INTERVIEW
No.102

幼い頃からの夢を追い続け、遠くのまちで実現できたのは、あたたかな縁と、「お菓子づくりが好き」というぶれない気持ちがあったから。

パティスリー エン シェフパティシエール

岡崎由美さん

profile.
群馬県館林市出身。同市にある関東学園大学附属高等学校を卒業後、大阪の辻製菓専門学校へ進学し、辻調グループのフランス校へ留学。2009年に卒業後、東京のパティスリー『ピエール・エルメ・パリ』に就職。その後、銀座のレストラン『ベージュ アラン・デュカス 東京』や都内のパティスリーで修業を積み、2018年4月からは兵庫県三田市の『ピッツェリア エン』で製菓を担当。2019年3月、同市にオープンした姉妹店『パティスリー エン』では店長を任され、シェフパティシエールとして活躍中。
access_time 2019.10.11

専門学校時代の縁が実を結んだ、ピッツェリア発のパティスリー。

兵庫県三田市にある人気イタリア料理店『ピッツェリア エン』の姉妹店として、2019年3月に誕生した『パティスリー エン』。店長を任された岡崎由美さんとオーナーの菊富友一さんとの縁は、約10年前、専門学校時代に遡る。
「菊富さんは料理の先生だったので、直接教えてもらっていたわけではありません。出会ったのは、辻調グループのフランス校に留学していたとき。休みの日に、みんなで野球をして遊んだり、校内で話しかけてもらったり…。誰に対しても、気さくに接してくれたことが印象に残っています」
その言葉を受けて、「フランス校時代はずっと一緒に過ごしていましたからね。当時の学生は全員覚えています。パティシエの子が息抜きに話しかけるのが、調理の教員だったんですよ」と菊富さん。「毎日が本当に楽しかった」と、岡崎さんも懐かしそうに振り返る。
フランス校時代
「帰りたいなんて一度も思わず、ずっとここに居たいと感じていました。怒られることも多かったんですけどね(苦笑)。フランス人シェフ含め、先生方は普段やさしいし、オンオフの切り替えがはっきりしていて、オンもオフも関わりが深くて。当時まだ24~25歳だった日本人女性の先生が、フランス語が堪能で技術も素晴らしく、いつか自分もこうなりたいなと憧れていました」
フランス校時代

中学時代では、製菓学校からフランス留学へと進むつもりだった。

「大きくなったらケーキ屋さんになる」。幼い頃からそう口にしていた岡崎さん。幼稚園で書いた“将来の夢”も、「ケーキ屋さん」だった。
「なぜかは全然覚えていないんですよね。よく家でつくっていたわけでもないし…ただ、ケーキ屋さんの華やかなショーケースが好きだった記憶はあります。小学校に入ってもお菓子以外に興味がなくて、ずっとパティシエになろうと思っていました」
その想いは中学に入ってもぶれることなく、高校へ進学したのも、専門学校の入学要件である卒業資格を取るためだったという。
「中学生の時点ですでに、大阪の辻製菓専門学校へ進もうと決めていました。やるからには、ちゃんとやりたい。そういう性格なので、徹底的に調べ、フランス校へも進学するつもりでした。群馬出身だったので、すぐに帰れない距離なのも良かったんですよ」
1年の課程を経てフランス校への留学を果たすが、日本でもフランスでも、日々の学びはただひたすらに楽しかった。「大好きなお菓子づくりをずっと続けたい」。漠然としていた夢が、確信へと変わった。

厳しい修業を乗り越えられた原動力は、「好き」という気持ち。

フランス校卒業後は上京。“パティスリー界のピカソ”とも呼ばれるフランス人パティシエ、ピエール・エルメ氏が展開する『ピエール・エルメ・パリ』に就職した。そこで一通り修業を重ねると、フランス料理の世界的シェフ、アラン・デュカス氏がファッションブランド「シャネル」と協働し銀座に立ち上げたレストラン『ベージュ アラン・デュカス 東京』へ。その後も都内のパティスリーで経験を積み、9年半の時が過ぎた。
「正直、つらい時期もあって、辞めようと思ったこともあったんですが、それ以外の仕事に興味がわかなかったんですよね。中途半端が嫌いなので、違う業種に移ることも考えられなくて…。結局は、お菓子づくりが好きだったんですよ」

「うちで働かないか」と誘われてすぐ決断し、移住に向けて動いた。

東京で働き始めてからも、専門学校時代の友人や恩師に会うため、年に一度は大阪へ訪れていた。2018年春、4店舗目を退職したタイミングで、休養がてら大阪へ遊びに来たところ、友人との会話が菊富さんの話題になったという。
「お店の話を聞いて三田まで来てみたものの、たまたまお休みだったんですが、時間をつくって会ってもらえたんですよね。『今何してるんや』『次どうしようか悩んでるんです』みたいなお話をさせてもらっているうちに、『うちで働かないか』と (笑)」
その話を受けて、「めちゃくちゃ軽い感じで言ったんですよ」と笑う菊富さん。
「ポジション的には二番手までいったと聞いたので、じゃあ次はトップで店を回して、自分でケーキをつくりだす段階じゃないかと。うち(『ピッツェリア エン』)でもデザートは出していたんですが、もっと強めたかったし、いいものを出せば、お店の売りにもなるでしょう」
「近くに本格のパティスリーもなく、商売としてもいけるだろうし、彼女の成長の機会にもなる。だからレストラン業務を手伝いつつになるけどどうだと誘ってみたところ、翌週、本当に『働かせてください』って来たんですよね。あの行動力は大したものでした」(菊富さん)

食べた人みんなの「おいしい」という評価が、徐々に広がっていった。

たった2週間ほどで住む場所も決め、それまで名前すら知らなかった三田市へと移住した。道具も二人で買いに行き、ランチとディナーの間にカフェタイムを新設。ゼロからのスタートだった。「そう簡単なものではなかったです」と菊富さん。
「やはり営業の合間に開いても、なかなか浸透しなくて…。だけど食べた人はみんなおいしいって言ってくださいましたしね。徐々にホールケーキの注文も増えていき、クリスマスには50台ほどの予約が入りました。その間、いい場所があれば店舗を構えようと話していたんですが、10カ月ほど経ってようやく見つかって。開業早々から大勢のお客様にかわいがってもらえているのも、あの期間があってこそでした」

故郷に雰囲気が似ていて、初めて訪れたときから安らいだ三田のまち。

自分の生まれ育った三田というまちに、これまで自分が見てきたものを紹介したい。『ピッツェリア エン』の創業には、菊富さんのそんな想いも込められていた。まだ知られていないけど、こんなにおいしいものがあることを地元に紹介したい。その願いは、『パティスリー エン』の開業にも結びついた。
「彼女が今までやってきたことを出してもらえたら、それが実現できるなと。ピッツェリアのほうもそうですが、しっかりしたものをしっかりつくって、本物の味を提供するのがコンセプト。そのことで三田に恩返しできたらいいなと考えて開きました」
一方で、岡崎さんにとっては初めてのまちだったが、故郷を離れ、都会で走り続けてきた彼女にとっては、三田の空気がとてもしっくりきたのだという。
「故郷の群馬県館林市に少し雰囲気が似ていて、初めて訪れたときからほっとできたんですよ。自分で考えたものを出してみたいとは思っていましたが、どうも経営には興味がもてなくて…。お店をもつことへ憧れもありましたが、一人で立ち上げるのは厳しいだろうと考えていたので、本当にありがたいお話でした」

あたたかい三田の人たちにハートを射ぬかれたイメージの看板商品。

『パティスリー エン』が位置するのは、いくつもの飲食店が軒を連ねるエリアの一角。開業時から、近隣の店舗のお客様が訪ねてくれる縁も多くあった。仕事帰りでも立ち寄ってもらえるようにと、閉店時刻は夜8時半に設定。グループで来店される場合、一人ぐらいは甘いものが苦手な方もいるのではと、クラフトビールも置くようにした。
「新作も毎月、出していますし、季節ごとに旬のケーキも提供しています。既存のレシピと同じものをつくるのは好きじゃないから、定番品も何かしら一工夫を加えてつくるように。私自身が好きなクラシックなお菓子も含め、どんなお客様でもお好みの品を見つけてもらえるよう、バラエティに富んだ品ぞろえを心がけています」
「クピード」
“縁”にちなんだ店名を引き継いだ同店で、新しくつくった看板商品は、イタリア語で「キューピッド」を表す「クピード」。ハート型のケーキをチョコレートの矢が射ぬいている、なんとも愛らしい逸品だ。
「カフェ」
「甘酸っぱくてやさしいカシスとオレンジをチョコレートムースで包み込んで、三田の人たちを表現しました。三田の皆さんが本当にいい人すぎて…そのあたたかさに心を奪われた、というイメージです(笑)。新しい商品を考えるのは大変ですが、とても面白いし、こちらへ来てからは接客もするようになったので、直接感想が聞けるのもうれしい。いきなりやって来た自分がこんなにもあたたかく受け容れてもらえて、縁って大事だなとつくづく感じています」
プリン 「クレーム キャラメル」

迷ったときも、自分にとって大切な道を選んでいけば、縁はつながる。

目下の目標は、お店を軌道に乗せること。自分が出資をしていないがゆえのプレッシャーもあるというが、それがまた、モチベーションにもなっているようだ。
「仕事が趣味なんですよね。休みの日にも遊びに出かけないから心配されるんですが(苦笑)、やらされている感がないのはもちろん、仕事ばっかりしているという意識もないし…。つくっている最中、ケーキのこと以外は考えない、無心感が好きなんですよ(笑)」
遊んでいるというような感覚でもないが、仕事に追われているという感覚もない。そう感じられる職に就けて幸せだと、岡崎さんは目を細める。
「修業中には厳しいこともありましたが、振り返ると、働いてきたすべてのお店に感謝しています。進むべき道に迷ったとき、自分にとって大切なほうを選んでいけば、縁はつながっていくもの。私にとってそれは、お菓子をつくることだったんですよね」

岡崎由美さんの卒業校

辻製菓専門学校 launch

辻調グループ フランス校   製菓研究課程 launch

辻製菓専門学校

洋菓子・和菓子・パンを総合的に学ぶ

フランス・ドイツ・ウィーンの伝統菓子から和菓子や製パンまで、多彩なジャンルでの学びを深めながら、クオリティの高い製菓技術を習得。あらゆる現場に生かされる広い視野を養い、
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