INTERVIEW
No.175

食品メーカーで商品開発に携わりたいと、「自分が何にワクワクするか」を大切に進路を選択。目標が叶い、学んだことを生かせる毎日が楽しい。

エム・シーシー食品株式会社 商品開発本部 商品開発グループ

中西 優花さん

profile.
大阪府出身。大阪府立登美丘高等学校から3年制の辻󠄀󠄀調理師専門学校 高度調理技術マネジメント学科に進学。2021年に卒業後、兵庫県神戸市に本社を置く調理食品専業メーカー、エム・シーシー食品株式会社に就職。商品開発本部 商品開発グループで、商品開発に取り組んでいる。
access_time 2024.10.30

スーパーに並んでいるような商品を開発できたら楽しいだろうと、進路を模索。

兵庫県神戸市の調理食品メーカー、エム・シーシー食品で商品開発を手がけている中西優花さん。食に関する原体験は保育園の頃。近くの公園で採ってきたヨモギで団子をつくったり、集めたツクシやドングリを調理してくれたりと、食に関係する活動の多いところだった。それらの経験が楽しく、自宅でも母親に教えてもらいながら料理を始める。小学4年生のときには、近くの料理教室へ通うようになった。
「1年間、家庭料理やパンを習いました。つくること自体は楽しかったんですけど、決められたものではなく自分で自由につくってみたい、とも思うようになったんです。それまでは将来の夢としてパン屋さんも挙げていたんですが、毎日同じものをつくり続けるのは、自分には難しそうだとも気づけました」
やがて高校へと進み、進路を考える段階になると、浮かんでくるのはやはり「食に関わる仕事に就きたい」という願いだった。「自分で考えてつくってみたい」という思いも強まり、食品メーカーの商品開発に携わりたいという目標が見えてきた。
「スーパーに並んでいるような商品を、自分で開発できたら楽しいだろうなと思ったんです。そのため最も食品に関係があるだろうと農学部を受験したんですが、受かった第二志望の大学は農業がメインだったため、気持ちが定まらずにいました。すると母が辻󠄀󠄀調(辻󠄀󠄀調理師専門学校)を勧めてくれて…。学校のカリキュラムを見て、料理の技術に加えて研究も行う3年制の高度調理技術マネジメント学科であれば、食品についても学べるし、自分でレシピも開発できるし、将来につながるんじゃないかと進学を決めました」
辻󠄀󠄀調理師専門学校時代

初めて挑戦するジャンルの料理でも、和洋中の土台ができていると応用が利く。

1年次には、日本料理・西洋料理・中国料理の基礎技術を習得。そもそもプロの料理人を目指し3年制を選択しているからか、意識の高い学生が多く、周りとの差を感じることも多かったと振り返る。
「もともと知識があったり、言われたことがすぐできたりと、始めは周りの人たちのレベルの高さを感じ、気が引けることもありましたが、頑張って自分もできるようになろうと、意欲を高めていくようにしました。料理の技法や調理方法、味の付け方や組み合わせ方、食材の処理の仕方など、理論と並行して学び、和洋中の土台が自分の中にできたことは大きかったです」
辻󠄀調理師専門学校時代
一つのジャンルを掘り下げる2年次では、中国料理を専攻。授業で試食するものすべてがおいしく、「炒め物なのにここまでおいしくなるんだ」と驚いたことが決め手となった。
「家で食べる炒め物とこうも違うのかと感動し、もっと学びたいと思ったんです。中国料理って鍋一つで完結するのに、全然違うものができあがるのは、一つずつに理論があるから」
辻󠄀調理師専門学校時代
「たとえば麻婆豆腐にしても、材料もレシピもだいたい決まっていますが、なぜその豆腐を使うのか、なぜその切り方なのか、なぜそのミンチの炒め度合いなのか、なぜその調味料を入れるタイミングなのか、それぞれに理由があるんです。そのあたりは授業でも逐一質問され、答えるということを繰り返していました。これは今もなぜ?と考えて料理をするベースになっています」
辻󠄀󠄀調理師専門学校時代

学生のうちにいろんなシチュエーションを経験できるのは、すごく大事なこと。

後期には、3カ所の現場で約1カ月ずつ仕事を経験するキャリア形成実習へ。専攻や適正に応じタイプの異なる3カ所の実習先を経験する一般的なインターンシップとは一線を画した3年制独自のカリキュラムだ。中西さんは、まず京都のホテル、続いて大阪の中国料理レストランで実務に励んだ。
「ホテルの厨房では規模の大きな現場での調理の段取りや進め方、全体を見渡せる街場のレストランでは調理の様子や指示の出し方なども勉強になりました。教わりながら料理に挑戦させてもらえたのもありがたかったです。一連の経験が楽しかったので、料理人も将来の選択肢として考えられるなとも感じました」 
辻󠄀󠄀󠄀調理師専門学校時代
3カ所目は埼玉の結婚式場だった。西洋料理の厨房だったが、レシピの組み立て方や原価と売価の計算方法なども教えてくれる現場であったため、同じく商品開発に興味のある学生も一緒に研修したという。
3年次後期に参加した「第5回ジビエ料理コンテスト」では、猪肉を使った四川風の麺料理を提案。栄養価やつくりやすさにもこだわったレシピで、見事、「農林水産大臣賞」を受賞した
「与えられたテーマでレシピを考案し、料理長らに評価してもらう時間もいただけました。自分でいちから考えられて、すごくいい勉強になりましたし、調理も楽しいけれど、自分にとっての一番はやっぱり開発だとも再認識できました」
「第5回ジビエ料理コンテスト」賞状を手に

調理の楽しさを感じながら商品開発に携われる企業に、授業を通じて出会えた。

3年次には、自身でテーマを立てて追究する、調理研究実習に力を注ぐ。中西さんは、小麦粉を食べられない人や糖質を抑えたい人に向けて、大豆粉で餃子の皮をつくれないかと考え、試行錯誤を重ねた。
「小麦粉を使わずにおいしい生地ができたら、他の皮にも代用ができるなと考えたんですよ。ただ、大豆の粉はパサツキもあって、つなぐのが難しい。長芋などすった野菜で粘着力をつけようと、いろいろ試し、途中で先生にアドバイスももらいながら改良していきました。思うようにいかないこともあり、悔しい思いもしましたが、試行錯誤を繰り返し、最終的にやりきったことで自信がつきました」
2023年に創業から100周年を迎えた、「味の感動を伝える—。」をミッション(使命)とする調理食品専業メーカー
エム・シーシー食品を知ったのは、社員の方々による会社紹介がキャリアの授業で行われたからだ。その仕事内容や理念に魅力を覚え、授業後、人事の方に連絡し、就職の意志を伝えた。
豊富なラインナップの調理缶詰・レトルトパウチ・冷凍食品
「商品をつくる際、『調合ではなく調理する』という姿勢を貫いている部分に、最も惹かれました。ここなら商品開発をしたいという思いと、調理をすることが楽しいと感じてきた思い、どちらも満たせるはず。今まで実習してきたことも活かせるだろうと志望しました」

商品開発には調理技術も重要。加えて、プレゼン能力も必要になってくる。

2021年4月、エム・シーシー食品に入社し、商品開発本部の配属となった中西さん。家庭用業務用含めた、調理缶詰やレトルト食品、調理冷凍食品といった自社商品に加え、飲食チェーン店など他社商品の開発を手がける同社で、任せてもらえる範囲も広がってきている。
「以前は、チェーン店のカフェやスーパーで出されているカレーなど、他社さんからの依頼内容に合わせて商品を開発していたのですが、3年目からは自社商品も任せてもらえるようになりました。学生時代に学んだ中国料理をはじめとする調理のノウハウは、会社にある調味料や食材を組み合わせて味を覚え、積み重ねて仕上げる工程で活用できています」
辻󠄀調理師専門学校卒の先輩でもある商品開発本部シェフ(取材時)奥川 剛史(おくがわ たけし)さん(右側)
商品開発という仕事について、上司にあたる商品開発本部のシェフ、奥川 剛史さんは「調理技術は重要」だと解説する。
「調理食品を開発するメーカーなので、実際の調理工程も不可欠。そのため営業部や品質保証部などと違い、商品開発本部には調理の専門学校から多数入社していただいています。加えて営業スタッフらに対して、商品の特徴やこだわり、ポイントを説明する必要もあるのですが、中西さんの場合、プレゼン力にも素質を感じましたし、そういう勉強を重ねてきたことを、うかがい知ることができました」(奥川さん)

感覚だけに頼ると苦労するが、理論がわかっていると理想形に近づけやすい。

全国に流通する商品の開発は憧れでもあったし、やりがいも大きい。しかしレシピ開発のみでなく、生産面との調整もあり、越えなければいけないハードルも少なくない。2人は語る。
「レシピを何度も検証し、各方面からにフィードバックをもらうのですが、キッチンでつくるのとプラント(工場設備)でつくるのとでは、基本も違って再現するのは難しい。どういう食材を使ったら近いものとできるのか相談しながら提出を繰り返し、つくりあげていきます」(中西さん) 
「そもそも開発はキッチンで行いますが、生産するプラントで同じ味を再現するのは難しい。普通の鍋で試しながらも、実際の釜では1トンぐらいの肉を炒めたりするので全然違うんですよ。そのあたり、最初から感覚だけでやっていると苦労するんですが、中西さんは調理の理論を把握している分、的確に修正できるセンスがある。以前、途中から引き継いでもらった商品も、思いも寄らない段階で突然、完成度が上がったんですが、新たに取り組んでもらった商品でも、うまく味を再現してくれました」(奥川さん)
「例えば、油がおいしくなければ、料理もおいしくならない。これは学校でよく言われていたことなのですが、いかに油をおいしくするかも開発の大きなテーマにしています。また、肉をしっかり炒めることで旨味が感じられるようになります。家庭用商品では、一般層に受けることが重要。そこを理解しながら味を組み立て、イメージしている味わいを表現していくように心がけています」(中西さん) 
充実した家庭用商品ラインナップ。同社ホームページからオンラインショップでも販売されている(写真はその一部)

自分が何にワクワクするかを一番大事にするべき。

会社の組織変更に伴い、「今後は商品開発本部から発信する商品も増えていくと思う」と奥川さん。「個人個人が発案する企画も、これからもっと求められていくので期待している」と、中西さんにエールを送る。それに対し、強い意欲を見せる中西さん。
「商品ができて『おいしい』と言ってもらえることが、何よりうれしいです。営業スタッフらを通じて、生の声を届けてもらえるので、やりがいが大きい。つくり上げていく段階でも、いろんな発見があって楽しいですし、食材と調味料や香辛料などとの組み合わせで、新たな味につながっていく過程は、とても面白いです」
中西さんの今の目標は、「自分の開発した商品が広まり、より多くの人に食べてもらえること」。これまでを振り返り、進路を選ぶにあたっては、「自分が何にワクワクするかを一番大事にするべき」だと語ってくれた。
「私もこれまで『何が楽しかったか』で選択してきて、今、やりたい仕事ができています。自分がどの料理をつくると楽しいのか、どういう味が好きなのか、何をしているときにワクワクするのか。それらを無視してしまうと、やっぱり後悔してしまうのではないでしょうか。そういった感覚的な部分って、現実を考えようとすると、気づいていても無視しがちなので、ちゃんと認識したほうがいい。自分のやりたいことから先々を考えると、実現につながっていくと思います」

中西 優花さんの卒業校

辻󠄀調理師専門学校 launch

辻󠄀調理師専門学校

西洋・日本・中国料理を総合的に学ぶ

食の仕事にたずさわるさまざまな「食業人」を目指す専門学校。1年制、2年制の学科に加え、2016年からはより学びを深める3年制学科がスタート。世界各国の料理にふれ、味わいながら、自分の可能と目指す方向を見極める。
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