No.087
自分の知らなかった中国料理の世界観に触れ、 進路を見出す。驚きと発見の日々の中で、一歩ずつ前進中。
四川料理 御馥(イーフー) 料理人
宮﨑一馬さん
profile.
大阪府出身。大阪市内にある昇陽高等学校のパティシエコースを卒業後、辻󠄀調理師専門学校 調理技術マネジメント学科へ進学。在学中から大阪『四川料理 御馥』でアルバイトを続け、2017年の卒業後に入社。2019年4月に就職3年目を迎える。
access_time 2019.03.22
学び始めて知った製菓の楽しさ。修学旅行ではフランス料理に感動。
大阪市内に生まれ、此花区にある昇陽高等学校に進学。将来に直結する8つのコースを設けるこの学校で、宮﨑一馬さんが選んだのはパティシエコースだった。
「明確な覚悟を決めていたわけではありませんが、勉強はあまり好きではなかったし、せっかくならば、興味のある分野で技術を身につけたいという気持ちもあって、進路を決めました。お菓子をつくったことはなかったものの、食べることは好きだったんですよ。好きなことに関わるということで、自ら学ぶ気持ちも持つことができましたし、続けることができました。お菓子づくりの道具や材料、製造法を覚える授業も楽しかったですね」
「お菓子づくりは、計量に始まり計量に終わるといつも学んでいて、きっちりやれば、やっただけのものが完成するのは気持ちがよくて好きでした。転機になったのは修学旅行で行ったフランス旅行。食べ歩きの多いプログラムだったんですが、何より初めて食べるフランス料理がどれもおいしくて…。辻󠄀調グループのフランス校へ見学にも行って、フレンチの世界への憧れ的なものも感じたのと、お菓子づくりとも違う、なじみがないからこそ学んでみたいと、料理の道に興味をもち始めました」
専門学校の授業で中国料理に衝撃を受け、その道へ進むことを決意。
パティシエコースで知った、確かな技術を基にしておいしいものをつくる喜び。フランスへの修学旅行での体験で湧き出したフレンチの世界への興味。探求の幅を広げてみたいと、高校卒業後は製菓ではなく調理の道へ進もうと決意した。
「総合的に考えて、辻󠄀調理師専門学校 調理技術マネジメント学科を選びました。どんな料理も自分でやってみないとわからないと思っていたので、まずは1年間、全ジャンルを学びたかったんです」
とにかく幅広く経験したい。そう考えていたが、スタート時点では、高校時代に衝撃を受けたフランス料理を専攻する気でいたと振り返る。
「実習はどれも面白かったです。その面白味は食べることに集約されていましたが(笑)、つくって、確認して、もう一度つくって…という試行錯誤が楽しかったんです。最初はフレンチをやりたかったので、授業を通して知識を増やしていくと、何となく漠然としていた料理の意味が、少しは見えてくるようになって面白かったですね。ただ、食べ続けていく中に、他の料理の楽しさも再認識していきました」
そんななか、後期に入って学び始めた中国料理に衝撃を受けることになる。
「今まで食べてきた“日本の中華”とはまったく別物だったんですよ。経験したことのない深みのある味で素直に美味しいと感じ、新鮮な驚きがありました。一番発見があったのも中国料理。西洋料理と違って調味料の種類が多く、それにより味がまったく変わることに好奇心をくすぐられて、こんな料理を作れるようになりたいと…。」
驚きと発見のある店で働きたい。そんな理想に合致しアルバイトへ。
こうして2年目には中国料理を専攻。1ジャンルに没頭できたことで、専門力の高まりを感じられた。とにかく授業の時間は集中して、忘れることの無いように一生懸命やることを心がけたという。実習の回を重ねるごとにチームワークも身についていく。放課後や休日には食べ歩きも重ね、おぼろげながら将来像についても考えていた。
「先生からの紹介も受け、食べ歩きにも行きました。少ない席数ながらも高価格なところで、食べると驚きもあって。こういうスタイルっていいなと思ったんですよ。一口に中国料理といっても、大衆中華から高級中華までいろいろ。自分が働くなら、たくさんの新しい発見が得られるお店がよかったんです」
『四川料理・御馥(イーフー)』エントランス
そんななか、夏前にアルバイトの斡旋を受けたのが、中之島のダイビルにある『四川料理・御馥(イーフー)』だった。
「まず食べに行ってみたんですが、ほかのお店とも違い、食べたことのない料理がたくさんあって、何よりおいしい。少人数の調理場なのに、お客さんもたくさん入ってすごいなと感じ、アルバイトに入らせてもらうことにしたんです」
修業の早い段階から、料理をつくる楽しさや喜びを味わうことが大切。
「働き始めてからも驚きと発見の連続でした。ふだん目にしない食材や組み合わせ、オリジナルの料理の数々…。学校で習うものとはまた違い、とても勉強になることも多くて、11月頃には就職したいと申し出ました」
それに対し、料理長の黄村茂賢さんはこう語る。
黄村茂賢料理長(右側)
「新入社員の多くはアルバイトから採用しています。そのほうが人間関係も自分の環境も築きやすいですからね。宮﨑君は入った時点から、わからないなりにいろんなことに気をつけて覚えてくれたので、本人さえ良ければ受け容れる旨は伝えていたんですよ」
入社が決まってからは、梅田のマルビルにある本店へと異動。お皿や薬味の用意、切り物の補助や洗い物から始め、まかない料理も1品から担当するようになった。黄村料理長は言う。
「夢と現実がかけ離れすぎていると挫折してしまうでしょう。料理をつくる楽しさ、おいしいと言ってもらえる喜びを早い段階からわかってほしいので、まずはまかないで店の料理をつくってもらい、自分でも考案してもらうようにしています。どうやったらおいしくできるのか考え、整理して、答えを出すのが、まかないの場なんです」
XO麻婆豆腐「極上XO醤の土鍋麻婆豆腐」
「どういう料理をつくりたかったのか」という目的意識の重要性。
就職後も、材料や道具、食器類などの準備や片付けを続け、その後はデザートを担当することに。5人ほどの厨房なので、新人の間はすべての持ち場から仕事を頼まれるという。2人は語る。
「『これやっておいて』という言葉のみの指示は日常茶飯事で、わからなければ訊いてトライして、訊いてトライしての繰り返し。訊けば自分のためにもなるし、引き出しも増えますからね」(宮﨑さん)
宮保墨花「名物・紋甲イカの唐辛子炒め」
「経験上、押しつけたものは身につきません。覚える気のない人間に教えても意味がない。ほしいものは自分から要求しないと。逆にアプローチがあれば、いくらでも教えます。まずは自分で経験し、どれだけ貪欲に吸収していくかが重要です」(黄村料理長)
紅焼排翅「ふかひれの姿煮込み」
2年目になり後輩ができると、指導をする役割も与えられた。
「教育も彼らの責任になる。先輩の教えをどれだけ理解し、後輩に伝えているか。2年目は教えることで復習をする期間だと考えています」(黄村料理長)
懐石コース
「どうやって伝えるかが一番の課題ですね。後輩には後輩のやり方もありますし、できなかったら指摘もしないといけない。その面でも専門学校で良い材料を使って、基礎から学べたのは大きかったです。おかげで、下ごしらえなど基本的な部分は、自信を持って伝えられていると思います。あとは料理に向かう気持ちの面。学校で『どういう料理をつくりたくて、これをつくったのか』という答えづらい質問ばかりされたんですけど(笑)、今になって大事だったんだなとわかります」(宮﨑さん)
「まかないでも、これはなんの料理をイメージしてつくったのか訊くんですよ。僕の思っている料理と彼の思っている料理が違う場合、アドバイスを与えても的外れになる。何を思い浮かべてつくったかわかれば、何が足りないかも言えますから。ただつくるのではなく、目的意識をもってつくるよう伝えています」(黄村料理長)
大切にしているのは、日々の仕事のなかに楽しみを見つけること。
宮崎さんは日頃から、自身の仕事プラスアルファを取り入れるように意識しているという。
「自分の仕事で少しでも手が空けば、積極的に先輩の仕事を手伝い、その持ち場の仕事を体で覚えるようにしています。また、ダイビル店に勤務する専門学校の同期生との食事会での情報交換も大切にしています」(宮﨑さん)
「当店での料理人としての技術や知識の吸収はもちろんですが、それに加えて、他分野の料理人との情報交換も大切ですね。特に他分野の食材の捉え方などとても参考になります。専門学校の同窓生のネットワークを活かして、そういった情報収集にも積極的に臨んでほしいですね」(黄村料理長)
「中国料理の決まりごとにとらわれず、日本料理や西洋料理、いろんな要素を組み合わせて新しい料理を生みだすことも大切。デザートで洋の要素を取り入れることも、今の時代は求められていますからね。彼がパティシエコースや専門学校で幅広く学んだことも、これからますます活きてくるでしょう」(黄村料理長)
3年目は、自分がどこまでできるかを意識し、臨機応変に動けているかを確認する期間だという黄村料理長。4年目になれば、特定のポジションを与えられることになる。宮﨑さんはこう考える。
辻󠄀調理師専門学校の先輩 富永洋之さんと
「大切にしているのは、日々の仕事のなかに楽しみを見つけること。近い目標を1個1個クリアしていくのが性に合っているんですよ。料理人なので、ゆくゆくは独立もしたいですが、まだまだ先の目標です。今は少しずつ勉強していって、1年経って振り返り、『これができるようになった』ということが、たくさん増えればいいなと考えています」
辻󠄀調理師専門学校
西洋・日本・中国料理を総合的に学ぶ
食の仕事にたずさわるさまざまな「食業人」を目指す専門学校。1年制、2年制の学科に加え、2016年からはより学びを深める3年制学科がスタート。世界各国の料理にふれ、味わいながら、自分の可能と目指す方向を見極める。
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