No.065
自分の想い描く未来だけが、可能性のすべてじゃない。製造だけでなく最終工程や管理を経験することで次へと進み、新たな扉を開きたい。
アトリエうかい 八王子工房 パティシエール
櫻井 つゆみさん
profile.
東京都在住。エコール 辻󠄀 東京から辻󠄀調グループ フランス校へ。2013年に卒業後、東京のフレンチレストラン『テラコヤ』に就職。サービスを経験する。2015年3月、『アトリエうかい』八王子工房にオープニングスタッフとして転職し、現在に至る。
access_time 2018.06.15
苦手なことは克服し、得意なことは伸ばせる環境だった製菓学校時代。
幼い頃からお菓子をつくるのが好きだった。早い段階から製菓の道を志し、エコール 辻󠄀 東京へ進学。実習の多さが選択の決め手だった。
「放課後にも実習室を開放してもらえていたんですよ。せっかくならと毎日のように通っていました。先生方にも質問しやすかったですし、苦手なことは克服できて、得意なことは伸ばせる環境がありがたかったです」
フランス校時代
卒業後は辻󠄀調グループ フランス校へ。そこで行われたシミュレーション実習で、レストランのデザートに興味をもち、研修先はレストランを志望する。
「その場で仕上げる繊細なデザートに魅力を感じたんですよね。研修で行った小さなレストランは、パティシエが一人しかいなかったので任せてもらえることが多く、より密接に関わりながら経験が積めて勉強になりました」
フランス校時代
一方、フランス校でサービスを勉強したことが転機となり、卒業後はサービス担当として東京のフレンチレストラン『テラコヤ』に就職。
「チーズやワインも勉強したいなと思ったんです。2年弱でしたが、自分の知識をお客様に説明できる面白さがあり、いい経験ができました。だけどやっぱりお菓子もやりたいなと転職を希望。そのとき目に留まったのが、八王子工房のオープニングスタッフを募集していた『アトリエうかい』だったんです」
「こんな繊細なものが自分につくれるんだろうか」という不安と期待。
うかいグループの飲食店や『アトリエうかい』の店舗で提供する焼き菓子類を製造するために新設された八王子工房。2015年3月に運用開始となっていた。
「生産量を増やすため、機械を導入して始めるとのことだったんですが、手作業も多いと聞き、それなら習得した技術が生かせるなと志望しました。だけど店舗で見たクッキーが、今まで目にしたアソートとは全然違う美しさで、すべて手づくりだったことに驚いて…。色とりどりのクッキーが詰め込まれていて、味はもちろん、形や色合いなど目でも楽しめる仕上がり。『こんな繊細なものが自分につくれるんだろうか?』という不安半分、新しいことにチャレンジできる期待半分で転職しました」
櫻井さんの言葉を受けて、『アトリエうかい』の統括製菓長の鈴木滋夫さんはこう語る。
「生地や焼成の感覚や理屈がわかっていなければ、1000分の1コマ単位で調整するような機械は扱えません。どのスピードで、どんな力で、どう動かすのか。考えるのは人なんです。それに生地を見分けたり状態を見極めたり細工をしたりと、手でやらなきゃいけないことは残りますからね。機械でやったほうが正確なこともある代わりに、技術や知識をもった人間がやるべきことはまだまだたくさんあるんです」(鈴木さん)
自分で考えて行動できる環境のおかげで、新しい世界が見えてきた。
1年目は焼き場をメインに、生地づくりも担当した櫻井さん。「立ち上げ当初は本当に大変でスタッフたちにも苦労をかけた」と鈴木さんも振り返る。
「機械も思うように動かず、一つの生地を成形するのすらままなりませんでしたからね。あのときは、よくやれたよなと(苦笑)。非常に助けられました」(鈴木さん)
「自分で考えてやらないと終わらない仕事だと思っていました(笑)。最初は部門長に頼りっきりだったんですが、その人がいないと何もできないじゃ話にならないから…。手作業だった従来の方法では、大量生産に向いていないこともあって、いろんなやり方を提案させてもらいました。自分で考えて行動できる環境に恵まれたおかげで、新しい世界が見えて楽しかったです」(櫻井さん)
「そう捉えてもらえるとうれしいですね。1年生であろうが、一人の大人として認め頼りにしていましたし。最初は『こんなものまでつくっているのか!』って驚いたんじゃない?(笑)」(鈴木さん)
「そうですね(笑)。普通なら仕入れるようなものまで手づくりで…。だからこそ、学校で勉強した知識も役に立っています。学んだ知識や技術を活かし、他の社員やパートタイム従業員の方々をまとめていくことにもやりがいを感じました」(櫻井さん)
「こんなに手間のかかるものを自分の想い一つで始めて、よくここまでスタッフがついてきてくれたなと、感謝しかないですね。だからこそ、いい環境をつくってあげたいし、1日でも長く働いてもらいたい。『ここに来て良かった』と思ってもらえる職場にしたいんです」(鈴木さん)
初めて人を動かす立場になり、その難しさとやりがいがわかった。
2年目からは部署を異動し、最終工程を担当。出来上がったお菓子を詰めて包装し、出荷するまでの責任を負うことになった。
「最初は正直、まだお菓子をつくりたいと思っていました。だけど実際にやってみると楽しいし、全体を見られようになることで勉強にもなる。焼きの状態が甘いときは生地に問題があるんじゃないかとか、仕上がりの状態を見られる立場なので、知識や経験を生かして確認できています」(櫻井さん)
「彼女は何かあればすぐ指摘してくれるので、安心して任せられる。その姿勢がほかのスタッフにも浸透してきたのを感じます」(鈴木さん)
「何より鈴木シェフのお菓子愛がすごいから(笑)、それに影響されて私たちも愛情をもって取り組んでいますね。最終工程は、一番お客様に関わってくる部分。常にお客様の目線を意識する点では、サービスの経験も基盤になっています」(櫻井さん)
「僕は箱詰めの工程を、ドレッセ(飾りつけ)だと捉えているんですよ。もともとアトリエうかいの定番商品となったフールセック(大缶・小缶)は、色とりどりの料理が美しく盛りつけられた『おせち料理』をイメージして、仕切りや詰め方を追究したもの。手間ひまかけて多彩なクッキーをつくり、ふたを開けた途端、思わず歓声があがるものをめざした結果、箱詰めも手作業でなければ不可能になり、スタッフ全員の協力が欠かせなくなっています」(鈴木さん)
アトリエうかいでは、フールセック(大缶・小缶)以外の商品も最終工程までひとつひとつ丁寧に手作業で行われている。
「製造から最終工程に異動して、初めて人を動かす立場になり、その難しさとやりがいがわかりました。チームとして動かなければ成り立たない仕事なのに、仕切る人に問題があれば誰もついてきてくれません。社員として信頼関係を築く重要性も感じています」(櫻井さん)
「自分の想い描く未来だけが、未来の可能性じゃありません。僕も以前、工房をつくろうとまでは思っていませんでした。だけど目の前のことに真剣に取り組む度に、次々と扉が用意され…気づいたら彼女が言うように成長させてもらって、今があります。彼女にもそういう、可能性をつくる扉を用意してあげたい。経験してみなければ想い描けない未来もありますからね」(鈴木さん)
任せてもらえる環境を利用し、自分がどれだけできるか試してみたい。
2016年9月、食品の安全管理を実践するための国際規格・ISO 22000の認証を受けた『アトリエうかい』の八王子工房。製造過程において一定の手順や方法を守る必要があり、従業員教育も欠かせない。
「毎月開かれるISO関連のミーティングにも参加させてもらうんですが、若手の意見でも真摯に受けとめ、反映してもらいやすいので、さらに改善しようという意欲もわいてきます」(櫻井さん)
「『自分たちの手でつくっている場所』だと認識してもらえているのはうれしいですね。自ら考えて動くことは、とても大切なこと。挑戦してもらった結果、何かあれば相談にのるし、実現するための環境も用意する。それが僕の仕事です」(鈴木さん)
「パートタイム従業員や新入社員を教育する立場になり、さらに使命感も強まりました。年齢を問わずいろいろやらせてもらえる環境を利用して、自分がどれだけできるか試してみたい。もっと細かいところまで見られるようになれば、新商品の開発にも携われるしでしょうし。どんどんステップアップして、新たな扉を開いていきたいです」
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