INTERVIEW
No.073

恵まれた自然とあたたかい人の手で育まれた、佐渡ならではの食材たち。ここでしか味わえない料理に仕立てて、多くの人が訪れる島に。

Ryokan浦島 フレンチレストラン『ラ・プラージュ』シェフ

須藤良隆さん

profile.
新潟県佐渡市出身。佐渡島内の高校を卒業後、大阪の辻󠄀調理師専門学校へ進学。在校中からフランス料理店『ビストロ・ヴェー』で修業に励む。2011年3月の卒業後は長野・軽井沢の『オーベルジュ・ド・プリマヴェーラ』で働き、10月から辻󠄀調グループ フランス校(秋コース)へ。リヨンの三つ星レストラン『ポール・ボキューズ』で研修を行う。2012年8月に帰国し、家業である「Ryokan浦島」に新設されたフレンチレストラン『ラ・プラージュ』に就職。スーシェフを経て、2015年9月よりシェフを務める。
access_time 2018.09.14

米や水がおいしいのも、当たり前のことじゃない。

佐渡島の面積は約855㎢。日本海に浮かぶ、国内最大の離島だ。北部と南部には山地が走り、中央部には大きな国中平野が広がっている。豊かな土壌や変化に富んだ気候のおかげで、米づくりを中心に野菜や果樹の栽培も盛ん。「おけさ柿」や最高級の洋梨「ル レクチエ」、“黒いダイヤ”と呼ばれるイチジクの「ビオレ・ソリエス」など、特産品も多い。「Ryokan浦島」のフレンチレストラン『ラ・プラージュ』の須藤良隆シェフは言う。
「佐渡は魚沼と並ぶお米の名産地。適度な気候や清らかな水、ミネラルを含んだ潮風など、佐渡特有の環境で栽培されるお米は需要が高く、生産が追いついていないほどです。島外に出てみて、そのうまさに改めて気づきました」(須藤さん)
左から須藤シェフ、岩﨑さん
「Ryokan浦島」で営業広報を務める岩﨑貴大さんが続ける。
「トキと共生できるよう、島内全体で減農薬や化学肥料の削減に取り組んでいるので安心安全。米と水がいいから、佐渡産の日本酒もおいしいです。それって当たり前のことじゃない。自分たちは恵まれていたんだなって、大人になって初めてわかりました」(岩﨑さん)

大切に育てられたとれたての野菜や果物は、香りが良くて味が濃い。

前職である「地域おこし協力隊」の活動をきっかけに、佐渡の生産者らと交流を深めた岩﨑さん。今もその関係を大切にしている。
「棚田のお米や消費しきれない野菜をレストランや給食センターに納品するなど、担当地区のサポート活動を行っていました。その一環として、高齢のご夫婦が育てる柚子をバックアップ。小さくて商品にならなかったものを『ラ・プラージュ』で柚子カクテルにしてもらったり、蔵元の『真野鶴』さんで柚子酒にしてもらったりしていたんです。今も休みの日には自主的に、柚子の収穫や管理の作業を続けています」(岩﨑さん)
須藤シェフの母方のご祖父母の農家で
一方、須藤シェフは、母方が農家。イチジクをメインに、さまざまな農作物を育てている。幼い頃から稲刈りや田植えを手伝っていて、幼なじみの岩﨑さんもよく一緒に来ていたという。
「おじいちゃんおばあちゃんには、実の孫のようにかわいがってもらいました。今もこうしてつながっていられるのは幸せですね」(岩﨑さん)
左が須藤シェフのご祖父
「独自につくっている堆肥で大切に育てていて、とてもおいしいです。『ラ・プラージュ』でも使わせてもらっているんですが、とれたての野菜や果物は格別。若いうちに収穫し、流通の過程で熟させるものとは全然違って、香りが良くて味が濃いんですよ。ちょうどよく熟れたものを、そのまま使うと仕上がりも全然違います」(須藤さん)
須藤シェフのご祖父母と

新鮮で質のいい魚を自分の目で見極められるのは、ありがたいこと。

佐渡島の海岸線は約280㎞にもおよぶ。天然の良港に恵まれ、エビやカニ、ブリやイカなど、多彩な魚介類が水揚げされる。日本海の荒波が育む海藻類や貝類も滋味に富み、加茂湖や真野湾では味に定評のある牡蠣の養殖も行われている。
本土の新潟港から島の中央東部にある両津港までは、高速船で約1時間。近くの佐渡魚市場では、毎朝、新鮮な海産物が競りにかけられる。
佐渡魚市場で岩﨑さんと
「父方のルーツが魚屋なんですよ。普通なら市場で直接買えないんですが、旅館を始めた祖父の代まで営んでいたから、購入できる権利を得ているんです。新鮮で質のいい魚介類を自分の目で見極められるのは、料理人にとってとてもありがたいこと。和食の料理長にも助けてもらいながら、常にいいものを仕入れています」(須藤さん)
「浦島」の取締役料理長、阿部広さんと
幼い頃から市場へ足しげく通ってきた須藤さん。今も変わらず、皆さんからかわいがられている。
「目利きのノウハウも何もかも、ここにいる皆さんに教わってきました。佐渡島は食材が豊富ですが、何もかもが毎日そろうわけではありません。その日とれたものからメニューを発想するのが、日常になっています」(須藤さん)
佐渡島黒ファームにて

循環農法で育てた黒豚は、三つ星レストランにも支持される味。

養豚は以前、佐渡では行われていなかったが、浦島の会長が「佐渡島黒ファーム」という別会社を立ち上げ、黒豚の飼育に取り組んでいる。
「黒豚は一般的な豚に比べて、育てるのが難しいんです。病気に弱くて育つのも遅く、生まれる頭数も半分以下。だけど抜群においしいんですよ」(岩﨑さん)
ストレスがかからないよう放牧にし、循環農法を採用。牧場を大きく三面に分け、豚を移動させながら野菜も育てている。
佐渡島黒ファームにて
「豚の飼育によって肥えた土に種を植え、収穫後の野菜くずも豚の飼料にするという循環を行っているんですが、とてもおいしい野菜ができますよ。ここで育てた黒豚は、味がすごくしっかりしていて、脂身にも甘みがあり、くさみがない。数が少ないので出荷場所は限られていますが、フランス校(辻󠄀調グループ)の同期を通じて、東京の三つ星レストランでも使ってもらったり。佐渡発の食材が好評だと、やっぱりうれしいですね」(須藤さん)
佐渡独自の陶器『無名異焼(むみょういやき)』

佐渡にしかない土でつくられる独自の陶器を、もっと伝えていきたい。

『ラ・プラージュ』が打ちだす佐渡産の品は、食材だけに留まらない。佐渡独自の陶器「無名異焼(むみょういやき)」もお勧めの特産品だ。窯元『北沢窯』の其田弘輔さんは語る。
左が窯元『北沢窯』の其田弘輔さん
「佐渡金山周辺から採れる無名異という赤い土と、粘りのある白い土を混ぜて焼き締めた陶器です。粒子の細かさや鉄分の量を、私たち職人は舌で確認するんですが、酸化鉄を多く含む無名異は、かつて薬としても使われていたほど、身体にいいとされています。焼成後、通常なら1割程度のところ3割も収縮するので、固くて割れづらいんですよ」(其田さん)
自身も窯元へ何度かつくりに行ったことがあるという須藤さん。
「独特の風合いが楽しめ、使えば使うほど味わい深くなる。料理に使うことで欲しがってくださる方もいて、窯元を紹介すると喜んでいただけます。窯も後継者も減ってきているようですが、大切な佐渡の魅力として伝えていきたいです」(須藤さん)

おいしさに感動できるレストランなら、遠くても足を運んでもらえる。

佐渡にもビストロスタイルのお店はあるものの、『ラ・プラージュ』のようなフレンチレストランは類がない。当初敬遠されるのではという懸念もあったという。しかし今では年配の方にも愛され、リピーターも増えている。
「幼い頃から家業を手伝い、大人の人たちに可愛がってもらえたおかげか、自分は佐渡を嫌だと思ったことは一度もありません。人も自然も、すべてが大好きです。だけど佐渡産のものは、まだまだ知られていません。島外に限らず島内の人も、『こんなおいしい食材が佐渡にあるんだ』と言ってくださることが多く、もっと発信したいという気持ちが高まってきました」(須藤さん)
佐渡の魅力を伝える『ラ・プラージュ』の役割は大きく、自治体から「これを使って何かできないか」と相談されることも増えてきた。
『Ryokan浦島』東館ロビー
「おいしさに感動できるレストランなら、どんなに遠くても足を運んでもらえる。フランスはまさにそうでした。ここの料理が食べたいからと佐渡島に来てくれるお客様を増やして、活性化につなげたい。そのためにも生産者とのつながりを深めて、佐渡ならではの魅力的な料理を生みだしていきたいです」(須藤さん)

須藤良隆さんの卒業校

辻󠄀調理師専門学校 launch

辻󠄀調グループ フランス校 フランス料理研究課程 launch

辻󠄀調グループ フランス校

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フランス・リヨンに郊外にあるふたつのお城の中には、
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