INTERVIEW
No.104

30年近くホテルで修業を重ね独立。 大好きな料理にこだわり抜き、お客様の笑顔を直接見られる毎日が、とても楽しくて幸せ。

中国料理 翔園 オーナーシェフ

松下智己さん

profile.
大阪府出身。大阪府立羽曳野高等学校を経て、大阪・辻󠄀調理師専門学校を1987年に卒業後、ホテルニューオータニ大阪の中国料理レストラン『大観苑』に就職。インターナショナル堂島ホテルの中国料理レストラン『瑞兆』を経て、1999年、ジェイアール東海ホテルズの中国料理レストラン『梨杏』に転職。ホテルアソシア豊橋、名古屋マリオットアソシアホテル、ホテルアソシア静岡に勤務し、名古屋のチーフシェフや静岡の料理長なども務める。2008年からは愛知県立岩津高等学校 調理国際科の中国料理の非常勤講師も兼務。2016年4月、岡崎市に『中国料理 翔園』を開業。日本中国料理協会 東海地区にて果蔬彫刻(野菜の彫刻)講師。
access_time 2019.11.01

先生に褒められたことで、もっと上手くなりたいと意欲が高まった。

愛知県岡崎市に『中国料理 翔園』がオープンしたのは、2016年4月。オーナーシェフである松下智己さんが48歳を迎えた年だった。
「20代半ばの頃、先輩が開業した店のオープンを手伝いに行って、目の前でお客様の反応が見られるオープンキッチンの店を自分も開きたいと思ったんですよ。だけど当時は結婚して双子の娘を授かったばかりだったので難しく…。長らく技術を磨くことを一番に考え、3年半前にようやく夢が叶いました」
出身は大阪府藤井寺市。料理好きな母親に育てられ、幼い頃から食べることが大好きだった。小学5年生のとき、ボーイスカウトで調理を経験し、自身も料理づくりの楽しさを実感。進路選択の決定打は、高校2年次に衝撃を受けた「伊勢海老のチリソース」だった。
「母がパートで勤めていた中国料理店で食事し、今までで一番おいしくて絶対に忘れないぐらい感動したんです。こういう料理をつくりたいと調理師学校への進学を決め、3年次からは四川料理のお店でアルバイトを始めました」
高校卒業後は、“料理界の東大”のイメージに惹かれ、辻󠄀調理師専門学校へ。入学後も中国料理への想いは変わらず、とにかく実習が楽しかったと振り返る。
「アルバイト先の料理長も辻󠄀調出身だったんですが、いろいろ教えてもらっていたんですよ。おかげで最初の授業で先生から『切るの上手いね!』と褒められたのが、本当にうれしくて…。もっと上手くなりたいと向上心に火がつきました」
入学当初は学生数の多さに驚いたが、これだけ多いなかで、自分はどこまでできるか挑戦したくなったという。
「中途半端が嫌いなので、途中で諦めることに対して抵抗がある。決めたことを最後までやらないと、自分自身が怠けている気になってしまうんですよ」

真面目に努力したおかげで、尊敬する先輩方に可愛がってもらえた。

1987年4月、開業したばかりだったホテルニューオータニ大阪の中国料理レストラン『大観苑』に入ったきっかけは、専門学校の先生からの勧めだった。
「1名だけ募集があったので面接に行ったんですが、まず建物に圧倒されて。たくさん刺激をもらって、ここで働きたいなと。宴会もあり、料理以外の経験もできるうえ、東京から中国人の料理長を呼ばれていたのも魅力に感じました」
20数名のスタッフのうち、新卒採用は松下さんだけ。朝から晩まで、目の回るような忙しさだったが、それでも毎日が新鮮で楽しかった。翌年も後輩は入らず、丸2年、大変な日々を過ごしたが、実直な働きぶりのおかげで、先輩たちからも可愛がられた。
「ひと周りも違う方々が、何かと声をかけてくださったんですよ。 野菜の彫刻でも有名な方で、雲の上の存在だったんですが、『ネギのみじん切り競争しよう!』という名目で、僕らに楽しみを与えながら仕事まで手伝ってくださったり…。なんでも真面目に努力を重ねたことで受け容れてもらえたことがうれしかったです」

偉大な先輩に導かれ、家族を連れて岡崎の地へ。今につながる土台が築けた。

各所から腕利きの料理人を集めて開業されただけあり、偉大な先輩に恵まれていた。最も大きな影響を受けたのは、ジェイアール東海ホテルズの中国料理レストラン『梨杏』の料理長を歴任した木下貞三さんだ。
「木下料理長は、ホテルアソシア豊橋と名古屋マリオットアソシアホテルの『梨杏』を兼務されたんで、私はどちらへも行きやすいようにと、岡崎市に引っ越してきたんですよね」
名古屋マリオットには、4人の香港人が現地から来日しており、本場の広東料理を提供していた。
「現地で総括料理長を務めていたような腕の立つ人たちから本場の味を伝えてもらえたのは大きかったです。彼らから教わった料理が今の土台にもなっています」

大好きな料理をお客様の顔が見える現場でやりたいと、独立を決意。

一方で、主に休日には、ボランティア活動に尽力。地域の人たちへの料理指導なども行っていた縁で、2008年からは、愛知県立岩津高等学校調理国際科の中国料理の非常勤講師も兼務するようになった。
愛知県立岩津高等学校調理国際科の中国料理の実習にて
「教えて喜んでもらえるのが好きだったんですよね。岩津高校では、事細かに教えるより料理を楽しんでもらうことを大切にしています。だから授業で扱うのは、家でもつくれて、家族に喜んでもらえるもの」
愛知県立岩津高等学校調理国際科の中国料理の実習にて
「名古屋マリオットにいた頃、2人でやる予定だった70人の宴会を、トラブルがあって1人で担当することになったんですが、思いのほかスムーズに回せたんですよ。おかげで1人でも切り盛りできる自信がもてるようになりました。その後、自分が配置を考える立場になって自分1人で回せるようにしたところ、サービスのスタッフから『おいしいと言ってくださってますよ』と励みになる言葉を聞くようになって…」
「だけどホテルだと、いち調理師は、お客様と顔を合わせることがない。やっぱり顔が見えるところで料理をしたいと思ったんです」
やがて静岡アソシアホテルの料理長になると、会議などに追われ、料理に直接ふれる機会が減ってしまう。このことがきっかけで現場で料理をすることが好きだと再認識し、独立を決意した。
大根と紅芯大根の祝い花

子どもが幼い頃からお世話になった地域の人たちに恩返しがしたい。

開業するにあたり、故郷の大阪ではなく岡崎市を選んだのには、岩津高校のこと以外にも理由があった。
「子どもが小さいときから、地域の皆さんにすごく良くしてもらったんですよね。行事に参加すると、みんなが自分の子どものように面倒を見てくれますし…。年配の方が多かったんですが、マリオットに食べに来てくれていた人もいらっしゃいましたし、みんなに恩返しできたらという想いもありました」
「準備にあたっては、名古屋市の中華料理店『菜の花』のオーナーシェフから多くのことを教わり、オープン後もとても気に懸けてもらっています。そのなかで『広東料理はスープが大切だ』と言ってくれたんですよ。日本料理ではよく言われることですが、中国料理でもスープが大事。スープの取り方ひとつで旨味が変わります。それで改めて見直し、素材の旨みを最大限に活かしたスープを完成させました」
「中国料理は脂っこいイメージをもたれがちですが、うちは広東料理をベースにつくっているので、コクがあるけどあっさり。年配のお客様も多く、80歳のおばあちゃんがラーメンのスープを最後まで飲んでくださるんですよ」
合鴨パストラミ入り野菜スープそば
焼くことで調味料を抑えられるなど、仕込みや管理、調理の仕方で変わってくる。『翔園』では、数種類の調味料を自家製で作り、健康を考え、発酵食品を使いながら調理をしている。お年寄りに喜ばれていると同時に、小さなお子さんからも人気が高い。
春巻
「最初は興味を示さなかったお子さんが、一口食べると夢中になってくれて…。『今日よく食べたね~』と、ご家族皆さん喜んで帰ってくださいます。子どもは舌も純粋です。添加物を極限まで控えている分、手間がかかりますが、ここで食事をしてくれるというのは僕らからすれば健康の土台を作っているということ」
 
黒酢のスブタ
「『翔園』という店名には、ここで食べて元気になり、明日から羽ばたいてもらえる店になればいいなという願いも込めています。今は、毎日お客様と顔を合わせ、笑顔や声を直接聞けることが励みにもなり、幸せを感じています」
松鶴拌盤(ピンパン)
杖をつきながら、食べるのが楽しみだからと足を運ばれるご年配のお客様も少なくない。そんな方たちに喜んでもらえる料理を、精一杯つくり続けることが生涯の目標だという。
自家製チャーシュー入りパラパラ炒飯
「定期的に食べに来てくれる方で、必ず頼んでくれる料理があるんです。自分の料理を楽しみにしてくれていると感じ、身が引き締まる思いになります」
「結婚記念日や誕生日、家族の集まりなど特別な日を翔園で過ごしてくださる方もいらっしゃり、そんな皆さんが満足していただけるおもてなしを心がけています」
「料理は作る人がいても、食べてくれる人がいなければ成立しない。食べた人が喜んでくれる顔を見ると、こちらも笑顔になれます。そんな喜びを皆さんにも感じてもらいたいです」
お店でのサービスも担当される奥様と

松下智己さんの卒業校

辻󠄀調理師専門学校 launch

辻󠄀調理師専門学校

西洋・日本・中国料理を総合的に学ぶ

食の仕事にたずさわるさまざまな「食業人」を目指す専門学校。1年制、2年制の学科に加え、2016年からはより学びを深める3年制学科がスタート。世界各国の料理にふれ、味わいながら、自分の可能と目指す方向を見極める。
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