No.107
キャリアの授業で『PROFESSIONs』を活用。 記事を通して“食業”の魅力や多様性を伝え、未来の可能性をひろげたい。
辻󠄀調グループ キャリアセンター
大阪校副センター長 岡田知子さん/東京校マネージャー 伊藤愛子さん
profile.
岡田知子さん/辻󠄀調グループ 辻󠄀調理師専門学校・辻󠄀製菓専門学校・エコール 辻󠄀 大阪 キャリアセンター 副センター長 岡山県出身。大学卒業後、株式会社リクルートなどでの勤務を経て、2010年辻󠄀調グループに入職。「教育」への情熱と「キャリア」に対する探求心を持ち続け、現職に従事している。
伊藤愛子さん/辻󠄀調グループ エコール 辻󠄀 東京 キャリアセンターマネージャー 米国CCE,Inc.認定 GCDF-Japanキャリアカウンセラー 東京都出身、都立青山高校を経て、学習院大学を卒業。2004年エコール 辻󠄀 東京を卒業後、後輩を導くことへの想いから、辻󠄀調グループへの入職を選択、現在に至る。
access_time 2019.12.13
調理や製菓を学ぶ学生たちの価値観を引きだし、視野を広げるために。
「食」を起点に広がるさまざまなフィールドで活躍する“Profession”たちを紹介しようと、2017年4月に始まった『PROFESSIONs OF FOOD AND***』(以降PROFESSIONs)。すでに100人以上の“食業人”を取り上げてきたが、たとえ業種や職種が同じでも、100人いれば100通りのストーリーがあるもの。
そんな一人ひとり違う背景や想いから出る言葉を、“食業人”をめざす学生たちのキャリア形成に活かそうと、辻󠄀調グループでは『PROFESSIONs』を活用したキャリアの授業を展開している。教壇に立つキャリアセンター(大阪校)の岡田知子さんは語る。
岡田知子さん(右)
「入学してすぐの学生に『将来どうなりたいか』と訊いても、『お店をもちたい』と答える人がほとんどです。だけど食の仕事の世界は、もちろんそれだけじゃありません。将来の夢へ向かう視野や選択肢を広げるための材料として使っています」(岡田さん)
伊藤愛子さん(左)
「料理やお菓子の業界で活躍したいと入学しても、いざ就職となると途端に難しく考え、つらいものだと捉えてしまいがちです。もともと憧れの気持ちでめざした世界なのに、調理や製菓の技術面、或いは就職活動の現実的な部分だけで必死になると、その原点が薄れてしまいます」
「だから現在、リアルに働いている人たちの言葉を知ることで、学生たちの価値観をちゃんと引きだしたい思いでこの授業を行っています」(伊藤さん)
自ら「頑張って勉強しよう」と思える、意欲向上にもつながっている。
授業のスタイルはさまざまだが、多くは事前学習として『PROFESSIONs』のサイトのなかから気になる記事を読み、興味のわいた人物を一人取り上げておく。そして授業では、記事のなかから共感した部分や心に引っかかった部分などを書きだしていくという。
「みんな料理ジャンルだけではなく、その人の人柄や生き様などで選んできたりもするので、興味深いです。まず、料理を学べば料理人、製菓を学べばパティシエ、といった道だけではないことに気づきますし、果たす役割もさまざまだと知っていく。今までなら、教員側が情報として挙げていましたが、記事のなかでは卒業生たちが自分の言葉で語ってくれています。それだけ納得度が違ってきますよね」(岡田さん)
「なんのために働くか。お金のためはもちろんですが、いろんな視点があることに気づいてもらうきっかけづくりになっています。記事を読むまでは出てこなかった言葉でも、共感することで自分のものになっていくようです」(伊藤さん)
その後は、4~5人でのグループワークへ。誰のどの部分に興味をもったかを一人ずつ発表し、聴く側はメモをとる。そのうえで、“食業人”が何を提供する仕事なのか、どんな役割を担っているのか、やりがいはどんなところにあるのかなど、グループで集約していく。
「選ぶ記事もバラバラなので、他の学生の発表を聴くことで新たな視点も吸収していけます。たとえば役割なら、伝統を守ること、地域を活性化させること、地産地消に貢献することといった、それまでイメージのつかなかった言葉も導きだされていく。自分たちで出した答えなら、教えるより実感できますからね。学び続けること、こだわりをもって働くこと、技術を磨くことの大切さも、実体験を通じた言葉から感じとってくれています」(岡田さん)
実際、グループワークでは、「転ばない努力をするより、転んでも立ち上がる努力をしたほうがいい」という記事の言葉から、「成功も大事だけど、失敗から学ぶことのほうが次に活かせる。この言葉を胸に刻んで頑張ろうと思った」などと発表する学生もいた。書かれている言葉だけでなく、自分なりの解釈をして活かそうとしている。
「食の業界で活躍している人たちは、そこだけ切りとれば成功しているように見えますが、途中で挫折をしたり、厳しい状況に陥ったりと、つらい経験だってたくさんしている。そういった人たちが、壁を乗り越えていく過程に感銘を受けてくれる学生も多いですね」(伊藤さん)
「最後にまとめとして、共通ワードはどれだろうと全体で確認したら、おいしさを提供することなんて当たり前だとみんな気づくんですよ。ということは、基礎はちゃんとやらなきゃだめ。食の安心安全もそうです。そのための勉強を頑張ろう、となる。『勉強しなさい』と言われたら嫌がるでしょうが、『必要だから勉強頑張ろう』と思ってもらうことで、学習の促進にもなっています」(岡田さん)
自分と向き合い、進路を深く考えるところから進めるキャリアの授業。
教育機関で行われるキャリアの授業は、主に卒業後の進路形成に向けたサポートを行うものだ。そのなかには、履歴書の書き方や面接の受け方の指導など、就職試験のためのテクニック的な指導もあるが、大前提として大切なのは、自分を見つめ、自身に合った活躍の場を見つけだすこと。辻󠄀調グループでは、「自分で自分の進路について考える」という部分に、とても重きを置いているという。
「卒業後にどうなっていきたいのかを見据えたうえで、そのためには何が必要かを学んでいく。業種や職種、役職といった“見えるキャリア”だけでなく、働きがいや魅力、果たす役割など“見えないキャリア”も考えたうえで、就職活動を進めてもらうようにしています」
「就職後もいろんな分岐点がありますし、卒業したら自分の力で切り拓かないといけない。自分がどういう人生を歩むのか、自分の価値観を考えながら、自分と向き合う授業を大切にしているんです」(伊藤さん)
「就職先を自分で選び自分で動くためには、考える力をつける指導が重要です。その準備のためにも、この授業を通じて、人の意見を聴いたり、自分の想いを発表したり、コミュニケーションをとったりすることが、すごく大事だと感じたという感想が学生たちから出ています」
「業界理解だけでなく、社会人としての基礎的な部分も、グループワークを行うようになってから磨かれているようです」(岡田さん)
卒業後にイキイキと働き続けるためのサポートはやりがいがある。
キャリアセンターでは、個別の相談や指導も行っている。将来にかかわるとてもデリケートな部分なだけに、職員たちもさまざまなことを心がけているという。
キャリアセンター
「担任の先生方とのコミュニケーションをしっかりとり、連携してサポートすることは最重視しています。意識しているのは、担任と同じ方向から同じ目線で支えること。意見が違うと混乱してしまいますからね。情報も考えも、しっかり共有するようにしています」(岡田さん)
キャリアセンター
「学生と面談するときは、言葉になっていない部分をくみとるように気を配っています。自分のなかで納得したつもりで来たけど、実は腑に落ちていなかったり、本心に蓋をしていたりする場合だってある。自分にもそういう経験がありましたからね。挑戦してみての失敗はあるかもしれませんが、『あのときやっていれば良かった』という後悔はさせたくないので、体験談も交えながら向き合うようにしています」(伊藤さん)
「有名店への就職」「料理長をめざす」「独立開業」といった“見えるキャリア”を考えるとともに、仕事を通して何を得たいのか、どんな気持ちで働きたいのか、どんなことに働きがいや意欲を感じたいのかなど、つまり“見えないキャリア”も支援することが、辻󠄀調グループの特長でもある。それを支援する側の仕事もまた、やりがいがあるという。
「ある有名大規模ホテルへの就職を希望していた学生に、将来そこでどんなことを実現させたいと思っているのかじっくり訊いたところ、別の小規模ホテルのほうが希望に合うと感じたんですよね。それで、こんなホテルもあると紹介したら、ぜひ訪問してみたいと」
「結果、そこへ就職することになり、学生も企業側もすごく喜んでくれたんですよ。そうなるとうれしいですよね。就職後、わざわざ会いに来てくれる卒業生がいることも職員冥利に尽きます。卒業してからも頼りにされるとうれしいですし、それに応えたいと思っています」(岡田さん)
「おとなしそうな学生でも、対面で話を聴くと、ものすごく熱い想いがあったり、高い志があったりする。そういった部分にふれられるのも、キャリアセンター職員の醍醐味だと思います。一人ひとりの人生に関わる仕事なので、責任重大です。最終的には本人が決めて進む道ではありますが、卒業後にイキイキと働き続けるためのお手伝いが少しでもできることに、強いやりがいを感じています」(伊藤さん)
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