No.088
専門職に憧れ、高校のパティシエコースへ進学。お菓子づくりがより好きになり、さらに学びを深めて、理想の洋菓子店で腕を磨く日々。
レ・グーテ パティシエール
仮家千絵さん
profile.
大阪府出身。大阪市内にある淀之水高等学校(現・昇陽高等学校)のパティシエコースを卒業後、エコール 辻󠄀 大阪 辻󠄀製菓マスターカレッジへ進学。2011年に卒業後、京都のパティスリーに就職。その後、地元枚方市にあるケーキ店で経験を重ね、2012年の秋から大阪市の洋菓子店『レ・グーテ』へ。アルバイト期間を経て、2013年4月に入社。現在は焼き菓子部門に所属。マネジメントも担いつつ、新商品の開発も手がけている。
access_time 2019.04.05
同じ粉でも、全然違うものへと変化していくのが不思議で楽しかった。
「将来の夢がコロコロ変わっていたんですよね。幼い頃は保育士がいいなと思ったり、母親がそうなので看護師がいいなと思ったり…。ばらばらだったんですけど、なんとなく専門職への憧れはあったように感じます」
生まれ育ったのは大阪府枚方市。大阪市にあった淀之水高等学校(現在の昇陽高等学校)のパティシエコースに進学したのは、たまたま見かけたパンフレットがきっかけだった。
「普通の高校じゃ面白くないなと思っていたとき、パティシエコースができるのを知って。母がクッキーを焼いてくれたり、バレンタインのときは友だちと手づくりチョコを交換したり、昔からお菓子づくりには慣れ親しんでいたんですよね」
高校時代の実習
入学すると、それまで知らなかったフランス菓子にもふれ、本格的な製菓にのめり込んでいく。
「同じ粉を使っても、全然違うものへと変化していくのが不思議で楽しかったです。卵や牛乳やバターなど、材料も似ているのに、仕込み方が違うだけで、ものすごいバリエーションのお菓子ができあがる。お菓子づくりがさらに好きになりました」
高校時代の実習
一方で掃除や片づけなどは厳しく指導された。そのときに身についた習慣が、今も残っているという。
「吹奏楽部の活動にも打ち込んでいたので、実習があっても部活に遅れないよう、段取りを考えて動くクセもつきました。同じコースの約40人で、300人ほどいた卒業生全員に渡す焼き菓子セットをつくったのもいい思い出です。単なる家庭用ではなく、商品として大量につくることも学べました」
あらゆる製菓の専門学校を見て回り、選んだ先でお菓子づくりに没頭。
将来はパティシエになろう。そう心に決めて、進路を考える段階になると、あらゆる製菓の専門学校を見て回った。そのなかで選んだのが、エコール 辻󠄀 大阪の辻󠄀製菓マスターカレッジだった。
「授業を見学したり、実習を体験したりして、すごいなとは思っていたんですが、進学先はいろんなところを見てから決めたかったので、大阪・神戸・京都の製菓学校はすべて行ったと思います。結果、辻󠄀が一番楽しかったんですよね。人数が多くて活気がありましたし、雰囲気も良かったし…。あと、エコールは他の専門学校とは違う実習中心のカリキュラムだったことも決め手になりました」
プロになるための授業は厳しかった。しかし高校で段階を踏んでいたこともあり、入り込みやすかったと振り返る。
「普通科出身の人がほとんどでしたが、全国各地から志の高い人たちが集まってきていたような印象です。高校時代に率先して動いていたような、やる気のある学生ばかりだったので、いい刺激になりました」
実習は丸一日かけて行っていたが、そこで身に沁みたのはチームワークの大切さ。うまくコミュニケーションをとらなければ、思うように進まないことを痛感した。
「効率よく作業をしないと、決められた時間内に終わらせられないんですよ。進め方を自分たちで考えて組み立てていくんですが、事前に話し合って役割分担を決めておくかどうかでも全然違い、いい勉強になりました。グループ実習とは別に、どの工程の技術も身につけられるよう、すべて経験させてもらえたのも良かったです」
就職活動でも、数多くの企業訪問を経験。食べ歩きも重ねた。さまざまな業態を見ていくうちに、一般企業よりもお客さんと距離が近い“街のお菓子屋さん”に惹かれ、的を絞った。
「お客さんの反応を直接見られるところがいいなと思ったんです。それで京都のパティスリーに就職。活気があって、にぎわっていて、人数も多いところだったんですが…どうしても自分には雰囲気が合わず、1年経たずに挫折してしまったんです」
その後は実家に戻り、一時は製菓を諦めることも考えた。しかし冷静になると、やはりお菓子づくりが好きだと再認識。近所の小さなケーキ店で製造のアルバイトを始めた。
「正社員登用のないお店だったので、働きながら次を探していたところ、高校時代の恩師から募集があると連絡を受けて。それが『レ・グーテ』だったんです。訪ねてみると、入った瞬間から楽しい感じが伝わってきて…もう一目惚れ(笑)。ショップと厨房とがつながっていて、厨房にいてもお店の気配を感じられるのも魅力でした」
「自分の好きなものを集めていったら、こういう感じになった」とオーナーパティシエの澤井志朗さん。
「入った瞬間にワクワクするような、雑貨屋さんの雰囲気が好きなんですよね。いっぱい並んでいたほうが楽しいでしょう。昔、先輩が働いていたフランスのパティスリーを訪ねたことがあったんですが、何も知らずに扉を開けて、すごい品数に圧倒されたんですよ。そのイメージを持ち続けていたので、品数もどんどん増やしていきました」(澤井シェフ)
澤井志朗シェフ(右側)
微妙な変化で焼き上がりも変わるのが、難しくもやりがいのある部分。
2012年の秋からアルバイトに入り、翌年4月から正社員に。まず就いたのは生菓子のポジション。デコレーションから始め、仕込みも徐々に経験し、ムースやケーキ、チョコレートなどを順番に担当していった。2年後には焼き菓子の部門へと異動。フィナンシェやマドレーヌから生地の仕込み方を学び、大きいパウンドケーキやスポンジ生地などをつくるようになっていった。
「日ごとの湿度の違いなどによって、焼き上がりが変わってしまいます。乾き具合も違ってくるので、ちょっとした混ぜ方も調整しなければなりません。一筋縄ではいかないところが、難しくもやりがいのある部分です。現在、焼き場の作業内容や役割分担は私が決め、在庫の管理もしています。後輩の指導も大切な役割。学生時代に基礎的なことをしっかり教えてもらい、コミュニケーション能力を鍛えてもらったことが、今も役に立っています」(仮家さん)
開発した商品を毎日買いに来てくれるお客さんがいると知って大感激!
現在では、新しい商品の開発も担当。季節ごとに味を変えるエクレアを任されるようになったので、通常業務のあとは試作に励んでいる。
エクレアオレンジ
「冬に売り始めたオレンジのエクレアから私が担当しています。ほかにも、バレンタインのときはチョコレートをグレードアップさせたエクレアを試作したり、4月から出す桜のエクレアを考えたり…。新しいお菓子の発想を練り、材料や配合を考えて調整するのは大変ですが、自分のアイデアが形になり、おいしいお菓子ができあがるのは、やっぱり面白いです。食べた人に喜んでもらえるのが何よりの幸せ。私の開発したエクレアを毎日買いに来てくれるお客さまがいると販売スタッフから聞いたときは、うれしくてたまりませんでした」(仮家さん)
自分で考え、生みだしたものが愛されることで、パティシエとしての新たな喜びを手に入れた仮家さん。同時に、改めて澤井シェフの偉大さを強く感じているという。
「私が働き始めてからも新しいお菓子がどんどん増えていますし、最近ではパンも加わりました。普通の人じゃ考えつかないような発想がたくさん出てくるので、いつも驚き、憧れています。私ももっと頭をやわらかくして、アイデアを出せるようにしたい。そのためにもシェフを見習って、お菓子屋さん以外にも、いろんなお店などを見に行くようにしています。何がお菓子の発想につながるかわかりませんからね」(仮家さん)
それに対し、「こだわりをもたないようにしていることが、自分のこだわりかも」と澤井シェフ。
「『このお菓子は、こうあるべき』という考えはもたず、『こうしたほうが、もっとおいしくなるのでは』と、突きつめていくようにしています。めざすイメージは、食のセレクトショップ。百貨店に行かなくても、うちに来たら、欲しいものが手に入る…そんなお店にしたいんですよ」(澤井シェフ)
お菓子の世界は奥が深くて面白い。この道を選んで本当に良かった。
「仮家さんはもう、なんでもできるようになって、どこへ行っても大丈夫だと思うほどの成長を遂げました。だから今は、新しいことにチャレンジしてもらっているところです。やりたいことがある間は、レ・グーテでの成長を見守りたいですが、次に進みたいならそれも応援したいと思っています」(澤井シェフ)
そんな澤井シェフの言葉に対し、「いつかお店をもちたいという想いもあるけれど、まだまだシェフのもとで学びたい」と仮家さん。
「ここの雰囲気がすごくいいんですよ。私自身に合っていたんだと思います。就職してからも、お店自体が週休2日になるなど、さらに働きやすくもなってきました。その分、休みの日には食べ歩きに行くなど、視野を広げるよう努めています」(仮家さん)
『レ・グーテ』は新卒採用の場合でも、学生時代からアルバイトに起用し、就職の意志を確認するという。澤井シェフは語る。
「卒業後すぐに入って『自分に合わない』となるのは、もったいないですからね。一口に製菓といっても道はさまざまなので、『お菓子の世界で生きる』と決めた人でも、あらゆる現場を体験してみて、自分に合う場所を見つけることが大切だと思います」(澤井シェフ)
大好きなお菓子づくりを、お客さんと近い距離で続けていく…そんなベストな居場所を見つけた仮家さん。製造と販売は分業だが、販売が忙しいときは厨房から出て接客することもあるという。
「常連さんが多く、お客様の声を直に聞けるので、とても励みになります。大切にしているのは、『自分の手でつくっている』という想いを常に忘れないこと。流れ作業的にやるのではなく、一つひとつ、たとえ機械を使う工程であっても手づくりの思いを込めて取り組んでいます。食べる人にとっては、そのひとつが大切なお菓子ですからね。お菓子の世界は奥が深くて面白い。人々に喜びを提供できるこの道を選んで本当に良かったと感じています」(仮家さん)
エコール 辻󠄀 大阪
辻󠄀製菓マスターカレッジ
(現:辻󠄀調理師専門学校)
洋菓子をつくり、味わい、集中して製菓の基本と応用を学びとる。
多くの洋菓子と出会い、味わいながら、
基本テクニックや表現力を養成。
プロの世界へと羽ばたいていける、確かな実力を育てる1年間。
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