INTERVIEW
No.167

同じ学校でフランス料理を学び、料理人とソムリエになった二人が意気投合。それぞれの海外経験をもとに比類ないレストランをオープン。

Kabi オーナーシェフ/オーナーソムリエ

安田翔平さん/江本賢太郎さん

profile.
安田翔平さん
岡山県出身。岡山県立笠岡商業高等学校からエコール 辻󠄀 大阪 辻󠄀フランス・イタリア料理マスターカレッジに進学。辻調グループ フランス校を2011年に卒業後、大阪のフランス料理店『ラ・シーム』に就職。続く東京・白金『ティルプス』では、スーシェフとしてミシュランガイド史上最速での一つ星獲得に貢献。その後、デンマークへ渡り、ボーンホルム島とコペンハーゲンに店を構える一つ星レストラン『カドー』でシェフを務める。2016年12月に帰国し、2017年11月、東京・目黒に江本賢太郎さんと『Kabi(カビ)』をオープン。

江本賢太郎さん
山口県出身。宇部フロンティア大学付属香川高等学校からエコール 辻󠄀 大阪 辻󠄀フランス・イタリア料理マスターカレッジに進学。辻調グループ フランス校を2010年に卒業後、東京のフランス料理店『銀座レカン』に就職。続く東京・麹町『オー・プロヴァンソー』でサービス、ワイン業に従事。その後、カリフォルニア大学デービス校に留学、オーストラリアへ。アデレードやバロッサのワイナリーでワイン造りを学びつつ、メルボルンのイノベーティブレストラン『NORA』でソムリエを務める。2016年12月に帰国し、2017年11月、東京・目黒に安田翔平さんと『Kabi(カビ)』をオープン。
access_time 2023.07.14
(左)オーナーシェフ 安田翔平さん (右)オーナーソムリエ 江本賢太郎さん

日本各地の食材や伝統的な調理法、食文化を、まったく新しい形で提供。

東京・目黒にある『カビ』は、海外のゲストからも絶大な支持を集めるレストランだ。日本各地の食材や伝統的な調理法、さらには食文化を、いわゆる和食とは違う、ここでしか味わえない独特な料理として構築。ナチュラル(自然派)ワインを中心とした、ここならではのドリンクと組み合わせて提供している。店名がカビ菌に由来する通り、そのメニューには発酵させた食材や調味料を多用。料理はもちろん、カクテルでも楽しめる。
オーナーソムリエ 江本賢太郎さん
オーナーを務めるのは、ソムリエの江本賢太郎さんと、シェフの安田翔平さん。同じ瀬戸内生まれの1学年違い。同じ学校でフランス料理を学び、それぞれに海外で経験を積んだ後、偶然の出会いで意気投合した。
オーナーシェフ 安田翔平さん
「デンマークで日本の伝統食を見直したとき、日本人だからできる料理があると思ったんですよね。だったら自分たちなりに解釈した日本の料理を、ここでプレゼンできたらいいなと」(安田さん)
「かっちりしたのは自分たちのスタイルじゃない。フランクに、ただ、やっていることは本物でありたいなと思っています」(江本さん)

根底にあった「いいレストランをつくりたい」という想いからサービスの道へ。

江本さんは、1989年、山口県生まれ。幼い頃からレストランで外食をするのが大好きで、行きたいお店をリクエストしては、親に連れて行ってもらっていた。学業に打ち込む道も選択できたが、漠然と進学することに疑問を感じ、料理が学べる高校を選択。
「フランス料理店の雰囲気が昔から好きで、料理人をめざそうと思ったんですよね。親からは高校卒業後は県外へ出ろ、若いうちに海外にも行けと言われているうちに、自分も行きたいと思うようになって、フランス校にも進めるエコール 辻󠄀 大阪へ。
1年の課程を経てフランス校に留学。本格的にワインにふれ、その奥深さに惹かれるようになる。研修先のレストラン『デコレ』では、歳の近いソムリエの卵と親しくなった。
「休日には彼がワインの産地、ロワールの畑に連れて行ってくれ、どんどんワインやソムリエという存在が好きになっていきました。だけど同時に、サービスの存在ってものすごく大事なのに、とくに日本ではシェフと違いないがしろにされている現状に疑問がわいてきて…。自分の根底にあった『いいレストランをつくりたい』という想いをかなえるためには、料理人に固執していたら難しい。だったら自分がサービスになって実現させ、ソムリエの現状も変えてやろうという気持ちが芽生えました」
帰国後は、日本を代表するフランス料理店『銀座レカン』に就職。先輩から若いうちにたくさんのワインを見た方がよいと助言を受け、麹町の『オー・プロヴァンソー』へ。ワインリストの作成や、グラスワインのチョイス等にも携わる。
「大使館の多いエリアで、テーブルの会話がほぼ英語。やはりフランス語だけでなく英語も話せるようにならなければと痛感しました。ワインの説明も、つくるところから学んで実感を込めたいなと考えるようになり、世界一のワインの大学を調べ、英語圏にあるカリフォルニア大学デービス校に留学したんです」
2014年に渡米し、カリフォルニア大学に留学。約1年後に帰国し、オーストラリアのワイン生産者が来日したイベントに参加したことが転機となる。
「そこで飲んだナチュラルワインが衝撃的においしくて…。その会自体、ものすごく楽しかったんですよね。そもそも嗜好品であるワインを、カッチリした雰囲気でたしなむ感じがあまり好きではなく、僕が望んでいるのはこっちだなと。ただ、ワインのことは本気で知ったうえで、もっといろんな人に幅広く楽しんでもらいたい。その場で掛け合い、2週間後にはオーストラリアへと飛び立ちました」
アデレードのワイナリー時代
アデレードのワイナリーでワイン造りを学び、冬場はソムリエの勉強をするためメルボルンのレストランへ。タイ料理をベースとしたイノベーティブレストラン『NORA』では、立ち上げ時からマネージャーシェフソムリエを務めた。
『NORA」時代
「ナチュラルワインのコミュニティを通じて声をかけてもらったんですが、1歳下のシェフのサリンは、翔平とめちゃめちゃ似ている感じの天才肌。もともと写真家をやっていて、当時まだ料理を1~2年しかやっていなかったんですが、すごく勉強熱心でクリエイティブ。ミシュランガイドの一つ星に相当する『グッド・フード・ガイド』の1ハットをめざそうと一緒に始めたらすぐに取れて。いい料理人とコンビを組んでいいレストランをつくる面白さも実感できました」

日本の食文化とも共通する、発酵食品の可能性に海外でふれ、独立開業を決意。

一方の安田さんは、1991年、岡山県生まれ。幼少期、フランスへ修業に行っていた料理人の父親が帰国し、地元でレストランを開店した。小学生になるとその店で洗い物などを手伝うようになり、高校卒業後は父の勧めるエコール 辻󠄀 大阪へ。
「店が休みの日には半ば強制的に店の料理を食べさせられていたんですが(苦笑)、おいしくて好きでしたし、高校時代には料理人になろうと思っていました。県外に出たこともなく、大阪だけでなくフランス校へ行く道もあるのが魅力だったので、進学に迷いはなかったです。印象深かったのは、フランスの歴史の授業。音楽も大好きなんで、芸術との関わりや、こんな流れがあって今こうなってるっていうルーツを探れるのが面白かったです」
フランス校時代
フランス校での現場研修では、リヨンの外れにある五つ星ホテル『ロトンド』のレストランへ。肉料理やスペシャリテ(看板メニュー)を扱うセクションを任され、飛躍的に成長した。卒業後は、今やミシュランガイドで二つ星を獲得している大阪のフランス料理店『ラ・シーム』に就職。忙しく働くなかで、「基礎中の基礎は自然と身についた」と振り返る。約2年後に上京し、東京・白金『ティルプス』のオープニングスタッフに。スーシェフとして、ミシュランガイド史上最速の一つ星獲得に貢献する。
フランスでの研修先『ロトンド』時代
「フランス料理がベースだったんですが、シェフの修業先だった北欧のエッセンスが入っていて面白かったんですよね。その頃の話を聴いているうちに、自分も学んでみたいと思うようになり、デンマークへ。ボーンホルム島とコペンハーゲンに店を構える星付きレストラン『カドー』へ研修に行ったんですが…当時いた研修生は15人以上。期間限定ではなく正規のスタッフとして雇ってほしかったので、朝早くから仕事しまくって、オーナーシェフのニコライに『働かせてくれ』と1000回ぐらい言って(笑)。その間、一緒にクラブへ行ったりすごく仲良くなって、結果、僕だけ正社員になりました」
そこで学んだのが、前衛的な北欧料理。何より惹かれたのは、日本の食文化とも共通する、発酵食品の可能性だ。やがてシェフを務めるようになり、さまざまな挑戦を続けていく。
「デンマークはめちゃくちゃ冬が長いんです。だから春や夏に野山で積んだ山菜なんかをピクルスにして冬に食べたりして。そういうのが日本人の感覚にも近くて面白く、日本から送ってもらった材料でぬか漬けや味噌をつくって料理に応用していたんですよね。そういった経験を重ねるにつれ、日本で店をやりたいと思うようになって。ニコライに5年ビザを取ろうかと言われたんですが、『働きたいけど日本で店やるわ』と、2016年12月4日に帰国しました」

生まれ育った環境も、ベースとなる経験も近い二人が意気投合し、共同経営へ。

奇しくも江本さんが日本へ帰ってきたのは、安田さんが帰国した2週間後。運命の出会いは、その翌日、現在の『カビ』の横にあるワインバーで訪れる。
「たまたま翔平が話しかけてきたんですが、1年違いで同じ学校に通っていたし、フランス校へ行ったのも半年違いだったし、先生の話とか共通の話題で盛り上がっちゃったんですよ。それから毎日一緒に飲むようになったら、お金がなくなってきて。ワイン代を稼ぐのに二人でイベントをやろうかと始めたのが『カビ』のきっかけです(笑)」(江本さん)
独特の料理とドリンクの組み合わせ。ポップアップレストランで繰り広げられる二人のコンビネーションは好評を博し、開催するたび満席となった。東京で5回ほど催すと、「西日本ツアーをしよう」と福岡や岡山、大阪を回るなど、地方でも展開し、生産者との関わりも広げていく。
「だけど東京で開くにも、仕込みをするのも家だったし、セラーもないからワインもため込めない。そろそろ場所がほしいなと探していたら、隣のワインバーのオーナーがここを紹介してくれて。全部ノリで決めました」(安田さん)
こうして2017年11月に『カビ』をオープン。共同経営に関しては、「周囲からめちゃくちゃ反対された」と江本さんは苦笑する。
「いつかケンカ別れするだろうって。けど、なんでケンカするんですかね? それがいまだに、よくわからない。料理は翔平がやりたいようにやればいいし、僕は料理以外の部分を思うようにやっているし。翔平とは生まれ育った環境も近いし、ベースとなる経験もほぼ一緒。フランス料理に関しても、ほとんど同じぐらいの知識で、好きな味わいも似ているんですよね」(江本さん)

せっかくの人生、仕事というより、ライフワーク的に楽しんだほうがいい。

日本の食材や食文化を取り入れながらも、めざすはヨーロッパの人にもなじみのある味。常識にとらわれないからこそできる、新しい日本の料理を追求している。
発酵させた白菜のバターソースと金柑、河豚の白子も炭火焼きで
「出汁にバターを入れたり、日本料理店のルールを無視したことをガンガンやってますからね。『ティルプス』時代、日本にある24の季節、二十四節気どおりに料理をしてみてと、オーナーから無茶ぶりされていた時期があって。そのとき旬のおいしさや、日本の四季の大事さを知ったおかげで、今も生産者さんと常に連絡を取り合って、食材ありきで考えています。よく日本料理って引き算だっていうけど、僕の場合、手の込んだ料理が多くて。いっぱい載せて、いろんな味や香りを掛け合わせていくイメージです」(安田さん)
スペシャリテでもある漬物
「彼が考える味の組み合わせも、すごく好きなんですよね。環境や経験のベースが近いから、材料を見たら、どう仕上げたいかスッと入ってくる。それをもとにドリンクのペアリングを考えるのも面白いし、自分が使いたいもの、つくりたいカクテルに合わせてもらうのも楽しい」(江本さん)
焦がし大根油とクリーム、一番だし
「カクテルも料理みたく、舌にどう響くか、味の構成をつくって遊んでいる感じです。料理で生産者や農法にこだわるなら、飲み物もそうであるべき。僕も生産者とのつながりを大切にしています。収穫されたブドウの差が、ナチュラルワインは顕著に出るんですよ。シェフがメニューをつくるのと一緒で、僕も自分の名刺になるようなワインを自分の舌で厳選するのは、すごくやりがいがありますよ」(江本さん)
時にはアートやファッションのイベントなども開かれ、若い世代から年配の美食家まで、幅広い層から愛されている『カビ』。スタッフは二十代が中心で、海外からの研修生も多い。それぞれのリクエストに応じ、好きなBGMを流し、仕込みの時点から実に楽しそうに仕事をしている。
「自分で学べばいいと思ってるから、教えたことないですね。僕の場合、知りたかったら自分から訊いてきたし、『全部やってやろう』と思ってこれまでやってきたし。だからこそ、最初にクラシカルなフランス料理の基本を学んでおいたのは、今でも本当に良かったと思っていますよ。アレンジするにも、ベースはあったほうがいい。5歳の息子も料理人になりたいって言っているけど、まず母校へ入れようと思ってるし(笑)」(安田さん)
「飲食って好きじゃないと上にも行けないと思うんですよ。『やらされている』って感覚があると、いいところまで昇れない。せっかくの人生、好きなもののために使うなら、仕事というより、ライフワーク的な考え方で楽しんだほうが良くないですか? 料理が好き、レストランが好き、ワインが好き…いま働いている人もこれからめざす人も、もともとは、そういった情熱から飲食の世界に入ろうとしたんでしょうし、結局はそこが一番強いと思うんです。『好きなことをしたい』っていうハングリー精神は失わず、突き進んでほしいですね」(江本さん)

安田翔平さん/江本賢太郎さんの卒業校

エコール 辻 大阪 辻フランス・イタリア料理マスターカレッジ launch

辻調グループ フランス校 フランス料理研究課程 launch

辻調グループ フランス校

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