INTERVIEW

「グルマン世界料理本大賞」のグランプリを獲得し、世界とつながる面白さを実感。故郷や料理の素晴らしさを、さらに発信していきたい。

フォトグラファー・ライター・フランス料理人
大友秀俊さん

profile.

長野県松本市出身。辻調理師専門学校から辻調グループ フランス校へ。1994年に卒業後、長野県内のリゾート地にあるホテルに勤務。24歳で鉄板焼きレストランのシェフとなる。2005年、星野リゾートに転職し、軽井沢ホテルブレストンコートに勤務。北海道の現・星野リゾート トマムの再生プロジェクトにも携わる。同社でフランス料理のスーパーバイザーや披露宴会場シェフなど、さまざまな経験を重ね、2016年に独立。2017年末には取材・撮影・執筆を一人で担った自身初の著作となる『信州の料理人、海を渡る。』を出版し、「グルマン世界料理本大賞」ローカル部門のグランプリを受賞。現在は、フォトグラファー、ライター、フランス料理人など、食に関わる様々な活動をしている。

料理人たちの生き様に迫った人間ドキュメンタリーをつくりたい。

同じ信州出身の料理人の目線で、海を渡って活躍する人たちを取材し書籍化する。その企画を実現するため、大友秀俊さんは地元長野の出版社を回った。
「長野県は意外と出版社が多いんですよ。岩波書店や筑摩書房の創業者も長野の出身ですし、そういう土壌があったんでしょうね。小さな出版社の数は日本一だそうです」
『小柳』の客室でのインタビュー
料理本でありながらも、料理人たちの生き様に迫った人間ドキュメンタリーをつくりたい。レシピや現地の観光名所、故郷・信州とのつながりも紹介しながら、写真集としても見応えのあるものにしたい。そんな前例のない企画に賛同する出版社が決まったのが2016年の夏頃。そこから準備を進め、10月下旬に渡仏するも、その時点ではまだ、正式な取材許可は3人からしかもらえていなかったという。
KEIのオーナーシェフ、小林 圭さんと
「小林圭さん(パリの二つ星レストラン『KEI』のオーナーシェフ)からは、自分ではなく若手の稲沢尚徳さんを主人公にするなら応じると言われました。有名なシェフばかり並べる本はどこにでもある。それよりも、今もがいている次世代の人間を取り上げたほうが面白いんじゃないかという提案までいただいて…。後進への想いに感激しました」
エッフェル塔と恋人たち(大友さん撮影)
こうして第一線にいるオーナーシェフだけでなく、夢追い人、寿司職人、次世代を担う若者まで、パリと香港を舞台に活躍するさまざまな料理人の取材が進んでいく。パリ『ラローム』の大草真さんからは当初、辞退したいと断られた。自分はオーナーではないし、長く同店にいるかもわからない。しかしその変わりゆく姿を追いたいのだと説得し、取材に至った。
ラロームにて大草 真さん(左)、オーナーのエリック・マルタンさん(中央)と
「取材を進めるうちに、自分でお店を開くという夢に向かう決心がついたようで、2018年4月に独立を果たされたんですよ。その連絡をもらった際、『大友さんに感謝です』なんて言われて…この取材が人生に影響を与えたなんて感慨深かったです」

料理人として、料理の本質にまで踏み込んで伝えられるよう心がけた。

中学時代に始めた写真撮影は、デジタルカメラ登場後に機材を集め直し、趣味で続けていた。一方、原稿を書くことは、書籍などで独学。その一環として、元新聞記者でフランス料理を日本に伝えた第一人者、辻調グループ・辻静雄前校長の著作を読み直し、感じることがあった。
「これは自分には真似できないなと…。でしゃばらず控えめながらも、主張するところは主張して、読者が一緒に旅をしているような臨場感にあふれている。食を専門とするライターの先輩も、『こんないきいきとした記事は自分には書けない』と。“書く”という視点で読み直すことで、改めてその偉大さを感じました」
執筆の際には、人にフォーカスすることを意識。綺麗事は一切排除し、公正中立な視点で描くよう留意した。取材記事の間には、コラムも掲載。食の業界の核心に触れ、後に「こんなことまで書くなんて」と批判されるほど赤裸々な真実も、包み隠さず著した。
「自分も料理人だからこそ、現実をストレートに伝えられたと思います。取材時には、料理人同士、心を許せる強みもありました。写真も現場感が出るよう、照明を使わず自然光で撮影。照明機材をセッティングすると、お店の場所も時間も奪うことになりますからね。料理人に迷惑をかけない、私なりの配慮です」
料理長の北崎さんへの厨房での取材
衛生面を考え、コックコートを着て取材をすることもあった。料理人が料理人を追うドキュメンタリー。2017年秋、『信州の料理人、海を渡る。』は完成した。
「料理とは、つくり手の気持ちや背景を含んでこそのもの。そこまで踏み込んで伝えるよう心がけました。まぶしい彼らを見て素直に感じたのは、人を喜ばせることができる料理人は素晴らしい仕事だということ。世界規模で評価されている彼らが、故郷を誇りに思って仕事をされていたのも、うれしかったです」

地元の温泉宿が、温泉街とともに再生していく姿を追いかける取材。

故郷をベースに、ときには全国、ときには海外に飛び出して、発信していこう。そんな今後のビジョンが見えてきた2018年3月。大友さんは、故郷である松本市の温泉街、浅間温泉で1684年から続く老舗旅館「小柳」の再生プロジェクトが始まるというニュースを耳にした。手がけるのは、株式会社自遊人。新潟県南魚沼市を拠点に、ライフスタイルマガジン『自遊人』を発行し、同地の大沢山温泉で宿泊施設「里山十帖(じゅうじょう)」を運営する同社が、経営を引き継ぐことになったという。
「話を聞きつけてすぐに取材を申し出て、ご快諾いただきました。『里山十帖』は、『自遊人』の取材で得た世界中のノウハウをつぎ込み、再生を成功させた事例。彼らの力によって、地元の温泉宿がどう変わっていくのか、とても興味がありましたし、かつて自分がトマムで経験したことと重なったんです」
「小柳」のめざす姿は、“新時代のコミュニティホテル”。かつての旅館がそうであったように、観光客だけではなく地元の人々も集えるコミュニティ拠点として再生させるのが目標だ。周囲の温泉街も楽しんでもらうことで活性化にもつながればと考えている。本格的なリノベーション工事に入るのは約1年後、リニューアルオープンは2年後の予定だが、それまでの間にさまざまな改革を進めていく。大友さんが最初の取材に訪れたのは4月下旬。
「私たちが小さい頃は、いつか来てみたいと憧れる高級な温泉街だったんですが、バブル崩壊以降、衰退が続き、近頃は外国人ツアー客が寝に来るだけというケースも多かったようです。『小柳』のトップに立たれた自遊人の岩佐社長に共感したのは、自分たちだけが再生できても意味がないと考えていらっしゃるところ。浅間温泉全体の再生を見すえている姿勢に惹かれました」
グルマン世界料理本大賞受賞式にてチーム・ジャパンのメンバーと

世界的な“料理本のアカデミー賞”に輝き、一気に環境が変わった。

新たな取材がスタートした直後。『信州の料理人、海を渡る。』が、「グルマン世界料理本大賞」ローカル部門の最終選考に残ったという報せが飛び込んできた。同賞は1995年に創設された世界レベルで唯一となる料理本のアワードで、“料理本のアカデミー賞”ともいわれている。
式典後に受賞者のみなさんと
「せっかくなので応募してみようと、英語で本の内容を訳して送ったんですが、最終まで残るとは驚きました。毎年、世界中で出版される料理本は年間で26,000前後。そのなかで210前後の国と地域から10,000点ほどの応募があるようですが、今回、最終選考に残ったのは約1,300作品。そのなかから各カテゴリーに分かれて競う形です」
最終結果が発表されるのは、2018年5月末、中国・煙台での授賞式当日。多くの部門が5~6作品であったなか、大友さんがノミネートされたローカル部門は、21もの作品が残る激戦区だったが、見事グランプリを獲得した。
大賞の主催者 エドゥアール・コアントローさん、特別賞を受賞されたパティシエ杉野英実さんと。杉野さんは2018年の辻静雄食文化賞も受賞。
「まさかグランプリに選ばれるとは驚きでした…。いろんな国の人たちが寄ってきてくれ、一気に環境が変わりました。出版後、私だけでなく、大草さんが独立開業されたり、山岸啓介シェフの『エチュード』がミシュラン一つ星を獲得されたり、佐藤秀明シェフの『タヴィ旅』(香港)が『アジアのベストレストラン50』で16位に上昇されたり、みんなで一緒に飛躍できていることがうれしいです」

体感することで、今後どう変化していくのかを見届けるのも面白い。

2018年7月。大友さんは、「小柳」へ2度目の取材に訪れた。同所には、「里山十帖」の総支配人や料理長、マネージャーらが出向。工事に入る前の段階から、料理やサービスの改善は既に進められていた。
「前回に比べて劇的に変化していますね。あちこちに並んでいた置物などもすっきり整理されていて、改革のスピード感が伝わってきました。何より料理が素晴らしい。料理長の気合いを感じますね」
入口付近の物置にしていた土蔵は、夜間に開く“駄菓子バー”としてリニューアル。取材日の夜には、ロビーで地酒を無料で振る舞いつつ「小柳」に関するクイズを出すというイベントが行われていた。
“駄菓子バー”
「取り組みも様変わりしています。せっかくなら変化の過程も楽しんでもらおうと…、これからどう変わっていくのかを見届けるのも面白いと思いますよ」
館内や料理、調理風景の写真などを押さえつつ、スタッフの方々が集まれる時間には、座談会形式で取材。地元の人間として、ときには大友さんにも意見が求められる。
『小柳』のスタッフの方と座談会形式での取材
「地元の方も来られるようなレストランができればとても良いですね。駄菓子バーも昼間に開けば、地元民が懐かしがって集まってくるのでは。松本の古きよき時代を再現したら、離れていった地元民の心もつかめる気がします」
地酒を無料で振る舞いつつ「小柳」に関するクイズを出すイベント

料理人の喜びを、次の世代にうまく伝えられる方法を模索していく。

「友人から頼まれ、ときにはカメラを包丁に持ち替えるときもあります。自分は料理人で完結できなかった人間です。だけど自分には、表現方法が二つあったんだと考えています」
近頃、とくにグランプリ獲得以降は、個人や企業、各方面から声をかけられることが増えた。自治体からも、地方創生への協力や、観光や特産品への意見などを求められることもあるという。
「地域のために、料理人を越えた活動をしたい。とはいえ器の大きい人間じゃないので、身の丈に合った活動をしていきたいですね。手前味噌なことを言わせていただくと、自分にできることがもっと潜在しているのではと感じています」
料理は海外へ出るにも活かしやすいツールだ。その気になれば世界で活躍できて、世界中に仲間ができる。地元に留まっているより絶対に面白いと、大友さんは取材を通じて実感している。
『小柳』の玄関
「料理人の喜びを、次の世代にうまく伝えられる方法はないか。ずっと模索しているテーマです。フランス料理界には『若者よ、故郷に帰れ』という有名な言葉がありますが、それはある程度もまれてからのほうがいい。まずは『若者よ、山を越えろ、海を渡れ』と伝えたいですね。世界に出ても、日本人の心を忘れずに成功しているのが、自著に出ている彼らです。若い人たちにも、彼らのような生き方に魅力を感じてもらえたらうれしいですね」

大友秀俊さんの卒業校

辻調理師専門学校 launch

辻調グループフランス校 フランス料理研究課程 launch

辻調グループ フランス校

本場でしか学べないことがきっとある
フランス・リヨンに郊外にあるふたつのお城の中には、
フランス料理とヨーロッパ菓子を学ぶための最新設備がずらり。
LINE:送る