INTERVIEW
No.085

生涯にわたり人に喜んでもらえる仕事をやり続けたいと転身。目の前でもてなす鉄板料理の道で、お客様と幸せを共有していきたい。

横浜うかい亭 料理人

吉田浩和さん

profile.
大阪府高槻市出身。1995年の高校卒業後、同市の姉妹都市であるオーストラリアのクイーンズランド州トゥーンバ市を訪れ、1年間、語学学校に通学。その後、クイーンズランド大学に進学し、マーケティングを専攻。卒業後、貿易商社に就職し活躍するも、鉄板料理店を開くための学びを得ようと帰国。2013年4月、辻󠄀調理師専門学校 調理師本科 キャリアクラスに進学し、翌年4月、株式会社うかいに就職。神奈川県にある鉄板料理店『横浜うかい亭』の配属となり、現在は厨房ではメインとなる黒毛和牛の下ごしらえを担当しながら、営業時間には鉄板料理で腕を振るい多くのお客様を魅了している。
access_time 2019.02.22
鉄板料理店『横浜うかい亭』の料理人・吉田浩和さんは、異色の経歴の持ち主だ。生まれは大阪府高槻市。その姉妹都市であるオーストラリアのクイーンズランド州トゥーンバ市に訪れたことが、大きな転機となった。
「高校卒業後、医学系の大学をめざしていた時期に、市民交流の一環として交換留学の企画があったんです。気軽な気持ちで参加してみたんですが、ゆったりした空気感がものすごく肌に合って、このままここで暮らしたいなと(笑)。『海外の人は日本をこう見ているんだ!』という発見も面白く、現地の大学で学びたいと考えるようになりました」
クイーンズランド大学時代
そこで、現地の語学学校に1年通ったあと、クイーンズランド大学に進学。4年間、マーケティングを学び、オーストラリアの商品を海外へ輸出する貿易商社に就職した。
「商品を紹介するための知識が増えるのも面白く、やりがいがありました。とくにワインをよく扱っていたんですが、飲むのも好きでしたし、詳しくなれるのが楽しくて…。今考えると将来的に活かせそうなネットワークも築けました」
オーストラリア時代

人を喜ばせる鉄板料理店を開いて、老後もここで楽しく暮らしたい。

ずっとオーストラリアで暮らしたい。そう思い続けて働いていたが、30歳を過ぎ、遠い未来まで見すえるようになった。
「定年まで働くとしても、老後、何もせずに暮らすのは楽しくなさそうだなと思ったんですよね。周囲にはリタイアして暮らされている日本人もいたんですが、中にはゆっくりすることに疲れて帰国される方もいらっしゃいましたし…。自分なら何をして過ごしたいか。自問自答の結果が、飲食の仕事だったんです」
もともと料理は好きだった。幼い頃から簡単なものはつくっていたし、母親を手伝うことも多かったという。
「なぜか食材を触るのも好きだったんですよね。自分が飲食店を開くなら、来てくれた人をもてなすような料理をつくりたい。そう考えたときに思い浮かんだのが、目の前で調理をして振る舞える鉄板料理でした。医療の道に惹かれていたのも、自分の仕事で人を喜ばせたいという思いがあったからだったんですが、その想いが自然と料理につながりました」

広いネットワークをもつ調理師学校なら、30代でも可能性が広がる。

子どもの頃から、よく家族で食べに行っていたのが鉄板料理だった。頻繁に外食をする家庭ではなかったが、年に数回、誕生日などの特別な日には、ちょっとしたイベントとして出かけていたという。
「目の前でつくってもらって、みんなで一緒に楽しめるワクワク感が好きでした。自分の知る限り、現地に鉄板料理の店はありませんでしたが、オーストラリアの人はお肉もシーフードも好きだし、きっと喜ばれるはずだと思ったんです」
ビジョンが決まればもう、迷いはなかった。調理師学校へ通おうと日本へ帰国。
「あらゆる資料を取り寄せ、その規模の大きさからも辻󠄀調理師専門学校を選びました。広いネットワークをもっているだろうし、僕のような30代でも可能性が広がるのではと感じました」
辻󠄀調理師専門学校時代 フェスティバル準備

幅広いジャンルの基礎を学んで土台をつくり、汎用性の高い料理人に。

こうして辻󠄀調理師専門学校の高校新卒者以外を対象としたキャリアクラスに進学。将来は鉄板料理の道に進みたいという明確なビジョンを持ちつつも、さまざまな分野を学ぶ調理師本科を選んだのには理由があった。
「オーストラリアに移住したとして、後々どうなるかわかりませんからね。料理の道へ進むのが遅かったこともあるので、一つに絞ってしまうより、幅広いジャンルの基礎を学んで土台をつくろうと考えました。クラスメイトともなじみやすいキャリアクラスがあったのも、ありがたかったです。同じクラスだった料理人とは、卒業後も交流を続けています」
実習はどれも面白く、日本料理、中国料理、西洋料理、すべてを学べたことが、結果的に良かったと振り返る。
「漠然と知ったつもりでいた各分野の料理も、実習を通じて細かなノウハウがわかり、実践の大切さを感じました。さまざまな食材を使って、仕込みからしっかり学べたことも、今に活きています」

料理に加えて会話でもお客様を楽しませる鉄板料理店『うかい亭』。

現在勤めるうかいグループを知ったのは、学内で行われた合同企業説明会のときだった。
「出展した企業の中で鉄板料理は『うかい亭』だけだったのですが、学校の先生からも、働く場としても環境の良いところだと聞き、東京の店舗で行われた説明会に参加。その雰囲気や、人を喜ばせることに自分たちの幸せを見いだす方針に惹かれ、『鉄板料理店で働きたい』という想いが『ここで働きたい』に変わりました」
懐石料理店、割烹料理店、グリル料理店、洋菓子店など、関東を中心に海外も含めた21店舗を展開しているうかいグループ。その中核をなすのが鉄板料理店『うかい亭』だ。
「実家にいた頃に行っていた鉄板料理店は、料理人との会話を楽しむ感じではなかったんですよ。目の前で調理され提供されるライブ感だけでも充分楽しめていたんですが、『うかい亭』には交流を楽しみにいらっしゃるお客様もすごく多い。そこも良いなと思ったのと同時に、コミュニケーション力に自信がなかったので、プレッシャーでもありました」

「目の前のお客様を喜ばせるようになりたい」強い意志で努力し、一直線に実現させた。

通常、『横浜うかい亭』に入社する新人は厨房から修行し、冷菜、温菜、スープやソースを作るなど様々な部署で3年程の経験を積んだ後に、ようやく先輩から鉄板料理の講習を受ける。半年から、長ければ1年間に及びじっくりと育てられる。しかし入社当初から「目の前のお客様を喜ばせるようになりたい」という強い意志を示してきた吉田さんは、1年目から同時進行で鉄板料理のトレーニングを積んでいった。うかい亭の鉄板料理人のトップでマエストロと呼ばれる茂木晃さんは語る。
「調理場で多くの経験を積んだほうが料理説明もスムーズになりますが、彼は入社の時点で社会経験もあり、英語も堪能。本人の強い希望もあったので調理場の修行と並行しながらスピーディーに技術を習得してもらうよう指導していきました。器用なタイプではないですが、とても真面目な性格。一つひとつ教わったことをやり遂げた結果が、今につながっています」(茂木さん)
マエストロ 茂木晃さん
鉄板の前でお客様の料理を任されるには店長・料理長を相手に腕前を披露する試験に合格しなければならない。料理の完成度はもちろん食材や料理の知識、グループの歴史や理念、他店舗の理解も求められる。お客様の前に立つ事は店の代表となる事なのだ。吉田さんは努力の結果、2年目の終盤という異例の速さで合格しその腕前を披露するに至った。
「もちろん大変でしたが、目標が明確だったので苦にはなりませんでした。『うかい亭』では食材本来の味わいを活かすことを一番に求められます。専門学校時代に良い食材を使い、その魅力を最大限に引き出す為にはどうすべきかを学べていたのも役に立ちました」 (吉田さん)

目の前で調理をする以上、手さばきも優雅で美しくなければいけない。

週末には沢山のお客様がお越しになる。ご家族のお祝い事や結婚式などの利用もあり、忙しさで時間があっという間に過ぎていく。
「いくら忙しくてもいい加減な仕事をしてしまっては全てが台無しです。私が担当するお肉の仕込みもお客様のお料理も大切なのはこなす事ではなく、全てのお客様に喜んでもらう事です。鉄板料理ではただ速いだけでなく、きれいな仕事を目指しています」(吉田さん)
その言葉に、かつて『銀座うかい亭』で料理長を務めていた、人材開発担当の小池信榮さんが付け加える。
「お客様から『うかい亭』の鉄板料理は、茶道や華道のような“道”を感じると言っていただいたことがあります。五感で楽しんでいただくのが我々のおもてなし。目の前で調理をする以上、ただ盛ればいいのではなく、手さばきには無駄な動きが無く優雅で美しくなければいけない。吉田君はどんなときでも慌てずにきちんとした仕事をしてくれるので安心です。誠実な人柄が信頼され、彼を指名してご予約されるお客様も増えてきています」
人材開発担当 小池信榮さん
「お客様との会話で、知らなかったことが知れるのも楽しいです。違うお仕事や違う世界のお話が肥やしとなり、自分の引き出しも増えていきます。最初は話しかけるのも苦手だったんですが、先輩はもちろんお客様からもコミュニケーションのとり方を学ばせてもらいつつ、楽しんでいただけるよう努めています」(吉田さん)

何気ない家族の会話に入れてもらえると、信頼を感じてうれしくなる。

料理に関する好みに加え、明るくおしゃべりをしたい、静かに食事を楽しみたいなど、おもてなしに対する好みも瞬時に察知し、臨機応変に対応する力が『うかい亭』の料理人には求められる。
「お客様の目の前に立つと、期待以上に満足してもらえたときは、すぐにわかります。仕事の成果に実感がもてるのも、鉄板料理のやりがいです」(茂木さん)
「生産者の想いや生産地の風景を想像すると、料理はいっそうおいしく味わえるもの。なぜおいしいのかを生産者から教わり、その美味しさをお客様と共有出来た時、食材の持つ背景が料理に奥行きを与えてくれます。そんな時には料理に携わる幸せを感じます」(小池さん)
「だからこそ勉強とも思わず、自発的に知識を吸収できるんですよね。『おいしい』と口に出されなくても、召し上がった瞬間のお顔でわかると喜びもひとしお。それを目のあたりにできるのも、鉄板料理を手がける料理人の醍醐味です。何気ない家族の会話に入れてもらえると、お客様からの信頼を感じてうれしくなります。料理人としての人生は、まだ始まったばかり。これからもっと努力を重ねて、お客様と幸せを共有していきたいですね」(吉田さん)
いくつになっても、何かを始めるのに遅すぎるということはありません。なかでも料理は、生涯にわたって追求し続けられる世界だと思います。自分と同じく新たに目標を見いだされた方には、諦めずに努力を重ね、突き進んでいってほしいです」(吉田さん) 

吉田浩和さんの卒業校

辻󠄀調理師専門学校 launch

辻󠄀調理師専門学校

西洋・日本・中国料理を総合的に学ぶ

食の仕事にたずさわるさまざまな「食業人」を目指す専門学校。1年制、2年制の学科に加え、2016年からはより学びを深める3年制学科がスタート。世界各国の料理にふれ、味わいながら、自分の可能と目指す方向を見極める。
LINE:送る

話題になっている記事

No.143
中国料理の世界を変え多くの人を幸せに

中国料理の世界を変え多くの人を幸せに


株式会社セブンスイノベーション 代表取締役/中国菜 エスサワダ 総料理長/澤田州平さん

食から拡がる様々な業界で働く

OTHER PROFESSIONs