INTERVIEW
No.061

日々の変化に合わせ、工夫を凝らしておいしいお菓子をつくり、お客様を笑顔にできるパティシエの仕事は、毎日やりがいがあって楽しい。

Pâtissier Éiji Nitta パティシエ

飯村 美孝さん

profile.
飯村 美孝さん
千葉県出身。エコール 辻󠄀 東京 辻󠄀製菓マスターカレッジから大阪の辻󠄀製菓技術研究所(当時)へ。2013年に卒業後、兵庫県西宮市の『パティシエ エイジ・ニッタ』に就職。現在も修業を続ける。

Pâtissier Éiji Nitta オーナーシェフパティシエ
新田 英資さん
大阪府出身。辻󠄀製菓専門学校を1987年に卒業後、ホテルニューオータニ大阪にオープン時より18年間勤務。 その間、「ルクサルド グランプレミオ」優勝、「東日本洋菓子作品展 味と技のピエスモンテ」大会会長賞、「クープ・ド・モンド国内選考会」入賞、「西日本洋菓子コンテスト」最優秀賞、「食博覧会大阪」農林水産大臣賞など、数多くのコンクールで優勝や入賞し、2002年には、テレビ東京系列の番組、TVチャンピオンの「ケーキ職人選手権」で優勝。2005年、兵庫県西宮市に『パティシエ エイジ・ニッタ』をオープン。2009年、同市内に移転し、現在に至る。
access_time 2018.05.11

お菓子の特別感が好きで、小学生の頃から将来の夢がパティシエに。

実家は中華料理店。飯村さんが小学生の頃、ホテルや他店で経験を重ねたお父さんが開業したという。働く父の姿に憧れ、将来は食の世界に進みたいと考えていた。
「なかでもお菓子に惹かれたんですよね。幼い頃から母親と一緒につくるのが好きで、祖母の家に持って行ったり、学校の友だちにあげたりして、喜んでもらえるのがうれしくて。食事とはまた違う、お菓子の特別感が好きで、小学校や中学校の卒業アルバムにも、将来の夢は『お菓子屋さん』『パティシエ』って書いていました」
製菓学校へ進学することは、早くから意識していた。「本気でやるなら、基礎からしっかり学ぶべきだ」と両親に勧められ、迷うことなくエコール 辻󠄀 東京 辻󠄀製菓マスターカレッジへ進学。
「家でレシピ通りにつくっても、なぜそうするのかわからなかった理由を、学校で教えてもらえて。『だからこういうつくり方なんだ』という発見が面白く、毎日がすごく楽しかったです。放課後に練習するときは、いつも同じようなメンバーが残っていて…結束力が強まり、当時担任だった先生も含めて、今でも集まっています」

実店舗での販売実習で、お客様のためにつくっていると実感できた。

2年目は辻󠄀調グループのフランス校へ進学するつもりで、高校時代からフランス語を少しずつ独学していた。しかし当時、大阪にあった辻󠄀製菓技術研究所(以下、技研)を卒業していた担任の先生から実際の授業内容や、教えてもらった先生の話を聞き、進路を変更することになった。
辻󠄀製菓技術研究所時代(中央後ろ側が飯村さん)
技研では、仕込み、仕上げ、販売をローテーションで担当。当時、商業施設の中に入っていた店舗P.L.T.(パティスリー・ラボ・ツジ)で販売実習ができたことは、意識の変化にもつながった。
「会計時に直接、『おいしかった』というお言葉をいただくことで、『お客様のためにつくっているんだ』という感覚が芽生え、この道を選んで良かったなと実感できました。衛生管理がとても厳しかったことも今に生きています。技術面でも、スタンダードなものからアレンジでき、センターを仕込んだり、2層のムースを重ねたり、グラサージュで仕上げたりと、実際のお店に並ぶようなものをつくれて新鮮でした」

穏やかな人がつくるケーキは関わる人も食べる人も笑顔にしてくれる。

就職先の『パティシエ エイジ・ニッタ』を知ったのは、技研に進学後、食べ歩きを計画したときのこと。最初に訪れたのが、兵庫県西宮市にあるこのお店だった。
「確か5月でしたね。いろいろ検索して…新田(英資)シェフがTVチャンピオンの『ケーキ職人選手権』で優勝されていたことで興味をもった覚えがあります
。実際に来店してケーキを食べた瞬間、もう『ここで働こう』と(笑)。東京でも食べ歩きはしていましたし、戻って就職することも考えていたんですが、味にもお店の雰囲気にも一目ぼれでした」
Pâtissier Éiji Nittaの生菓子 
「クリームも生地もそれぞれがおいしいし、自分が理想としていたアットホームな空気感だったし…。企業訪問のとき初めてお会いしたシェフはとても穏やかで、厨房もすごくきれい。何の迷いもなく、面接もここだけです。9月か10月には内定をもらい、直後から販売のアルバイトに入り始めました」
Pâtissier Éiji Nittaのマカロン 
新田シェフが辻󠄀製菓専門学校の卒業生だったことは後から知ったという。卒業前には、外来講師として来校したシェフの授業も受けた。
「実際に指導を受けてみても、やっぱりシェフの人柄がすごく素敵なんですよ。お店で感じた温かい空気も、そのおかげなんだろうなと。穏やかな人がつくるケーキは、関わる人も食べたお客様も笑顔にしてくれるんだなと実感しました」
卒業後も、1年目の9月までは販売を担当。先輩にアドバイスをもらいつつ、ノウハウを身につけていった。
「最初はその忙しさに戸惑いました。心を込めた正しい言葉遣いで対応しつつも、手際よく仕事をしないと回らない。だけど厨房に異動後、改めて販売は経験しておいて良かったと思いました。つくり手側の『この工程だからしょうがない』っていう理屈は、お客様には関係ない。できあがりがすべてです」
「接客を通じて商品を第三者的に捉えられるようになっていたので、販売の人たちから『これじゃだめ』とお客様目線で注意を受けても納得できました。小さいお子さんが『おいしそう!』と言っているのを聞いたりしたことで、お客様が見ておいしそうなものをつくることが第一だとつくづく感じましたね」

お客様の評価がすべて。現状維持ではなく進化し続けるお菓子を。

新田シェフが2005年にオープンさせた『パティシエ エイジ・ニッタ』。専門学校卒業後、ホテルニューオータニ大阪にオープン時から18年間勤務し、その間に数多くのコンクールで優勝や入賞を果たしたシェフが、「日常のなかでも、ちょっとした贅沢を味わってもらえたら」と志した。
「ホテルはやはり、非日常的な空間。なかなか気軽に買いに行こうとならないので、こういう住宅街で、日常的に利用してもらえたらという思いで開業しました。このあたりは、もともとお菓子のある生活に親しまれている方も多いエリア。週に何回も来られるお客様も少なくなく、最初は『ケーキ屋ってそんな頻繁に来るところなのか』と驚きましたね(笑)」(新田さん)
Pâtissier Éiji Nittaの生菓子 
商品ジャンルは幅広く、多彩な生菓子や焼き菓子はもちろん、季節ごとに厳選した果物や西宮の地酒など地元の名産を使った商品、アイス・シャーベットやコンフィズリー(砂糖菓子)なども充実。今でこそ一般的なマカロンも、ホテル時代からつくり始め、開業後も種類を増やして展開している。
Pâtissier Éiji Nittaのアイス・シャーベット 
「やはりお客様の評価がすべてです。おいしいと言っていただけるお菓子を常に模索し、現状維持ではなく進化させられるよう心がけ、販売中のものでも改良を続けています。仕事面も同じで、常に問題点を頭に入れておかないと改善できません。そのためにも、自分も現場でスタッフらと同じように仕事することを大切にしています」(新田さん)

「なぜこうするのか」という基礎知識は、応用時にも役立ってくる。

製造担当は主に2つのセクションに分かれている。一つは、ムースの仕込みやケーキの仕上げなどを担当する、通称・生(なま)場。もう一つは、生地をつくって焼成する、通称・焼き場。飯村さんも多くのスタッフと同じく、最初は洗い物などの雑用から始め、生場でアイス・シャーベットを担当後、ケーキのデコレーションを行うようになった。
「技研の先生に就職志望の報告をしたとき、そこには自分の教え子でとても優秀な女性がいると聞いていたんですが、まさにその通りで。すごく厳しかったんですが(笑)、多くのことを教わりました。とてもきれいな飾りをされるのに、仕事のスピードがとにかく速い。どうすれば速く美しくできるのか、多少は受け継げたのかなと思います」(飯村さん)
その後、生場の仕事をすべて経験し、セクションの責任者となった。飯村さんと新田シェフは語り合う。
「自分が上になればなるほど、メインの作業を担いつつも、下が何をしているか気にかけないと仕事が回らない。先輩方にやってもらったこと、見せてもらったことを参考に動いています。シェフからの指導もありますし、見て盗もうとすることも多い。シェフはさすがに無駄な動きが一切ないんですよね。1日を通してすべてがスムーズ。少しでも見習えたらと、勉強させてもらっています」(飯村さん)
「彼の働きぶりは最初の印象通り、真面目で謙虚。基礎からしっかり、非常に丁寧できれいな仕事をしてくれています。ステップアップするためにも基本は大切。そこに気づけるのは、現場で何年か働いてからでしょう。すぐに諦めてしまわず続けていれば、基礎は連鎖的に役立っていきます」(新田さん)
「『なぜこの温度の必要があるのか』といったことがわかっていないと応用が利きませんが、それを忙しい実務のなかで学ぶのは難しい。お菓子づくりの知識は、学校で身につけておいて良かったです」(飯村さん)

昨日と同じ方法で同じものができあがるとは限らない。そこも楽しい。

1年ほど前に、焼き場へ異動。現在は、焼成を担当している。
「四季折々、気温や湿度などによって仕上がりも変わってくるので、毎日の調整が楽しいです。昨日と同じやり方でつくったところで、同じものができあがるとは限らない。単調な仕事じゃないので、日々やりがいがあります」(飯村さん)
「一見、同じことを毎日やっているかのように思えても、そのあたりがプロと素人の違い。プロは当然、毎日同じ状態ものを出さないといけません。その時々の状態によって調節しながらつくるのがプロの仕事。そこが難しいけど面白いところですし、面白いと思えれば続けられるんじゃないでしょうか」(新田さん)
「あとは生地をつくる仕事を覚えられたら、店内すべての作業ができるようになります。お店を出そうというのが小さいときからの夢でしたが、まずは一通りこのお店で学ばせてもらい、また違うお店に行ったときに、いろいろなやり方を吸収できればいいなと思っています。自分のお菓子もいずれはつくりたいですし、いろいろ考えてみてはいますよ。それもまた楽しいです」(飯村さん)
2013年に新卒で就職し、同じ場所で修業を続けてきた飯村さん。その時々で目標をもつことが大切だと語る。
「製菓学校へ進む人なら、『パティシエになりたい』という夢をもつ人が多いと思いますが、就職すればパティシエにはなれます。『自分のお店をもちたい』という人だって、開業して終わりじゃありませんよね。そこからどういう目標をもって、日々の仕事を続けるかが大切なんじゃないでしょうか」(飯村さん)
「『こういうお菓子をつくってみたい』とか、『お客様にこう思ってもらいたい』とか…常に目標を掲げながら創造力をもって仕事をすれば、飽きることなんて無いと思います」(飯村さん)

飯村 美孝さんの卒業校

エコール 辻󠄀 東京  辻󠄀製菓マスターカレッジ launch

エコール 辻󠄀 東京
辻󠄀製菓マスターカレッジ

お菓子をつくり、味わい、集中して製菓の基本と応用を学びとる。

多くのお菓子と出会うことで、
基礎と応用を徹底的にマスター。
お菓子をつくる仕事に就く自信や誇りにつながる1年間。
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