No.026
世界で戦う人に学びたい。最高峰の国際大会で1位を獲得したシェフパティシエのもとで、努力とは何かを知る。
ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ パティシエ
飯岡 奈々さん
profile.
神奈川県横浜市出身。横浜市立南高等学校の調理部に入り、高校生3人1組のパティシエ日本一を決める「スイーツ甲子園」に出場し、全国大会へ進出。辻󠄀調フランス校への留学を視野に、カリタス女子短期大学フランス語フランス語圏文化コースを卒業。エコール 辻󠄀 東京 辻󠄀製菓マスターカレッジからフランス校秋コース(2015年10月~2016年8月)への留学を経て、2016年9月から『ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ』に勤務。現在に至る。
access_time 2017.09.08
最優秀賞がとれなかった悔しさから、「世界レベルの努力」について考えた。
「ピアノも途中でやめちゃいましたし、運動も好きじゃなかったですし。ずっと楽しくて続けていたのが、お菓子づくりだけだったんですよね。小学生のときから、周りにも『パティシエになる!』って宣言していて。短大でフランス語を学んだのも、辻󠄀調のフランス校へ留学するためだったんです」
フランス校時代
1年目の東京校では、クラシックなものから、今の日本の洋菓子、皿盛りのデザートなど、あらゆるパターンのお菓子づくりを学んだ。フランス校へ進むと、レストラン形式での実習を重ね、研修先はあえて日本人のいない環境を希望。積極性を高め、精神面も鍛えた。その頃の目標は、校内の最優秀賞をとること。しかし結果は、2位にあたる優秀賞だった。
「それが悔しくて悔しくて仕方なかったんですよね…。先生からも、『お前ならもっと頑張れたんじゃないか』と言われて。この悔しさをどう消化しようかと悩んでいたとき、学校に置いてあった雑誌で、德永シェフの特集記事を読んだんですよ」
The SHOP N.Y.LOUNGE BOUTIQUE
ザ・リッツ・カールトン大阪および東京で活躍し、数々のコンテストで優勝を果たしてきたパティシエ、德永純司さん。2015年、世界最高峰の国際大会「クープ・デュ・モンド」に日本代表として参加し、チョコレートピエス部門で1位を獲得。チームを世界準優勝へと導いた。
「桃のパフェ」
2016年4月には、ホテル インターコンチネンタル 東京ベイのエグゼクティブ シェフパティシエに就任。大きな話題を呼んだ。
「『もっと頑張れた』って、どういうことなんだろうと。だったら世界レベルで頑張った人たちを見てみたい、世界で戦う人に学びたいと思っていたとき、目に留まったのが德永シェフでした」
The SHOP N.Y.LOUNGE BOUTIQUEにて徳永シェフと
最初は「こんな気さくに話かけてくださるのか!」とビックリしました。
2016年8月にフランス校から帰国し、ホテル インターコンチネンタル 東京ベイへの就職を志望。9月から勤めることになった。
「最初はホテル内のブッフェレストランで出しているグラスデザートのグラスを用意することなどから始めました。だけど早い段階からパティシエール(カスタードクリーム)を炊くなど、工程に関わらせてもらえるようになったのは予想外でした」
同ホテルのパティシエは20名ほど。まだポジション的に德永シェフと直接関われることは少ないが、それでも折にふれて助言をもらえるという。
「想像以上に、よく見てくださっています。私が作業をしているときに見かけていただけたら、指導をしてくださる。こうすればもっと早く作業できるのか、きれいに仕上がるのかと発見ばかり。何よりシェフの仕事を見ているだけでも勉強になります」
そこへ現れた德永シェフの意外な言葉。
「今日はえらくかしこまってるなぁ・・・普段はけっこうイジられてるんですよ、僕が」(德永さん)
「そんなことないですよ!(笑)いつもこんな感じです。最初は『こんな気さくに話しかけてくださるのか!』とビックリしました。こちらが戸惑ってしまうぐらい…」(飯岡さん)
「(笑)仕事ぶりはコッソリのぞいて、よく見てますよ。真面目なんですよね、彼女。とても丁寧に仕事をしてくれていると思います」(德永さん)
世界トップの人間がやっていることも、結局は、普段の仕事の積み重ね。
勤めはじめて早々に「参加したければ」と勧められ、飯岡さんはジュニア技術コンクールのチョコレート部門に出場。しかし非常に悔いの残る結果となったという。「初めてつくったにしては上手でしたよ。僕なんて形にもならなかったですからね(笑)」という德永さんの言葉にもうまく笑い返せず、目を潤ませる。それほど落ち込んだようだった。
「『もっとこうしておけば良かった』という後悔だけでなく、勉強できたことも多かったです。コンクールに挑戦するからといって迷惑をかけてはいけないと、普段の仕事も見劣りしないぐらいしっかりやろうと意識も高まりましたし。すべてのことに対して士気が上がりました」(飯岡さん)
パティシエにとってコンクールはどういうものなのか。「仕事が終わってからは自由。普段の仕事さえきっちりやってくれれば、参加するかどうかは好きにすればいい」と念を押したうえで、德永さんはこう語る。
「自分自身に限っていえば、挑戦してきたからこそ、いろんなことが学べました。出るたびに技術力は確実に上がりましたし。コンクールのときってすごく集中するんですよ。練習のために仕事を早く終わらせたい思いもあるから段取りも良くなるし、質もスピードも上がるんですよね。一つ確実に言えるのは、普段、仕事の汚い人が出場したって、絶対に評価されないってこと。トップの人間がやっていることって、すごく難しいことなのかと思いきや、普段の仕事の積み重ねなんですよ。それは実際に世界を見て気づきました」(德永さん)
ニューヨークラウンジのオープンキッチンで
このホテルは、やりたいことには自由に挑戦させてもらえる。
「若いときって、なかなか自分が表現したいものをつくれないでしょう。ショップのケーキを考えられるレベルになるには時間がかかる。だからコンクールが唯一の自己表現の場になるんですよね。先輩からの指示に従って自分を出せないでいる、その発散の場としてもいいと思いますよ」(德永さん)
かつてコンクールといえばホテルの独壇場だった。専業化により技術を高め、対策にも力を注ぐ。しかし時代が変わり、勤務時間外の練習も難しくなってきたそうだ。
「だけどここは今どき珍しく、なんでもやれる環境。自由に挑戦させてもらえるし、普段の仕事も、できるようになったスタッフからどんどんやらせます。若い人にとってチャンスの多い職場だと思いますよ」(德永さん
ムースを組み立てたり、ウエディングケーキを塗ったり、ショートケーキを仕上げたり。飯岡さんが入る仕事もどんどん広がってきている。ラウンジのオープンキッチンでデザートを盛りつけたり、アフタヌーンティーのセットをつくったりする仕事も、ローテーションで回ってくる。
「一般的な店舗より労働時間が短く、休日も多い。その分、プライベートの時間も確保しながら、勉強にも時間を費やせ練習もできます。次も同じコンクールにリベンジするつもり。今度こそ入賞して、応援してくれている人たちに良い報告をしたいです」(飯岡さん)
仕事の幅が広く、一通り経験できるまでに時間がかかると思っていた。
ホテルと街場の店舗には、それぞれ別のイメージがある。辻󠄀調グループ フランス校の春コースを卒業後、2017年4月に入社をした新田雄大さんは、将来的にはホテルを志望していたものの、まずは街場で経験を積むべきだろうと考えていた。
辻󠄀調グループ フランス校卒業後、2017年4月に入社の新田雄大さん
「若いうちは圧倒的に経験値が足りないから、労働時間の長い街場でたくさん働いたほうがいいと思っていたんですよね。德永シェフのことはドキュメンタリー番組の『情熱大陸』で見てずっと憧れていたんですが、まずは街場で体力づくりを図ろうと(笑)。それに、ホテルは完全分業制で、一つのポジションを長く担当するイメージがあったんですが、先に入った飯岡さんのおかげで違うとわかりました。まずは一つずつ仕事を覚えて、将来的には先輩方のように幅広く携わっていきたいですね」(新田さん)
「実は私も同じ心配をしていました。ショップだけでなく、レストランやカフェ、ウエディング会場なども抱えるホテルは、仕事の幅は広いけれど、一通り経験できるまでにかなりの時間を要すると思っていたんですよ。それは出産や育児を控える女性として痛い。逆に街場ならガッツリお菓子をつくれ、即戦力になれるという漠然としたイメージがあったんですが、ここのホテルはそんなことありません。すでにオーダーケーキでマジパンの人形をつくる機会もあったりして楽しいです」(飯岡さん)
尊敬するシェフから「あいつ頑張ってるな」と言ってもらえるよう貪欲に。
「新たなことを練習してできるようになって、『やれるようになったね』『きれいにできたね』と言われる瞬間は、本当にうれしいです。しっかり評価してくださるシェフなので、頑張ろうと思えます」(飯岡さん)
まずは人の言うことを聞いて、その通りに動けるようになることが大事。そうすれば、どんどん教えてもらえ、どんどん吸収できる。「だから素直じゃないとソンをする」と德永さんは言う。
「あくまで僕個人の考えですけど、上の人間を尊敬できなければ辞めればいい。尊敬できなければ学べることもないし、自分を高めることができるところを探せばいいと思いますよ。僕はそうしてきたんでね(笑)。あとはドキドキ感がなくなったら次に移る。最初の頃はそれを判断基準にしていました。逆に長年、やり続けることで得られるものもある。人それぞれなので、自分に合ったやり方で進めばいいと思いますよ」(德永さん)
「ショートケーキとキャラメルショコラオランジュ」
「意欲を示せばなんでも挑戦させてもらえる職場なので、着実に成長して、先輩に信頼されるスタッフになりたいです。ゆくゆくはオールマイティに仕事ができるパティシエになって、自信をもって自分のつくったものを出せるようになりたい。德永シェフと出会って、凄まじい努力をされて今があることや、自分はそこまで努力できていないことを思い知りました。シェフから『あいつ頑張ってるな』と言ってもらえるよう、日々貪欲に頑張ります!」(飯岡さん)
辻󠄀調グループ フランス校
本場でしか学べないことがきっとある
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フランス料理とヨーロッパ菓子を学ぶための最新設備がずらり。
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