INTERVIEW
No.111

「バスチー」をはじめローソンの人気スイーツ開発メンバーとして大きく貢献。学校や現場での多彩な経験があったからこそ身についた応用力が今に活きる。

コスモフーズ株式会社 東京事務所 商品部 係長

小跡芙美さん

profile.
広島県出身。広島県立呉宮原高等学校卒業後、辻󠄀製菓専門学校からフランス校へ。2000年に卒業後、神奈川・鎌倉の洋菓子店『レ・ザンジュ』に就職。その後はカフェやホテルなどで経験を積み、2014年2月、洋菓子やデザート類の開発・製造などを行うコスモフーズ株式会社に転職。現在は、コンビニエンスストア「ローソン」のブランド、「ウチカフェスイーツ」の商品開発チームとして活躍している。
access_time 2020.02.21

3日間で100万個以上も売れた大ヒットスイーツ「バスチー」を担当。

2019年3月下旬、コンビニエンスストアのローソンで発売され、爆発的ヒットとなったスイーツ「バスチー」。“バスク風チーズケーキ”というこれまでコンビニにはなかった路線で、販売数は3日間で100万個突破。
2009年に誕生した大ヒット商品「プレミアムロールケーキ」を超える最速記録を更新した。その開発に携わったのが、コスモフーズ株式会社の小跡芙美さん。東京事務所の商品部で係長を務め、ローソン「ウチカフェスイーツ」ブランドを担当している。
「開発が始まったのは発売の半年くらい前。ベイクでもレアでもない新食感のチーズケーキなのですが、個人店で使う焼成型とは素材も大きさも違う、一人分サイズの専用型で大量生産をしなければなりません。火の通り加減がまったく変わってきますし、コンビニで並べるにはしっかり火を通さなければいけないけれど、独特のレア感は必須。それを再現するため、焼き方はもちろん配合に一番苦労しました」
「今までチーズケーキ類にはヒットがなかったんですが、非常に評判が良くて…。本販売になったとき欠品になるかもしれないからと、ローソンのスイーツとして初めて、1社ではなく2社の生産工場を用意することになったんです」 
2019年11月には、異例の3200万個を突破。大人数で食べられる「大きなバスチー」やデコレーションをした高級感のある「プレミアムバスチー」、中心にとろっとしたソースを入れた「とろチ~」など、派生した商品も人気を博している。
「SNSで商品名を検索して、評判がいいとうれしくなります。私が担当したものを、地元に住む家族に買ってもらえるのも、この仕事ならではの喜びです」

進路に悩む同級生を不思議に感じるほど、幼い頃から製菓一筋だった。

広島県の離島、江田島で生まれ育った小跡さん。料理上手の母親に影響され、小学生の頃からお菓子づくりにのめり込んでいた。
「自分の手で形になっていくのが楽しかったんです。お菓子のレシピ本を見ながらレパートリーを増やして、自分流にアレンジもしたりして。毎週末、祖父母の家に持って行き、喜ばれるのもやりがいでした」
お菓子づくりの習慣は、中学時代も継続。高校時代には、授業後すぐに帰り、やはりお菓子づくりを続けていた。 
フランス校時代
「とにかくつくることが好きだったので、フランス菓子を本場で突き詰めたいなと思っていました。だから大阪の辻󠄀製菓専門学校へ進学して、2年目はフランス校に行こうと早い段階から決めていて。受験の時期、やりたいことがないからと進学先に悩んでいる友人が多かったんですが、なんで自分のやりたいことがわからないんだろうと、すごく不思議だったのを覚えています」
フランス校時代 研修先のPATISSERIE FRESSON(パティスリー フレッソン)にて
専門学校では大好きな製菓に思う存分、打ち込めて楽しかった。これまで自己流でやっていた手法のコツやノウハウの理論などが明らかになっていくのも面白く、みるみる吸収していく。
フランス校時代 研修先のPATISSERIE FRESSON(パティスリー フレッソン)にて
「小学生の頃、カスタードクリームと生クリームを混ぜたらおいしくなるのではと考え実践していたんですが、専門学校に入学し、それがレシピとしてあることを知って感激した覚えがあります。昔から新しいものを考えるのが好きだったんですよね。オリジナルレシピをつくる卒業前の課題では、トマトのソルベを考案。20年前は野菜のシャーベットなんて全然なかったので、先生から斬新だって褒めてもらえたのも良い思い出です」
フランス校時代 研修先のPATISSERIE FRESSON(パティスリー フレッソン)
フランス校では24時間、お菓子漬けの生活を送った。指導は厳しかったが、そのときの経験が卒業後に活かされたという。
「一度見たことを完璧に再現するよう叩き込んでもらったおかげで、早い段階からスムーズな流れで仕事ができました。濃い学びを四六時中ともにしたフランス校の同期とは、今でも仲良くつながっています」

「未知の業態に挑戦してみたい」と、製菓店やカフェ、ホテルも経験。

フランスから帰国後は就職先を探すため、すでに東京で働いていた同期のもとに居候し、食べ歩きの日々を送る。そのなかで選んだのが、鎌倉の洋菓子店『レ・ザンジュ』だった。
「『レ・ザンジュ』で食べたサバランに惚れてしまい、すぐさま働かせてくださいとお願いしました。ちょうど新店舗がオープンし、本店が少人数になるタイミングだったので、現場に戻られた三輪(壽人男)シェフのそばで教えてもらえて幸運でした」
「次々にいろんな持ち場につかせてもらえ、毎日が新鮮。シェフに質問攻めでしたが、娘のようにかわいがってくださり、4年ほどで一通り経験できました。『将来はお店を開きたい』といったビジョンは当時はなく、ただつくっているだけで幸せだったんです」
その後は横浜のカフェへ。バリスタ業務やデザートの盛り付けなどに加え、ホールスタッフとして接客も経験した。
「まだ経験していない業態に挑戦してみたい」と、続いては横浜のホテルに就職。婚礼が多く、大量のお菓子やデザートをつくる日々だった。
「個人店ではできない経験でしたが、決まったものをつくり続けることが性に合わなくて…。それでも一通り流れがわかり、自分から考えて動けるようになるまでは働きたかったので、2年ほどはお世話になりました。自分に向いているかどうか、まずは挑戦してみることが大事だと思うんですよね。さまざまな経験を積めたことは確実に自分の身になっています」

コンビニのお菓子に関われば、自分が担当した商品が全国に並ぶ。

まだ未経験のお菓子づくりは何か。そう考えたときに思い浮かんだのが、大量生産だった。コンビニのお菓子を担当すれば、自分が担当した商品が全国に並ぶ。とても魅力的に感じ2014年2月、募集のあったコスモフーズに就職した。
「大まかな流れは教わったものの、前任者が退職されてからの募集だったので、どれだけのスピード感やスケジュール感なのかわからず、やりながら覚えた部分が大きいです」
「ウチカフェスイーツ」ブランドを担当することになり、最初大きくヒットした商品は、今までにない高級志向のエクレア「ショコラエクレール」だった。そのヒットで評価が高まり、入社3年目にはベルギーのチョコレートメーカー『ゴディバ』とのコラボ商品、「ショコラロールケーキ」を担当。400円近い価格だったにもかかわらず、用意していた原料が足りなくなるほど売れ、ヨーロッパから空輸で補充する事態となった。
「『ウチカフェスイーツ』ブランドは、専門店のようにおいしいスイーツをめざしてスタートしただけあって、とにかく原料にこだわり、とても良いものを使っています。だけど原料費も高騰していますし、容器代などもかかってくるので、味は落とさず価格を調整するのが難しい。そこに挑戦するのも、やりがいになっています」

課題をクリアするアイデアが浮かび、形にできたときの達成感は格別。

「全国の工場に共有するためのレシピやプレゼン用の資料もつくらないといけないし、次に続く新しい商品の開発もしなきゃいけない。自分が開発したものの準備はすべて自分で行うので、常に5~6品は抱えている状態です。発売のサイクルが早いので工場での製造もほぼ手作業ですし、人件費も含めて収支を算出するのも開発者の仕事。試行錯誤の連続ですが、今までの経験があったからこそ担えていると感じています」 
コスモフーズ入間工場
「プレミアムロールケーキ」の発売以降、コンビニスイーツのレベルは格段に上がり、お客様の期待も高くなった。専門店レベルの品質を大量生産で再現する方法を考えるのが、とても大変なのだという。
「良い方法が見つからなければ一日中考え、夢にまで見るんですが、ふとした瞬間にアイデアが浮かぶと、早く試してみたくてワクワクします。形にできたときの達成感は格別。今後もさらなるヒット商品を生みだしていきたいですね」
商品開発に大切なのは、「こうなるのでは」という想像力と、「こうしたらいいのでは」という発想力。その力を引きだすには、何より製菓の基礎が大切だと小跡さんは語る。
「基礎を知らなければ応用もできませんからね。専門学校で学んだことは、ものすごく役に立っています。トライアンドエラーを繰り返しながら解決策を見いだしてきた経験は、まさに今の基盤。これまで積み重ねてきたものすべてが活きる商品開発の仕事は、自分にとって天職だったと感じています。これから、学びたいと思っている方にも、基礎をしっかり学べば、いろんな可能性が拡がるということは自信を持って伝えたいですね」
商品部のメンバー平野さんと

小跡芙美さんの卒業校

辻󠄀製菓専門学校 launch

辻󠄀調グループ フランス校   製菓研究課程 launch

辻󠄀調グループ フランス校

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