INTERVIEW

フランスでシェフの社会貢献は当たり前。自然栽培の聖地で、食の安全を守り、笑顔につなげることも、自分の使命です。

la clochette オーナーシェフ
橋田祐亮さん

profile.

東京都出身。エコール 辻 東京から辻調グループ フランス校へ。2000年卒業後、都内のレストラン数軒での修業を経て、2008年、再度渡仏。数々の星付き店で経験を重ね、石川県羽咋市に2015年5月、フレンチレストラン&カフェ『夢喰庵』をオープン。移転リニューアルの形で、2017年4月、同市にフレンチレストラン『la clochette』を開業。妻・香南子さんの手がける焼き菓子専門店『le week-end』を併設する。香南子さんもエコール 辻 東京の卒業生。

フランス料理の土台となった 地方色に触れたかった。

「パリはパリ。フランスじゃない。東京も東京でしょう? 世界中から最高のものを集めている場所なんです。再びフランスへ行って何を学びたかったかといえば地方色。最先端の料理よりも、フランス料理の土台になったものに触れたかったんです」
もとは地方から上がってきた料理人たちが、地元の料理を高級にアレンジして出していたのがフランス料理の起源。アレンジは自分で考えればいい。フランス校を卒業後、都内で約8年間の修業を積んでからの渡仏では、土地土地ならではの気候や食材だからこそ生まれた料理を吸収しよう。そう考えて、ロット=エ=ガロンヌの三つ星『ミシェル・トラマ』に始まり、オーヴェルニュ、ブルターニュ、バスク、ブルゴーニュ…と、各地の星付きレストランばかりを周った。
「観光客が多い場所ばかりだったので、地方らしさを出すのが大前提。昔からある地方料理を星付きのレベルに昇華させていく過程を見られたのが一番大きかったですね。話せるようになってくると重要なポジションにもつけてもらえたので、新しいメニューを一緒に考えたり。それぞれのシェフがもつ料理哲学を知れたのも勉強になりました」

どうやって“ワォ!”を出そうか いまでも常に考えている。

最後に3年間働いたカンヌの二つ星『ヴィラ・アルカンジュ』では、スーシェフにまでなり、すべてのソースを担当。カンヌ国際映画祭でVIPの料理も手がけた。その店は三つ星を狙っていて、メニューを考える際には、味はもちろんそこに驚きがあるかを重視していた。
「面白かったですね、ミシュランとの戦い方が知れて(笑)。ポイントは、味、火入れ、食材、そしてちょっとの驚き。『これはおいしいけれど“ワォ!”が足りない』なんて言われていました。いまも料理をつくるときには、どうやって“ワォ!”を出そうか考えています」
フランスでの約6年間の修業を経た2014年12月。翌年秋に石川県でオープン予定だった新店舗へと声がかかり、まずは地元を知ろうと帰国した。しかし春になり入った延期の知らせ。同じく辻調フランス校出身の妻・香南子さんが同県羽咋(はくい)市に開いたカフェ『夢喰庵(ばくあん)』に料理を提供するのは、当初は開業までのつなぎのつもりだった。

これまでの味覚が自分の口に 残っているから味は下げられない。

「閉めて就職しようという話もしていたんですが、ミシュランが調査にきたんですよ。うわぁ、こんなところにも来るんだと(笑)。もしかしたらビブグルマン(安くてお勧めの店に与える印)ぐらいもらえるかもしれないし、それから辞めようかと思っていたんですよね」
以前から評判は高かった。だからこその調査だったのだろうが、結果は見事、一つ星。ミシュランに並ぶフランスの美食ガイド本『ゴ・エ・ミヨ ジャポン』でも紹介された。
「逆に申し訳ないなと。日本家屋をそのまま使った店舗で家庭用のキッチンでしたから、二つ星三つ星でつくっていた料理とレベルが違うわけですよ。ちゃんとやったらもっと上も目指せなく無いかもしれないなって(笑)。できる範囲で評価されたのはありがたかったですね。やっぱり味は下げられないんですよ。これまでの味覚が自分の口に残っているから、妥協したものをお客さんに出したくない。『おいしい』の基準を築けたのはフランスです」

季節の移り変わりがよく見える 田園風景が場所の決め手に。

「いい記念になったぐらいに思ってたんですが、こんな田舎で周りに何もない店なのに、各地からお客様が来てくださるようになって。だったら食材も豊富で人もいいし、住みやすいから、同じ羽咋市に新店舗をオープンすることにしたんです」
飲食店跡に移って厨房を改修。柳田ICから車で1分ほどとアクセスも良くし、駐車スペースも確保した。店名も『ラ・クロシェット』に変更し、香南子さんによる焼き菓子専門店『ル・ウィークエンド』も併設する。
「決め手は風景ですね。周りが全部田んぼで、季節の移り変わりがすごく見える。冬には雪がうっすら積もり、白鳥が来たりするんですよ。街なかでやると“らしさ”って出しにくい。だったら、これぐらい田舎の方がいいかなって。フランスの地方に学んで、日本の地方で開業するのも何かの縁。前の場所であれだけ来てもらえたらから大丈夫だろうと、『夢喰庵』のでの経験が自信をつけさせてくれました」

三つ星『ポール・ボキューズ』の 活気あふれる調理場が目標。

「観光客の来る場所ではないので、食材に恵まれた地の利を活かしつつも、地元産にこだわらず、今まで知らなかった料理を知ってもらう場にしたい。一番はおいしいこと。そのなかで、ちょっとの『ワォ!』があることを軸に置いていきます。高齢化が進む能登地方でお店を続けるためには、幅広い世代の人に愛してもらえることが大切。敷居を低くして、いろんなお客さんに好きになってもらいたいです」
以前は夫婦2人だったが、スタッフも増員。
スーシェフには、フランスで仕事をともにした同い年の料理人を呼び寄せた。彼の奥さまもまた辻調出身。オープンは2017年4月。
「彼とは意思疎通が完璧なので、描く理想を思う存分、形にできそうです。目標は今でも、フランス校時代に研修で行った三つ星『ポール・ボキューズ』。後にも先にも、あれほど活気ある調理場はなかった。日本の人間国宝にあたるM.O.F.(フランス国家最優秀職人章)が3人もいましたからね。全員のレベルが高かったから足の引っ張り合いもなく、すごくいいテンションで仕事を進めていました。ボキューズは厳しくも優しく、スタッフを見捨てることがなかった。そんなシェフの在り方が、心に強く残っています」

「どんなこともお客様の笑顔に つながっている」という言葉が原点。

「フランスのシェフにとって社会貢献は当たり前。食育にも積極的に参加します。カンヌのシェフも、『食の1週間』という企画で保育園へ給食をつくりに行っていました。自分もいま、羽咋でそういった取り組みができないかと打診しているところです。子どもたちに食の楽しみを伝えて、安全な食を知る入口をつくれたらなと。食の安全を守り笑顔を生みだすことは、料理人の使命でもありますからね」
子どもが産まれてから、食の安全を強く意識するようになったという橋田さん夫妻。香南子さんも、家族の健康などについて考える場『サンテ!』を立ち上げ、勉強会などを通じて子育て主婦らとの情報共有に努めている。
「同じ思いの人が多く、心強い地域です。羽咋市は、海外からも視察に来られる自然栽培の聖地。JAと市が一体となって後押ししているのは素晴らしいこと。そういった自然の恵みもメニューに活かし、ここでしか味わえない料理や風景や空気を、皆さんの笑顔につなげたいです。フランス校の実習で『どんなこともお客様の笑顔につながっている』と先生から言われたんですが、その言葉があったからこそ、つらい修業時代も前向きになれました。いまも変わることのない、僕の原点です」
(料理写真提供 吉岡 栄一)

橋田祐亮さんの卒業校

エコール 辻 東京 辻フランス・イタリア料理マスターカレッジ launch

辻調グループフランス校 フランス料理研究課程 launch

辻調グループ フランス校

本場でしか学べないことがきっとある
フランス・リヨンに郊外にあるふたつのお城の中には、
フランス料理とヨーロッパ菓子を学ぶための最新設備がずらり。
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