No.139
いつかは食を通じた喜びを世界の人々に。その為にも幅広い分野にチャレンジし、貪欲に技術や感性を磨き、成長し続けたい。
株式会社Plan・Do・See 青山グランドホテル 料理人
佐々木彰斗さん
profile.
大阪府県出身。阪南大学高等学校からエコール 辻󠄀 大阪 辻󠄀カフェ&パティスリーマスターカレッジに進学。2017年に卒業後、株式会社Plan・Do・Seeに就職。イタリア料理をベースにしたレストラン・バンケット『ザ ソウドウ 東山 京都』で料理人として約3年間の経験を重ね、2020年8月の「青山グランドホテル」開業に合わせて東京へ異動。ホテル内の多国籍料理ダイニング『THE BELCOMO』やカウンター和食レストラン『SHIKAKU』で料理を担い、2021年9月からは同ホテルのパティシエに。
access_time 2021.10.01
「もっとおいしいものをつくりたい」という気持ちが高まり、食の世界へ。
「昔から母に『料理のできひん奴はモテへんぞ』って言われていたんですよね(笑)。母は料理が得意ではなかったので、手伝わせるための策略だったのかもしれません。小学生の頃からつくる機会が多く、簡単な料理ですが親戚や友だちに振る舞うこともありました。お菓子も好きで、ときにはケーキをつくることも…。シンプルに『おいしいね』と喜んでもらえるのがうれしくて、『もっとおいしいものをつくりたい』という気持ちがエスカレートしていきました」
1997年、大阪市生まれ。食にふれることが日常で、高校時代にはイタリア料理店でのアルバイトも経験した。シェフが楽しそうに料理をする人だったこともあり、将来は食の世界に進みたいと考えるようになった。
「いつかは海外に出て、日本の文化も含めて伝えられたらいいなと思っていたんですよね。小学生の頃からずっとサッカーに打ち込んできて、高校時代、海外の人たちと交流する機会があったんですが、宿舎の料理があまりおいしくないと言っていて…。彼らにも合う料理を僕がつくれたらなと思っていました」
エコール 辻󠄀 大阪時代
ワクワクしながら仕事を楽しんでいるスタッフに憧れ、「ここで働きたい」と。
高校卒業後は、エコール 辻󠄀 大阪に進学。選んだコースは、スイーツやドリンク、西洋料理をベースとしたフードなどを1年間で学ぶ、辻󠄀カフェ&パティスリーマスターカレッジだった。
エコール 辻󠄀 大阪時代
「料理もお菓子も好きだったし、イタリア料理もフランス料理も製菓も学びたいと思ったんです。食に関することなら何でも好きだという、自分と近い感覚の同級生が多かったので、話し合うのも楽しくて…。『おいしいものをつくりたい!』と夢中になれる仲間に恵まれ、実習にも没頭できました。まとめ役に立つことが多かったグループ実習での経験も、今に生きています」
エコール 辻󠄀 大阪時代
進学時点ではまだ、吸収することしか考えていなかったが、『ザ ソウドウ 東山 京都』へ初めて食事に行ったとき、「ここで働きたい」という想いが芽生えた。
「京都らしい素材も取り入れた、イタリア料理ベースのお店だったんですが、料理はもちろん、雰囲気やスタッフの対応も素晴らしく、こんなにも心を動かしてくれるのかと感動。働いているスタッフがキラキラ輝いてるのも印象的で…。ワクワクしながら仕事を楽しんでいるように見え、ものすごく憧れました」
『ザ ソウドウ 東山 京都』
その母体がプラン・ドゥ・シー(株式会社Plan・Do・See)であることを、学校で行われた就職説明会で知る。ミッションは「日本のおもてなしを世界中の人々へ」、行動指針は「I am one of the customers.」。そんな同社の企業理念にふれ、意志は固まった。
「お店で得た感動が、『自分がお客様だったら…』という行動指針に基づくものだったとわかり納得しました。ミッションも自分が想い描いていた目標にぴったり。できるだけ早く成長したいと思っていましたし、その機会の多い環境で働きたいという想いを実践できる会社だと感じ、ここしかないなと志望しました」
現場に入ってからもベースになっているのは、学校で学んだ丁寧な仕事。
日本だけでなく世界各地でホテルやレストラン、バンケット(婚礼・宴会場)などを運営するプラン・ドゥ・シー。各店舗がそれぞれ独自のスタイルをもち、ひとつとして同じ店がないのも特長だ。入社後はまず、1週間ほどの集団生活を送る新入社員研修を実施。「だけど料理は一切やらないんですよ」と語るのは、人事担当の井上真依さん。
人事担当の井上真依さん(左)
「料理のスキルや知識は現場で磨いてもらいます。新卒1年目には3~4回の研修を行いますが、いずれも人として成長してもらえるような内容です。最初の研修は、みんなで考えて何か一つのことをやり抜くというもの。成功体験も挫折体験も、どちらも成長につながりますからね。アキトの代はドミノだったかな?」
「そうです。1万ピースのドミノで、どういった模様をつくり、どういったメッセージを発信するのかをチームで考えて取り組みました。メンバーとどう関わるか、お互いの殻を破るような研修で。相手に寄り添ってその気持ちを考え、理解するための基盤が身についたと感じています」
研修後は『ザ ソウドウ 東山 京都』で婚礼の料理、とくに前菜類を担当。全社員全スタッフがお互いをファーストネームで呼び合い、現場のメンバーに序列はないという。
「先輩たちも良い人ばかりで、なんでも丁寧に教えてくれ、しっかり話も聞いてくれる。風通しのいい環境で、1年目でも自由に発言できました。現場に入ってからもベースになっているのは、学校で学んだ丁寧な仕事です。ブライダルなどでの大量調理はスピード感が重要ですが、一つひとつ丁寧に手がけるという軸は決してぶれさせない。結婚式ならではの料理やサービスの仕方などにもふれ、いい勉強ができました」
宮坂哲也料理長(左)と
チームに力があるからこそ、若手でもチャレンジさせてもらえ、成長できる。
2年目には婚礼の料理も手がけつつ、レストランでは前菜の責任者にもなった。
「先輩もいるなか任せてもらえたのは、やりたいと声を上げたから。マネージャーとの面談で、自分ならこんなふうにチームを動かすとプレゼンしたんです。それを実行できたのも、まわりのサポートがあってこそ。僕の成長のことも考え、先輩たちが支えてくれました」
同社では半年に1回、マネージャーとの「目標設定面談」を実施。過去半年の振り返りに始まり、次の半期にどんな目標を立て、どう努力していくかなどを話していく。今後の希望も言い続けることで、チャンスがあれば声がかかるのだという。
「学生時代、やりたいことがあるなら自分から発信し、行動に示すよう言われていました。目標があるなら、そこに向けて何が必要かを決めて、準備をしろと。仕事を始めてからは常に『自分がお客様だったら…』という視点から考えるようになり、メニューの開発にも関わらせてもらいました」
「メンバーなら誰でも意見が言え、開発にも携われる」と、再び井上さん。彼女自身、もともとパティシエとしてキャリアをスタートさせ、数多くの開発を行ってきた。
「メニューは各店舗に決定権があります。クオリティをチェックする部署はありますが、商品開発部はないんです。お客様のことを最も理解しているのは、一番近くで関わっているメンバーたちですからね。第一の考え方がお客様主体。『自分がお客様の立場にたったら、どういう商品がいいか』という視点で、お客様が求めていらっしゃるものを生みだします」
それを受けて、「相手の目線に立つというのは、対お客様だけでなく対メンバーにも言えること」だと佐々木さん。
「『自分だったらこうしてほしい』と考えて動く、隣にやさしい仕事を心がけています。チームに力があるからこそ、若手でもチャレンジさせてもらえ、どんどん成長していけるんです」
牛タンのカルパッチョ サルサヴェルデ(ダイニング料理)
その土地の食材や味覚の傾向に合わせて、お客様主体でメニューを開発。
同社のレストラン・バンケット『フォーチュンガーデン京都』での現場研修も経験。3年目には、冬季限定でオープンする北海道・ニセコの『THE BARN』へ。志望する若手スタッフが毎年、新たなチームを組んで運営するという。
生うにとあさりのスパゲッティーニ(ダイニング料理)
「料理のジャンルも自由。その年々のメンバーだけですべてを考える、チャレンジ店舗なんですよ。コロナ禍前だった当時は、約9割が海外のお客様だったので、僕たちの代は、洋を中心に和のテイストを入れた料理をテーマにしました。たとえばムール貝なら白ワインではなく北海道の日本酒で蒸して、仕上げで大葉をアクセントにするなど、海外の人たちにもおいしく日本を感じてもえる料理を提供。結果、ご好評をいただけて、大きな達成感も味わえました」
国産牛ロースのグリル コンソメソースと有馬山椒(婚礼料理)
京都での3年間で、前菜、パスタ、メイン料理など、各ポジションの責任者も務め、2020年6月に東京へ異動。東京・有楽町にあるイタリア料理ダイニング『シクス バイ オリエンタルホテル』で働きつつ準備を進め、8月オープンの「青山グランドホテル」のメンバーとなった。まず入ったのは、多国籍料理ダイニング『THE BELCOMO』。
苺のパヴロヴァ
「二番手のポジションを任され、メニュー開発にも深く携わりました。店舗ごとの違いはもちろん、京都と青山では、お客様の雰囲気や好まれるものも違います。その土地の食材や味覚の傾向に合わせて、お客様主体で考案していきました」
オールデイダイニング『THE BELCOMO』
日本料理やサービスも学びたくて、カウンター和食レストランでの仕事に挑戦。
チームの体制が整ってからは、自ら志願し、同ホテルのカウンター和食レストラン『SHIKAKU』へ。
「いずれ海外で働くことになったときのためにも、日本料理の勉強もしておきたくて…。海外では、日本の文化が求められる。行ったときに得るものばかりじゃなく、発信できる強みを磨きたかったんです。それに料理と同時にサービスまでできる場は限られているので、やらせてほしいと願い出ました」
カウンター和食レストラン『SHIKAKU』
新たな分野への挑戦は難しくもあったが、「自分もそうなりたい」と思うような先輩たちが親切に教えてくれ、すべての持ち場を担えるまでになった。
「幅広い分野の基礎を学んできたことも役立ちました。日本料理のシンプルなおいしさは、手間暇かけて素材を生かさなければ伝わりません。ここでもやはり丁寧な仕事を意識し、食べに来たスタッフからもフィードバックをもらいながら、日々改善していきました。青山はレストラン慣れしている人たちが多い。飲食業界の人も多く、カウンター越しの会話も最初は大変でしたが、日々の経験を通じて勉強させてもらいました」
食べる側の気持ちに寄り添い、喜びを与えるのは、どの分野にも共通すること。
2021年9月からは、またもや初挑戦となるパティシエとして働き始めた佐々木さん。『THE BELCOMO』で、チームの運営も重視しながら、デザートづくりのスキルを磨いている。
「うちはデザートのレベルも高いので、挑戦したいとずっと言い続けていたんですよ。デザートまでわかっていれば、コースメニューの組み立てにも活かせるはず。得るだけでなく僕からも、チームづくりの面で還元できればなと奮闘しています。これからは後輩の育成にも力を入れていきたい。若手が育つことでお店が強くなり、会社としても成長していけるでしょうからね」
さまざまなことに興味をもち、その一つひとつにのめり込む。なんでも前のめりに学び、没頭する姿勢は、学生の頃から変わらないという。専門学校の同級生とは今もつながっているとのこと。
「都内やフランスなどで活躍している友人たちの話を聞くと、もっと頑張らなければと刺激になります。下積みを重ねることや一つの道を追求するために、様々な困難を乗り越えていくことももちろん大切ですが、逆にそのことで食の世界が避けられてしまうのは残念です」
「食の業界で働くスタイルも多様になってきているし、食べる側の気持ちに寄り添うという面では、食のジャンルを超えて共通だと思います。食の世界に興味のある人は、何かしら『おいしい』と感動したことがあったはず。若くてもチャレンジできる時代になってきているので、これから進む人たちも、興味をもったなら是非踏み出してほしいと思います」
エコール 辻󠄀 大阪
辻󠄀カフェ&パティスリーマスターカレッジ
(現:辻󠄀調理師専門学校)
お菓子も、ドリンクも、料理も。カフェのすべてを本格的に学びとる。
スイーツ、パン、ドリンクから、西洋料理、エスニックまで。
おいしさで魅了するカフェをめざし、幅広い技術と総合力を養う。
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