No.040
人を笑顔にできる洋菓子の世界に憧れて、この道に入りました。今は販売の創造性に夢中です。
Avranches Guesnay(アヴランシュゲネー) ヴァンドゥース(販売)担当
平田裕香さん
profile.
平田裕香さん/東京都立府中西高等学校卒業。2013年3月、エコール 辻󠄀 東京 辻󠄀製菓技術マネジメントカレッジ卒業。都内の洋菓子店での販売・製造、アグネスホテル東京のパティスリー『ル・コワンヴェール』での販売を経て、2015年9月開業のパティスリー『Avranches Guesnay(アヴランシュ・ゲネー)』では販売部門の主要スタッフとしてオープニングから参加し、現在に至る。
上霜考二さん/西宮市立西宮東高等学校卒業。辻󠄀製菓専門学校を経て、1994年に辻󠄀調グループ フランス校を卒業。フランス・ノルマンディの『ル・パヴェ・デュ・ロワ』で研修を積む。1995年の帰国後、『ホテル インターコンチネンタル東京ベイ』『オテル・ド・ミクニ』などを経て、2005年に『パティスリー・ジャン・ミエ・ジャポン』のシェフパティシエに就任。2008年にアグネスホテル東京のパティスリー『ル・コワンヴェール』の開店と同時にシェフパティシエとして迎えられる。同店に在籍時、2011年公開の映画『洋菓子店コアンドル』に製菓監修で参加。2015年9月に自身がオーナーシェフを務めるパティスリー『Avranches Guesnay(アヴランシュ・ゲネー)』を開業、現在に至る。
access_time 2017.12.15
「最初は反対した母も、私の決意に共感してくれて、『やるならじっくりやりなさい』と」
東京都文京区、春日駅のほど近くに赤いファサードが印象的な洋菓子店『Avranches Guesnay(アヴランシュ・ゲネー)』がある。近隣には名門校も多く、都内きっての文教エリアでもある。2015年9月のオープニングから販売を担当する平田裕香さん。オーナーシェフパティシエの上霜考二さんと共にインタビューに応じていただいた。
「母が調理師だったこともあって、幼い頃から料理やお菓子づくりに触れる機会が多かったと思います。食器棚にセルクル(洋菓子用の型)が入っていたほどで、洋菓子づくりは身近な存在でした」
幼いころから洋菓子づくりへの興味は高かった平田さん、本格的に進路としての製菓学校を意識したのは高校1年生の頃だったという。
シェフパティシエの上霜考二さん(左)
「合唱部の先輩がティラミスをホールでつくってきてくれて、ココアパウダーで猫をかたどっていてすごく可愛いかったんですね。みんなで、『美味しい、美味しい』と食べながら、『美味しいもので人を笑顔にできるって素敵だなぁ』と思いました。その先輩が進学したのが、エコール 辻󠄀 東京だったんです」(平田さん)
エコール 辻󠄀 東京時代
「大学に4年間行って、なんとなく自分の進む方向を見つけるよりも、すぐに技術を身につけたかったから、実習の多いこの学校で、自分らしく学びたいと、はっきり思いました。
でも、最初は母に反対されたんです。ジャンルは違うにせよ、食の世界の厳しさ、辛さを知っていた母は、自分の娘には苦労させたくないと思ったようで。でも、私の気持ちの決まり方を理解してくれて、『行くならじっくり学べる2年制に入学しなさい』と。すごく嬉しかったですね」
エコール 辻󠄀 東京時代
製菓の基本技術を
しっかりと学べた2年間。
「先生が丁寧に解説しながら、お菓子づくりの見本を見せてくれる『実習講習』は、ほんとうにありがたかったと、実際に洋菓子店で働くようになってから身に染みて感じました。製菓の現場では仕事しながらなので、先輩の仕事をじっくりと見られないし、質問するのもそれぞれ忙しくて難しい。実習講習は見ることに集中できるし、ノートも取れます。今でもそれは大きな財産ですね。それと、希望すれば放課後の補習も受けられるので、フルに活用しました。最後の方は、補習の枠の取り合いになるほどみんな頑張ってましたね」(平田さん)
左から上霜シェフ、大川教授、平田さん
母校に恩師を訪ねたことが
新しい道を開いてくれた。
学生時代、食べ歩きをするなか、ここに行きたいと思った都内の洋菓子店に就職、希望通りの流れではあったが…
「販売担当から、製造へと移ったのですが、あまりの忙しさに体調を崩して、1年2ヶ月ほどで退職したんです。自分にとっては、とてもきつい体験で、もう洋菓子の世界には戻れないかもしれないと思ったりもしました」
「そんな時、母校を尋ねて先生方とお話しさせていただいたんです。こんな辛い時に話をしに行ける場所があるのは、本当にありがたかったですね。後日、学生時代にとてもお世話になった大川先生から連絡をいただいて、『卒業生の上霜さんがシェフを務めているアグネスホテルで販売の募集があるけど応募してみるか?』という内容でした」(平田さん)
映画『洋菓子店コアンドル』の撮影現場で
大川満教授は当時の状況をこう振り返る。
「上霜シェフとは映画『洋菓子店コアンドル』の製菓監修でご一緒させていただいたご縁もあり、その後メールもよくいただいていました。映画の撮影現場でのとことんやりきる上霜シェフの職人気質にも共感しましたし、スタッフたちとの共同作業も大変でしたけど面白くて、印象深い仕事でした。
映画『洋菓子店コアンドル』の撮影現場で
上霜シェフからこのお話をいただいたときに、真っ先に平田さんの顔が浮かんだんです。平田さんは学生時代に販売実習が上手だった印象があって、きっといけるんじゃないかと思って声をかけました」(大川先生)
「就職活動の時も、たくさんの洋菓子店を食べ歩きしました。ケーキはすごく美味しいのに接客がよくなくて残念な気持ちになったこともあって、学生時代からずっと販売の役割はとても大切だと感じていました」(平田さん)
情熱を持ってケーキを売ることができる。それは洋菓子店にとっての大きな付加価値。
『Avranches Guesnay(アヴランシュ・ゲネー)』の開業にあたって準備を進めていた上霜さんは販売スタッフとしてオープニングから参加してくれないかと平田さんに声をかけた。
「洋菓子店を経営するうえで、販売はとても大切だと思っていました。彼女は販売を一生懸命できる人。『売りたい!』と情熱をもって売り場に立っている人でした。これは、なかなかできるようでできない。僕は彼女に『今の職場ほど払えないけど来てくれる?』と聞いたら、『行きます!』と言ってくれたんです」(上霜さん)
販売の重要さを知り尽くしているからこそ、これまで上霜さんが責任者を務めてきた店では、製造スタッフたちも売り場に立たせてきた。販売を通じて、若いスタッフたちに洋菓子を作る意味を考えさせてきたのである。販売が重要である、という理念の原点は、辻󠄀調グループ フランス校への留学時代にあったという。
「フランス校に留学して気づいたのは、どんなに全力でケーキを作っても、その値段を決めるのには、味以外の要素が大きく影響している。建物、インテリア、そしてサービス。それらすべての付加価値があってケーキの値段が決まるのです」(上霜さん)
お客様の気持ちを想像し、
1人ひとりに合った対応を考える
平田さんが心がけているのは、お客様1人ひとりがどのような気持ちでお店にいらしているのかを想像することだという。
「お客様には色々な方がいて、邪魔されずにじっくりとケーキを見たい方もいれば、声をかけてほしがっている方もいます。お客様が何を感じているかを一生懸命捉えるようにして、たとえ対応を間違った場合でも、必ず次につなげようと思って行動しています」(平田さん)
左から、モンドール、アンベリール、タルトリュバーブ
「明らかに平田さんに接客してもらいたいと思って来店しているお客様もいますよ」と上霜さんからも見えるほど、平田さんの接客はお客様に届き始めているようだ。平田さん自身も販売を専門にしたことで得た成果をこう感じている。
「販売という仕事の持つ創造性に気づいたんです。お客様によってしてほしいこと求められている内容は違います。一人ひとりのお客様にとっての正解を探すのがとても楽しくて、おいしいケーキをつくるのと同様に、人を笑顔にできる。製造と販売の両方を経験して、創造的に販売することの大切さ、奥深さを実感しています」(平田さん)
左から マカロン サモトラケ、ムラングシャンティー フリュイルージュ、ピスターシュ、オペラ フィグ ヴァンルージュ
「不器用な自分は『想い』を大切にしながらも、結果を出していきたい」
2017年9月に開業から3年目を迎えるアヴランシュ・ゲネー。最近になってスタッフの数も揃い、少しずつ忙しさも落ち着いてきた。
「僕らが同じことを続けていれば、お客さんだって飽きてしまう。だから視点を変えて、ちょっと変わったものも出してみる。お客さんもそうですが、何より自分たちが退屈したら終わりだと思いますからね。スタッフたちもお店と一緒に少しずつ変化していければいいなと思っています。」(上霜さん)
「販売で嬉しいのはやはり目標以上の売上が達成できた時です。結果が出るのは嬉しいことです。自分自身、至らないことはたくさんあるけれど、目の前のことを一つひとつこなしていきたい。不器用な自分は、『想い』を大切に、一歩一歩進んでいきたいです」(平田さん)
エコール 辻󠄀 東京
辻󠄀製菓技術マネジメントカレッジ
(現:辻󠄀調理師専門学校 東京)
「お菓子をつくる」「お菓子を販売する」そのすべてを2年間で学びとる。
基本を積み重ね、応用し、実践力を身につける2年間。
現場で求められる技能を身につけ、
一流パティシエへの道を切り開く。
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