学。2016年4月、株式会社ウェルカムに入社。ベーカリー 碑文谷店を経て、現在DEAN&DELUCA マーケットストア 新宿店にて勤務する。
石原 郁子さん/岡山県出身。2001年 辻󠄀製菓専門学校卒業。卒業後、菓子店やレストランなどで経験を重ね、2017年3月よりDEAN&DELUCAマーケットストア新宿店の料理長を務める。
access_time 2018.03.02
専門職業人への道、進路の悩み。決定づけたのは「好き」という単純な原動力
「小さい頃からパンが大好きで、近所のパン屋さんに買いに行くのが楽しみだったんです。パン屋さんのパンって、『特別感』があって、なんか嬉しい。アルバイトするようになってからは、おいしいパン屋を食べ歩いていましたね。それと、お母さんの隣でケーキ作りを手伝うのが好きだったんです。それから自分一人で、ちょっと凝ったお菓子を作り始めるようになって。『もっと上手に作れるようになりたい!』という想いを持ち続けてたことが、後に専門学校への進路を選択する大きな動機になっていたと思います」
しかし、「食の仕事に就きたい」という思いを持ってはいたものの、進路への迷いはあった。食関係以外にも美容系など、興味がある分野のオープンキャンパスは大学も専門学校もとにかく体験してみたが、最終的にはエコール 辻󠄀 東京へ入学を決めた。
「パティシエを目指している友人が早々にエコール 辻󠄀に行くことを決めていたんです。意識の高い彼女に刺激をもらっていたことと、オープンキャンパスでの雰囲気が一番自分にしっくり来てたのも出願の動機になりました。小さい頃に感じた、作る楽しみ、食する喜びがやっぱり原点だったんだと思います」
学びの中での厳しさを乗り越えられたのは、仲間の支えがあったから。
学生時代は、エコール 辻󠄀 東京が運営する製菓店『アトリエ 辻󠄀 東京』にて実習を行い、技術とともにプロとしての心構えも学んだ。
「実習中に、先生から怒られるのが嫌で、アトリエの倉庫に逃げ込んだこともありました(笑)。でも今思えば、良い経験ですね。あの頃しっかり怒っていただいたから(笑)、ちょっと辛いことがあっても乗り越えられるチカラになっていると思います」
エコール 辻󠄀 東京の卒業式にて
そんな学生時代を共にすごした仲間は一生の財産。今でも友人たちと連絡を取り合って、お互いの近況について話すそうだ。
「同じ目標を持つ友人の存在が、本当に大きな励みとなっています。プライベートも仕事のことも、何でも相談し合える仲です。彼女たちの多くは個人店で働いているんですけど、それぞれ個性的で素敵だなぁと感じることも多くて、いっぱい刺激をもらっています。そういった関わりの中でも、今の自分自身の環境を振り返って企業ならではの安心感と広がりもあるな、としみじみ思いますね」
就活が「自分の本当にやりたいこと」を見つけるためのきっかけに
東城さんが勤めるDEAN&DELUCAはニューヨークに本店を構える食のセレクトショップ。世界中のおいしい食べ物を集めて販売するその手法は、国内外で広く評価されている。本国では40周年を迎え、日本でもカフェを含めて29店舗(2017年12月現在)を展開している。世界各国に展開される店舗は、その国々に、広く「食の美しさ」を伝えている。進路について先生に相談していく中で、個人店と企業それぞれの特性を教えてもらい、自分には、福利厚生など働く環境が整った企業で、技術を磨いていく方が向いているのではと勧めてもらったことが、DEAN&DELUCAへの入社に大きく影響を与えたという。
DEAN&DELUCA マーケットストア 新宿店
「就活中、個人店を中心に見ていた中、企業で働くことの良さも先生に教えていただき、視野が広がりました。学生時代はケーキばかりつくっていたのですが、就活中に本当にやりたいことを改めて考えるようになって、自分はやっぱり『美味しいパンが作りたいんだ』ということに改めて気づいたんです。DEAN&DELUCAで働いてみると、美味しいパンを提供するだけでなく、パンに合う食材の食べ合わせや組み合わせ方をアドバイスできたり、ライフスタイルに合った食の楽しみ方を、多くのお客さんにご提案できることが魅力です」
目の前のことをできるだけ吸収しようとがむしゃらに働いた。
DEAN&DELUCAでは、パンやお菓子だけでなく、さまざまなジャンルの料理や、世界中のおいしい食材を一気に知ることができるのがありがたいと、東城さんは語る。
「知識の多い先輩方が多くて、お話しするだけでとてもためになります。会社訪問した際もすごくキラキラしていて。ここで働きたいと思い、すぐに応募しました。吉祥寺店の売り場でインターンも経験させていただき、充実したプリペアードフード(調理済み食品)を紹介したりするのがとても楽しかったです。これから就職される方にも、インターンを経験することはお薦めしますね」
DEAN&DELUCA ベーカリー碑文谷
入社してからの1年は、ベーカリー 碑文谷に配属。キッチンがない他店への供給もある、ファクトリー的な機能も持った店舗。毎日各店舗の開店時間に間に合うように必要な個数を製造する必要があるため、効率を重視した工程ごとの配置となっている。学校で作っていた量やスピード感覚とは全く異なる環境で、慣れるのに一苦労したと言う。
「1年目は考える余裕もなく慣れることに精一杯でとにかくがむしゃらにがんばりました。2年目、新宿店への移動で、パン作りに本格的に携わるようになり、今は日々勉強です」
DEAN&DELUCA ベーカリー碑文谷 店内
最後まで諦めずにやり切る気持ちが、自信をつくりだす。
新宿店は、キッチンがある数少ない店舗の1つ。現在、東城さんはパンの生地を分割、成形する面台を担当。その他ショーケースに陳列するサンドイッチの製造も手掛けている。碑文谷店とは異なり、一人に任される範囲が広い。「これまで以上に作業をするスピードや正確性が求められるようになりました。パンの仕上がりは、温度や湿度などの環境条件に左右されるので、季節やその日の天気に合わせて毎日調整し、成形がうまくいった日はやはり嬉しいですね」
ベーカリーシェフの石原さん(右)と
異動したての頃の東城さんのことを新宿店ベーカリーシェフの石原さんはこう振り返る。
「碑文谷店は、一つのポジションで、作業を間違いなく行っていくという体制です。新宿店では勝手も違いますから、やりにくかったと思います。最初はできることも少なかった東城さんですが、みんなに揉まれていたからか、かなりスピードも速くなりましたね。毎日成長してくれているのは伝わってきていますよ。」(石原さん)
「石原さんは、相談すると親身に聞いてくださるので、すごく頼りになります。職場の上司であり、辻󠄀製菓の先輩でもあるんですよ。それで、石原さんから指導を受けていると、『あっ、これ、学校で教えられてきたことだ!』て思うことも多いんです。基礎ができて経験を積んでこそ応用が利くんだと実感しますね。先輩たちを見て、どんどん自分のものにしていきたいです」(東城さん)
「東城さんはめげない気持ちを持っているので、後輩が入ってきても最後までやり切るということを教えられる先輩になってほしい」と期待する石原さんに対して、東城さんは、
「最後までやりきることでやっと自信になりますからね。まずは全てのポジションに入って、全工程をできるようになりたい。そしていつか先輩たちのように、私みたいな後輩の面倒が見られるようになりたい…日々、くじけますけどね(笑)」と応える。
SEASONAL MENU「TASTE OF JAPAN」仔羊の春菊味噌バター焼き・ 鰤と彩り大根のカルパッチョ・葉玉葱と帆立の蕗味噌グラチネ
“食を通じた感動”を、様々な方法で、多くの人に伝えられるのが、企業でのパン作りの魅力。
個性的な個人店で働くことも得難い経験だが、DEAN&DELUCAという「企業」に所属することは、東城さんの目指す「楽しい気持ち・おいしいもの・幸せな経験」を多くの人に伝え、感動を提供するには、素晴らしい環境だ。
週末限定のリングケーキ
「自分が美味しい・素敵だと思ったことに共感してもらえたとき、すごくときめくんです。今の仕事でも、直接お客様からおいしいと言われたり、D&Dのファンの友だちがSNSを通して、すごく嬉しいメッセージをしてくれたり、たくさんの人の感動が伝わってくるのが大きな喜びです。将来的には作り手の想いを伝える仕事にも挑戦してみたいですね。食関係のライターなんかにも興味があります。でもまずは、作ることの大変さを学ぶこと。もっともっとパン生地と仲良くなって、美味しいパンをつくりたい、たくさんのことを吸収していきたいです」
エコール 辻󠄀 東京
辻󠄀製菓技術マネジメントカレッジ
(現:辻󠄀調理師専門学校 東京)
「お菓子をつくる」「お菓子を販売する」そのすべてを2年間で学びとる。
基本を積み重ね、応用し、実践力を身につける2年間。
現場で求められる技能を身につけ、
一流パティシエへの道を切り開く。
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