INTERVIEW
No.071

パティシエは、人の幸せな時間の1シーンに残る幸せな仕事。三つ星レストランのクライマックスを飾れる喜びが、日々の原動力に。

ジョエル・ロブション ドゥミ スーシェフ

佐藤祐紀さん

profile.
北海道出身。エコール 辻󠄀 東京を2007年に卒業後、神奈川県横浜市にある洋菓子専門店に就職。その後、ロブション・グループの製菓工房『ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブション ラボラトワール』での約5年間の修業を経て、フランスへ。パリのパティスリー『セバスチャン・デガルダン』で1年間、経験を積み、帰国後は東京・東北沢で新規のパティスリーのシェフに就任。メニュー考案など、開業に携わる。2017年1月からは、東京・恵比寿の三つ星レストラン『ジョエル・ロブション』に勤務。デザート部門を統括している。
access_time 2018.08.24

きっかけは曖昧でも、やると決めたからにはとことんやり抜きたい。

「高校時代は、なんとなくぼんやり過ごしていて(苦笑)、将来の夢も見えていませんでした。だけどいざ3年になり、進路を考えたとき、昔からものをつくることが好きだったので、何かしら手に職をつけたいなと思ったんです。料理でも建物でもなんでも良かったんですが、小さい頃、母や姉とよく一緒にやったお菓子づくりの楽しさを思い出し、製菓の道を選びました」
左は前回記事の吉富匡平さん(辻󠄀調理師専門学校出身)
出身は、北海道苫小牧市。当時は地元の高校に通っていたが、卒業時には親の転勤で埼玉県に行くこととなり、東京の製菓学校に通うことにした。
エコール 辻󠄀 東京時代
「正直あまり詳しくなかったので、北海道にいてもその名前を耳にしていたエコール 辻󠄀 東京に決めました。その時点では明確な目標もなかったんですが、やると決めたからにはとことんやり抜きたいなと。決めるまでは適当でも、決めたことに関しては曲げない性格なんですよ(笑)」
進学すると、高校までとはうってかわって楽しかった。次々と新しいお菓子づくりに挑戦できる実習が面白く、実技に直結する理論の授業も関心をもって受けられた。
「伝統菓子を細かく学び、ベースを理解できていたおかげで、現場に出てからも教えられたことを吸収しやすかったと思います。あとから聞くと、ほかの学校ではやっていないものも多かったので、辻󠄀で良かったなと。基本的な技術はもちろんですが、特に知識面は現場で学びづらいので、学校で勉強しておいて良かったなと感じています」

まずは腕を磨きたい。厳しい修業や多様な経験を重ね、自信がついた。

卒業後は神奈川県横浜市にある洋菓子専門店に就職。まずは修業を重ねて腕を磨きたいと考えていたところ、進路指導室の先生に勧められ即決したという。
「頑張れば成長できる場所として勧めてくださったんだと思いますが、とても厳しかったですね。一度言われたことは二度と教えてもらえませんし、ミスをすると次やらせてもらえないこともある。おかげで集中力がつき、メンタル面も鍛え上げられました」
そこからまた別の経験を積みたいと、母校の担任だった先生に相談して入ったのが、東京・八丁堀の『ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブション ラボラトワール』。フランス料理の世界的シェフ、ジョエル・ロブション氏がプロデュースするレストランのテイクアウト商品や、パティスリー&ブーランジェリーのアイテムを製造するセントラルキッチンだ。
『ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブション ラボラトワール』
その内容は、フランスの伝統に基づいたバリエーション豊かなケーキや焼き菓子。厳選した最高級の素材を使い、素材の味を最大限に引きだすお菓子づくりから得られる知識や経験は、大きな財産となったという。
ケークショコラレザンノワ

ずっと行きたかったフランスで視野が広がり、気持ちに余裕ができた。

その後は念願だったフランスへ。すでに結婚していたこともあり、1年間だけと期間を決めて渡航した。
フランスでの修業時代
「働き始めると、この仕事をやるからには発祥の地を見ておくべきだなと感じるようになって、ワーホリが使える30歳までに行っておこうと…。現地で働かれていた日本人の方の紹介で、パリの『セバスチャン・デガルダン』というお店に入らせてもらったんですが、かなり厳しい個人店で、週5日、朝から晩までバリバリ働きました。同じケーキでも、日本とは仕込み方が違っているなど、いろいろ勉強になりましたね」
フランスでの修業時代
フランスは、景色も生活スタイルも日本とはまったく違ったという。視野が広がり、感性的な部分でも変化があったと佐藤さんは言う。
「自分の幅が広がったからか、人間的にもずいぶん落ち着きました。後輩のミスに対しても、怒らず一緒に考えるようになれるなど、気持ちに余裕ができた気がします。辞めてしまうスタッフが多かったなか、ろくに話せない環境で1年間頑張れたんで、精神的にもさらに強くなれました」
フランス滞在時、知人のシェフパティシエを介して依頼を受け、帰国後は東京・東北沢で新規店のシェフに就任。ブーランジェリーを営んでいたオーナーが、新たにパティスリーをオープンさせるという案件だった。
「メニューもすべて自分で考え、良い経験ができました。原価計算なども自分でやったので、将来、自分が個人店を出したときのイメージもつかめて。漠然と抱いてきた夢に、一歩近づいた気がします」

世界最高峰のレストラン『ジョエル・ロブション』で初めての挑戦を。

初めてのことに挑戦したい。常にステップアップのテーマはそこにあった。お店を軌道に乗せると、再びロブションの門を叩き、レストランでの勤務を志願する。
「5年間働いた「ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブション ラボラトワール」に愛着があったので、今度は違う形で学べたらなって。30歳を迎える前に、まだまだ自分には覚えるべきことがある。そう考えたとき真っ先に浮かんだのがロブションでした」
東京の恵比寿ガーデンプレイスにある『ジョエル・ロブション』。ジョエル・ロブション氏が世界中で展開するレストランにおける最高峰のブランドであり、『ミシュランガイド東京』スタート時より11年連続で三つ星を獲得しているこのレストランで、2017年1月に働き始めた。
「やはり営業スタイルも、パティスリーとは全然違います。常にいいものを出すのは当たり前。その場で仕上げて提供する分、とても緊張感があって集中力が問われます。それだけにお菓子が生きている感じがして楽しいんですよね。デザートに関して今は実質上のトップなので、他店のシェフパティシエにもサポートしてもらいながら切り盛りしています。後輩たちの指導も難しい部分。だけど成長してくれたらやりがいはありますね」
最近では総料理長のミカエルシェフに対し、メニューの提案も行うようになった。その際、フランスでの経験はもちろん、学生時代の学びも生きているという。
「メニューはロブションのスタイルを軸に、伝統的なお菓子を再構築するような形で考えています。そのためには、自分のなかの引き出しが重要。これまで学んできたお菓子の知識や技法が基盤になっています」
『ジョエル・ロブション』 フロア

喜んでくださるお客様の反応が、原動力。

日々の仕事と並行し、スキルアップも常に意識。就職当初からコンクールへの挑戦も断続的に続けている。
「決めたからにはやり抜きたい。その気持ちは変わらず保っています。やるからには極めたいし、何らかのコンクールで1位はとりたいんですよね。飴細工などの細工ものに関しては、講習会に行って自分で解釈し、練習を重ねてきました」
自身の結婚式で作ったピエス
「今年も『ジャパン・ケーキショー東京』のガトー部門には挑戦する予定です。『ジョエル・ロブション』は勤務体制がしっかりしていて自分の時間も持てるので、技術を磨くことにも力を入れています」
そのモチベーションには、製菓学校時代の友人らの存在も大きい。ともに学んだクラスメイトとは、現在も交流を続けているという。
同期の友人たちと
「同期の男友だち6人ぐらいで、今も年に1回キャンプやBBQをやっています。40人ほどのクラスで男子は10人もいなかったので、自然と結束力が強まったというか(笑)。みんな熱心でしたし、今も頑張ってるし。個人店を出そうと動いている人たちもいるから、自分も負けちゃいられない。彼らの存在が大きな刺激にもなっています」
シャリョー(デザートワゴン)
デザートはコース最後のクライマックス。次また来てもらえるかどうかの判断基準になりかねない。そこがプレッシャーでもあり、面白いところでもあると佐藤さんは話す。
タルトマンゴー
「やはり喜んでくださるお客様の反応が、原動力。この仕事は、続ければ続けるほど楽しいです。つらいときも乗り越えた先に楽しみがあると思えていたから頑張ってこられたんですが、その原点は学生時代。つくることの楽しさを体感できていたおかげです」
「今でも自分はお菓子をつくることが好きだなぁと、幸せに感じています。人に喜んでもらえるのって、実はすごいことで。なかでもケーキやデザートって、ずるいなと思うんですよ。だって誰かの写真に残る確率が高いでしょ? 誕生日のケーキとか記念日のデザートとか、幸せな時間の1シーンに残れるのは、本当に幸せな仕事だと感じています。今はまだまだ、経験を重ねたい。だけど最終的にはやっぱり、自分の城を築けたらなって思っています」
後輩の桑原舜さん(辻󠄀製菓出身)と

佐藤祐紀さんの卒業校

エコール 辻󠄀 東京  辻󠄀製菓マスターカレッジ launch

エコール 辻󠄀 東京
辻󠄀製菓マスターカレッジ

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