INTERVIEW

中学時代からの憧れがカタチになり、福山市初にして唯一のワイナリーを開業。料理を学んだ生産者として、今までにない新たな提案を。

福山わいん工房 オーナー
古川和秋さん

profile.

広島県福山市出身。辻調理師専門学校からフランス校へ。2004年に卒業後、大阪のフランス料理店『カランドリエ』に就職。約2年間の修業を経て、再び渡仏。シャンパーニュ地方の二つ星『ラシエット・シャンプノワーズ』などで経験を積み、2011年2月、地元福山市内にワインをメインにした串揚げ料理店『パンジュ』をオープン。2016年7月に醸造免許を取得し、福山市にワイナリー『福山わいん工房』を開業。同年末に『パンジュ』は休業し、現在はワイナリーの2階で週末限定のワインバーも展開。

シャンパーニュ地方の伝統製法で手造りするスパークリングワイン。

広島県JR福山駅から歩いて10分ほど。なんと商店街のなかに、広島県で3つめ、福山市では初となるワイナリーがある。2階には、週末限定のワインバーも併設。
「福山で最初のワイナリーになるので、みんながアクセスしやすい場所にこだわりました。車では飲んでもらえないので、駅から徒歩圏内、可能であれば商店街でと探したところ、運よく見つかって」
広島県の東端に位置する福山市は、隣接する岡山県と同じく、実はブドウの産地。県をまたいだ連携で「備後ワイン・リキュール特区」に認定され、ワインによる地方創生にも力を入れ始めたが、それもここ、『福山わいん工房』が設立に向けて動き始めてからのこと。
「ワインへの思いありきなので、大それた考えはないですが、僕がワインを造ることで、ちょっとでも街が活性化すればうれしいですね。何よりブドウ農家が廃業し、木を伐採してしまうのは食いとめたい。市内には樹齢80年の古いブドウの木もあるんですが、今植えたって同等のものには生きている間に会えないでしょう。ワインが盛り上がることで守っていけるならありがたいですし、今後、ワイナリーが増えるのも大歓迎です」
『福山わいん工房』では福山市の「マスカット・ベリーA」をメインに、県内や山梨県のブドウを使用。自社畑での栽培も行っている。主に手がけるのは、フランス北東部のシャンパーニュ地方に伝わるトラディショナルな製法にのっとったスパークリングワイン。ブドウを搾汁し、醸造用タンクで発酵させたものを瓶詰めしてから2次発酵させ、さらに約1カ月かけてゆっくり瓶を回す作業を繰り返しながら、澱(おり)を瓶の口に集めて取り除く。すべて手作業で、とても手間がかかる。
「ガスを注入する方法もありますが、このほうが泡が繊細になるし、抜けにくいんですよ。ワイン造りは、読めないことがたくさんあって面白いです。狙った通りにできるものもあれば、思うようにいかないこともある。常に探究が必要ですし、興味の尽きることがありません。それに、たとえばチーズが苦手な人でも、ワインと一緒なら、食べられるどころかおいしく感じることも少なくない。合わせることで相乗効果が得られる…そんなマリアージュにも魅力を感じています。」
ワイン工房2階の週末限定ワインバー

食とワインへの興味から、中学時代には辻調へ進学すると決めていた。

「中学時代から食への興味はあったんですよね。学校の図書室にあった漫画『美味しんぼ』も大好きでしたし。なかでも一番影響を受けたのが『ソムリエ』という漫画。ワインってどんなものなのかと、まだ飲めない分、いっそう興味がわいて」
高校へ進学しても、その思いは変わらなかった。ワインブームが訪れ、すでに日本でもソムリエが活躍していたが、「料理ができて、ワインも提供できる」というポジションは聞いたことがない。だったらそんな人になろうと思うようになった。
「考え方がとがっていて、人と同じがイヤだったんですよ(苦笑)。広島県内にも調理学校はありましたが、進学するのは地元の人間。辻調なら全国から人が集まるし、自分の知らないことに出会える量が多いと考えたんです。子どもの目から見ても、環境が整っているのは明らかでしたし、いろんな分野の先生がいるから、何か質問を投げかけたときに返ってこないことはないだろうと」
念願かなって入学すると、実際にその通りだった。しかしワインありきの選択だったものの、フランス料理に進もうと決めていたわけではない。きっかけとなったのは、自身が衝撃を受けた大阪のフランス料理店だった。
「食べ歩きで訪ねた『カランドリエ』で、料理はもちろん、サービスマンの対応に感動したんですよ。何かをしてほしいと言う前に、何もかもやってもらえる。その後もいろんな店に行きましたが、ここに勝るサービスはありませんでした。なんでそんなことができるのか、その秘密を知りたい。『ここで働きたい』という思いからフランス料理に傾き始め、フランス校へ行ったらワインにふれる機会も多いだろうと、道がつながっていきました」
フランス校時代、研修先のレストラン『ブリケトリー』にて

毎週末、生産者のもとへ。ワイン漬けだったフランス校での留学。

留学中、休みの日にはブルゴーニュのブドウ畑を回り、ワイン造りの片鱗を体感した。ワインに関する授業は、もちろん選択。ワイン授業担当の外来講師、“フライング・ソムリエ”ことジョルジュ氏のワインショップが気になり、ジョルジュ氏の授業を受ける前に足を運んだという。
「フライング・ソムリエというのが、世界中を飛び回っているという意味の肩書きらしく。行ってみるとラッキーなことに日本人が働いていたんですよ。フランスでは18歳からお酒が飲めますしね。週末はそこへ行き、試飲会があれば飲ませてもらっていました。買ってきたワインをフランス校のみんなで飲んだり、先生にお願いして車じゃないと行けないショップにあるワインを買ってきてもらったりと、授業以外はワイン漬けの留学でしたね」
シャンパーニュの研修先にて
「なかでもシャンパーニュ(=シャンパン:シャンパーニュ地方で造られるスパークリングワイン)を飲んでいる率が高かったのを、先生たちがご存じだったみたいで、研修先をシャンパーニュのレストランにしてくださったんですよ。通常、遠方の研修先にはフランス語の得意な生徒が行きがちなんですが、僕が休日にブルゴーニュへ行っていたことも知られていて、アイツなら多少遠くても大丈夫だろうと思われたようです(笑)」
シャンパーニュでの研修期間中、フランスのワイナリーを毎週訪れていた
せっかくシャンパーニュへ行くなら、研修期間中、なるべくたくさん生産者のもとを訪ねたい。研修先のレストランのソムリエと仲良くなれば、そのコネクションで受け容れてもらえるのではと考え実行したところ、作戦は見事に成功する。
「すごく良いソムリエで、研修中の半年間、毎週末連れて行ってくれたんですよね。25軒ほど回らせてもらい、フランス語が苦手ながらも、実際に体感することで、この製法だからこの味わいになるのかといったことがよくわかりました」

卓越したホスピタリティを学び、再び渡仏。料理と製菓の腕を磨いた。

卒業後は志望通り、『カランドリエ』へ就職。仕込みの時間はキッチンに入り、営業時間になるとサービスを担当した。
「まず驚いたのは、すごい量のお客様ノートが保管されていたこと。誕生日や結婚記念日といった記念日はもちろん、前回召し上がったものや好き嫌い、味の好みやお好きな席、ワインの趣味など、すべて書かれている。しかもそのほとんどが、森松(善和)支配人の頭のなかに入っているんですよね。ワインにも精通したシニアソムリエでもありましたし、いまだに彼よりすごいと思ったサービスマンには出会っていない。料理は大前提として、『どうすればお客さまに喜んでもらえるか』という部分において突出したレストランで、とても勉強になりました」
学ぶほどに、もう一度フランスへ行きたいという思いが高まり、2年間の経験を積み退職。資金を貯めるべく、いくつもの仕事をかけもちし、2年後に渡仏。今回はワインよりも料理をしっかり学ぼうと、フランス南西部にあった三つ星のホテルレストランを経て、土地勘のあったシャンパーニュの二つ星『ラシエット・シャンプノワーズ』で働くことにした。
シャンパーニュの二つ星『ラシエット・シャンプノワーズ』時代
「ちょうど三つ星を獲ろうと燃えていた時期で、とても活気がありました。だけどスタッフが多くディナー担当だったので、出勤は昼から。そこで仲良くなったパティシエに紹介してもらい、昼頃まではお菓子屋さんで働いていました。早朝から深夜まで、腕を磨くことがテーマでしたが、ヴァンダンジュ(ブドウの収穫)は経験したかったので、シャンパーニュを造っていたスーシェフの実家へ。手伝わせてもらっているうちに、いつか自分の店で自分が造ったワインを提供できればいいな、なんて夢見るようになりました」
ワインをメインにした串揚げ料理店『パンジュ』時代

夢を後押ししてくれたのは、自店に集うワイン好きのお客さんたち。

約1年間のフランス滞在のうち、最後2カ月はバカンスだったため、興味のあった地方料理を学ぶべくアルザスへ。2010年4月に帰国し、自分のやりたいことをやろうと、2011年2月、地元福山市内にワインをメインにした串揚げ料理店『パンジュ』をオープンした。
「串揚げといっても変わり種だったんですけどね。田舎で出店するには『何屋さん』と銘打たないと難しいので…。串揚げを冠にしたのは、ワインのハードルを下げたかったから。今でこそ福山にもバルが増えてきましたが、フランス料理を謳うと入りにくいだろうなと。めざしたのは、当初の目的だったワインと料理のマリアージュです」
地元はもちろん、各地から足を伸ばしてワイン好きが集まってくる。店の評判は上々だった。後にワイナリーのパートナーとなる理香さんともここで知り合い、2013年に結婚。偶然にも同時期にフランスへ留学し、ヴァンダンジュも体験していたという。
「お客さん同士もみんな仲良くなってくれて。あるとき、山梨のワイナリーを訪ねるツアーに行こうという話が盛り上がり、飲食店や酒販店さん、一般のお客さん7人ぐらいで行ったんですよ。僕らは前乗りして長野の小さなワイナリーも見学したんですが、こういう感じなら自分たちでもできなくはないなと思い至りました」
そこから加速度的に動きだしたワイン造りへの道。同行した酒販店の方から耕作放棄地を紹介してもらい、まずはブドウの植えつけから始めた。多くの人に後押しされ、資金集めに奮闘。ほとんどが『パンジュ』のお客さんである24人からの出資を受け、銀行の融資を獲得できた。理香さんとともに県内の指導者からワイン造りのノウハウを学び、2016年7月には醸造免許を取得。ワイナリーとしてスタートした。
自社農園でのブドウの収穫

自分のワインを目指す味わいに近づけ、新たなマリアージュの提案を。

「今は自分のワインを、自分がずっと目指している味わいにしていきたい。テクニックだけの話ではなく、時間的な要素も大きいので、長い目で見て毎年毎年、近づけていけたらなと」
目指すは、熟成感のあるワイン。特に参考にしているのは、近年交流を深めているシャンパーニュの造り手、ジャック・セロスだという。
自社農園でのブドウの収穫
「1980年からの生産者なので、昔からある生産者と同じようにはできません。そこで、小さいタンクに立ち上げ当初からのワインを貯め、ブレンドして造ることで特有の熟成感を出しているんですが、僕らが目指すならその方法だなと。加えて、せっかく自分が料理も学んできているので、うまく活かしてマリアージュができればいいなと思っています」
マリアージュさせるのは、何もフランス料理に限らなくていい。自分がつくることも、すべてではない。そう考え、過去にもベトナム人シェフを招いてのイベントを催し、高い評価を得た。
「うちのワインは、エスニック料理が合うんですよね。和食にもすごく合いますし、お寿司屋さんで取り扱ってもらっているものもおかげさまで好評です。マリアージュは、うちのワイナリーのテーマの一つ。単体で飲んでおいしくて完結するもワインもアリですが、うちのスタイルはこれじゃないかなと。ワインと料理を合わせることに関して、もっと深く掘り下げたときに、様々な角度の提案ができるのではと…より創造的な仕事になっていく予感があってワクワクしています」

古川和秋さんの卒業校

辻調理師専門学校 launch

辻調グループ フランス校 フランス料理研究課程 launch

辻調グループ フランス校

本場でしか学べないことがきっとある
フランス・リヨンに郊外にあるふたつのお城の中には、
フランス料理とヨーロッパ菓子を学ぶための最新設備がずらり。
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