INTERVIEW

めざしたのは、“いちばん丁寧な和食レシピサイト”。身体にしみ込むおいしさや、素朴だけど記憶に残る料理を、多くの人に味わってほしい。

料理研究家/『白ごはん.com』主宰
冨田ただすけさん

profile.

山口県下関市生まれ。南山大学外国語学部を卒業後、惣菜の製造販売を行う『ロック・フィールド』に就職。1年後に、辻調理師専門学校へ進学し、2004年に卒業。名古屋の日本料理店での修業を経て、食品加工メーカー『寿がきや食品』へ。商品開発に従事する傍ら、和食レシピサイト『白ごはん.com』を運営。月間400万PVを超える人気サイトに成長させ、2013年に料理研究家として独立。2018年にはサイト開設10周年を迎える。

いつか独立して定食屋か惣菜屋を開けたら…そんな夢から食の世界へ。

「母親が手づくりのものを食べさせる人だったんですよ。兄にアレルギーがあったんですが、当時は対応しているお菓子もあまり売られていなくて、家でつくるのを手伝っていました。小学校の低学年頃から包丁を持つようになり、週末には兄と2人で一緒に料理。和食ばかり出る家だったので、ここぞとばかりステーキを焼いたり、調味料を混ぜてソースをつくったり…味は微妙でしたけどね(苦笑)」
料理は好きだったが、将来の夢は見えていなかった少年時代。高校生になると、兄の留学に刺激され、卒業後は実家を出て名古屋にある南山大学の外国語学部へ。洋食屋や惣菜店での調理補助に入るなど、飲食店でのアルバイトに明け暮れた。
「自炊もしていました。成人式の日も実家に帰らず、ブリ大根をつくって祝い酒(笑)。卒業後は食べ物関係の仕事に就いて、いつかは独立したい。やっぱり一番好きなものが“食”だったので、漠然と定食屋か惣菜屋を開けたらなと考えるようになりました」
その第一歩として、惣菜の製造販売を行う『ロック・フィールド』に就職。定期的に料理人や料理研究家を招いて講習会を行うなど、技術を学べる環境に惹かれ、静岡にある工場での調理担当を志望した。
「アツくて良い会社でした。大量調理でありながらも、できるだけ手づくりにこだわりたいと試行錯誤していて勉強になりました。だけど基本のレシピは決まったもの。商品開発にも携わってみたいけれど、今の自分では何年かかるかわからない。やはり基礎力がないと自信がもてないし、料理の道で独立するのも難しいなと考えるようになったんです」
そんななか、NHKの番組『きょうの料理』が主催する料理コンクールに応募したことが転機となる。視聴者が家庭料理のアイデアを競うという企画。祖母の影響で始めたぬか漬けと、当時人気だった惣菜メニューをヒントに、浅漬けを具材にした生春巻きをつくったところ、順調に勝ち進み、見事、準優勝へ。
「優勝は逃しましたが、審査員の一人だった“中華の鉄人”、陳建一さんにすごく気に入っていただけて。翌日、ご自身のお店に招いてくださり、厨房での調理や雑誌の撮影を見学させてもらったんです。一流の世界を垣間見たことで、『ちゃんと勉強し直そう』と思って、周囲の勧めもあり、辻調理師専門学校へ進学することにしました。
もともと料理好きだったので割とできるほうかと思っていたんですが、実際に学び始めると自分より上手い生徒が多く、良い刺激になりました。思いのほか年代も幅広く、同級生とのふれあいを通じて学べることも豊富で面白かったです」

日本料理店での修業や食品メーカーでの商品開発で幅広い学びを得た。

在校中は、オーガニックの惣菜店でアルバイトをする一方で、さまざまな飲食店に訪れ、進路を模索。独立への夢に向けて、まずは日本料理店で修業を積もうと考えていた。
「規模の大きい店だと、分業制で勉強にも時間がかかると思い、中小規模の店舗を探していました。何をするにしても、柱が一つだけより、二つ三つあったほうがいい。そう考えて見つけたのが、料理教室や茶懐石にも取り組んでいた名古屋の日本料理店でした。朝にお弁当をつくって、昼の営業は月半分が通常営業で、残り半分が料理教室、夕方にお弁当をつくり、夜の営業へ。アイドルタイムがないし、料理人が3人しかいないから大変でしたが、鍛えられました。大将がとても研究熱心で、和食屋なりのおいしいソーセージをつくりたいと、名古屋の専門店に研修へ行ったり…学べることばかりでした」
一つずつ引き出しを増やしていくなかで、やはり商品開発にも挑戦したいと転職を検討。3年間の修業を経て、食品加工メーカー『寿がきや食品』に入り、研究開発の職に就いた。
「味づくりから工場への落とし込み、パッケージデザインの考案まで、幅広く関わらせてもらえました。有名店とのコラボ商品では、何度もお店に通って味を確認し、厨房でつくり方を教えてもらい、試作を繰り返して、最終的にゴーサインをもらう。お店の味に近づけないといけない難しさや面白さがありました」
「大量に流通する食品には、料理屋とは違うおいしさが求められる。パンチがあって、うま味もしっかり利いていて…じんわりというより、一口二口で感じる、わかりやすいおいしさです。そのノウハウも勉強になりましたし、ちょうど子どもが産まれたこともあり、できる限り安全でおいしい加工食品をつくろうと努めていました。開発に携わったものには今でも売られている商品が多く、店頭で見かけるとうれしくなりますね」

これまで学んだことを再確認するためにも、レシピサイトをスタート。

一方で、転職後すぐに、家庭料理のレシピサイトをスタート。きっかけは些細なことだった。
「転職して夜8時には帰宅できるようになったんですよ。以前は夜中の12時をまわるのが普通だったから、時間を持て余してしまって(笑)。昔ながらの素朴な家庭料理が好きだったので、家庭的なレシピに自分が学んできたものをプラスして伝えたい。これまで学んだことを再確認する意味も込めて、サイトをつくり始めました。下ごしらえの方法や調味料の配合、あまり知られていなさそうな豆知識や家庭で使えるコツなんかも、レシピに添えられたらなと」
自身で写真も撮影し、パソコンと1日に何時間も格闘。ブログ形式だと思うように写真や文字を配置できないからと、ページをつくるためのHTMLタグもゼロから勉強した。2008年に『白ごはん.com』として正式オープンさせると、週1本のペースで記事をアップ。しかし立ち上げ時は料理人気質が抜けず、不親切な内容だったと振り返る。
「昔は“適宜”や“適量”という書き方を多用していたんですよ。配合なんて数字にできるもんじゃないし、よりおいしいものをつくりたい人が見てわかればいいと思っていて。だけど求めていたのは、『和食って意外に簡単』『和食ってやっぱりおいしい』という声。だったら誰もが家でつくりやすいレシピじゃなきゃダメだなと。主婦はとにかく時間がないから、できるだけパパッとつくりやすいものがいい。仕事で会うスーパーのバイヤーからもそんな話を聞き、『手を抜いてもおいしくできるレシピ』と『手間はかかるけどよりおいしくなるレシピ』などは区別し、状況に応じて役立ててもらえるよう心がけました」
「野菜たっぷり!常夜鍋のレシピ/作り方」(白ごはん.comより)

一躍人気サイトとなって多くの依頼を受け、料理研究家として独立。

掲げたテーマは、“いちばん丁寧な和食レシピサイト”。写真も多用したわかりやすさが評判を呼び、アクセス数は徐々にアップする。ほどなく、ごはんの炊き方を紹介した記事へのリンクがYahoo!のトップページに貼られると、さらに閲覧数が急増。レシピ提供などの依頼が一気に増え、新たな道を見据えるようになった。
「おでんの具の下ごしらえ、おでん用だしのレシピ」(白ごはん.comより)
「定食屋や惣菜屋は、やろうと思えばあとからでもできる。まずは依頼される仕事を優先しようと、料理研究家としての独立を決意しました。サイトをやってわかったのは、手づくりのおいしさ、特に家庭でつくる和食の魅力を伝える人の少なさです。なかでも自分と同年代の男性は圧倒的に少なく、新たな需要に気づきました」
「たけのこと牛肉の炒め物のレシピ/作り方」(白ごはん.comより)
2013年、ブログで独立を宣言すると、すぐに週刊『AERA』の編集部からオファーがあり、連載が決定。雑誌やパンフレット、企業サイトなどへのレシピ提供や、和食のワークショップ、カルチャーセンターでの料理教室など、最初の3年間は依頼があれば極力受けるようにし、その間だけで11冊もの書籍を出版した。
「だけど紙面になると、文字数や写真の点数にも制約があり、Webほどの自由度がありません。まずは自分のサイトをメディアとして育てていくことが大事だろうと、書籍の仕事は控え、ほかの仕事もセーブしながら、コンテンツを充実させるよう努めています」
トマトとオクラの夏豚汁のレシピ/作り方(白ごはん.comより)

誰かのためを想ってつくった家庭料理は、ずっと記憶に残っていく。

2017年には年間1億PVに迫るほどのサイトとなった『白ごはん.com』。現在は、月に約10本は新しいレシピを載せ、約5本のレシピを改良。動画もアップしている。レシピ数は2018年2月現在で600ほど。TwitterやFacebook、InstagramやLINEの公式ブログでも情報を発信し、多くの人々から絶大な支持を得ている。
「おうちで手作り!和風パフェのレシピ/作り方」(白ごはん.comより)
「基本的には自分のつくりたいものをつくり、家族に食べさせて感想を訊ね、改善したものをレシピにしてアップしています。頻繁にエゴサーチもして、その後の参考に。つくったら子どもががっついてくれた、うちではこうアレンジした、今まで面倒だったメニューも挑戦してみたらおいしかった、意外に簡単だったからまたつくりたい…そんな声が励みになります」
ピーマンの肉詰めの作り方(「白ごはん.com」チャンネルより)
「目下の課題はレシピを増やすこと。大手のレシピサイトと比べると圧倒的に数が少ないんですが、並行してご覧になる人が多いので、差を埋めていきたいです。日々わいてくるレシピもあるし、定番だけど載せられていないものも多く、まだまだアップが追いついていない状態。紹介したいものがいっぱいあって、毎日の仕事が楽しいです。2018年にはサイト開設10周年を迎えるので、何かできたらなと思っています」
手順短冊切りの切り方と手順(「白ごはん.com」チャンネルより)
今年は、料理研究家へと至る出発点にもなった料理番組などにも出演予定。周年記念になればと、オリジナル出汁パックの商品開発にも力を注ぐなど、精力的に活動中だ。やりたいことはいろいろある。自身のスタジオで惣菜を販売するのも魅力的だし、実店舗をスタートさせるのも面白い。だけど料理をつくるときの「大切な人に食べさせたい」という根本に変わりはない。
塩むすびをにぎる(「白ごはん.com」チャンネルより)
「今でも加工食品は好きですよ。子どもも喜んで食べますし、食べちゃだめと言ったこともありません。だけど、その家ならではの味が出やすいのは、やはり手づくりです。誰かが誰かのためを想ってつくったものは、記憶に残ります。かつて自分が母親にやってもらったことを、今は子どもに対してやっている。身体にしみ込むような味は、素朴な家庭料理から産まれるものだと思っています」

冨田ただすけさんの卒業校

辻調理師専門学校 launch

辻調理師専門学校

西洋・日本・中国料理を総合的に学ぶ
食の仕事にたずさわるさまざまな「食業人」を目指す専門学校。1年制、2年制の学科に加え、2016年からはより学びを深める3年制学科がスタート。世界各国の料理にふれ、味わいながら、自分の可能と目指す方向を見極める。
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